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いとお菓子

作者: まきなる

 

 ふと目についたコンビニで、ふと目にしたスイーツを買った。雰囲気のある場所で食べるわけではなく、安物のアールグレイとともに無機質な自室で過ごしていた。音楽を流し、自分のための時間を使っていた。



 甘いお菓子とストレートの紅茶は本当によく合う。ごく一般的なお菓子が一番おいしいのは、最初の一口。紅茶はその口の残った甘さを洗い流し、一口目のおいしさに戻してくれる。ストレートの紅茶はそのままではやはり飲みにくいが、口中の甘みのおかげでそれが無くなってしまう。


 

 窓を開けると、暖かくも寒くもない風が私の髪を靡いた。あの季節が終わってしまったのが身に染みていた。あの匂いは窓を開けても感じることはできなくなっていた。



 窓枠に腰をかけて外を見ると私の部屋のように、無機質なビル群が立ち並んでいる普段と変わらない風景がそこにはあった。実際にはこの時代の中で、様々な変遷を遂げているのだろう。でも、そんなことはどうでもよかった。今の私には、このぬるい紅茶を傾けるのがお似合いなのだろう。



 “ざっざっざっ”部屋に響く音楽の中にノイズが混じる。コップを机に置き、ベッドの上に飛び込む。スリッパは同時に宙を舞い、私に添い寝をしてきた。壊れかけのプレイヤー、空になったコップ、クリームが付いたビニール。どれも綺麗なものだ。



 6畳にも満たないその箱の中で、自分は暮らしている。閉じた瞼を開けて思ったのはそんなことだった。天井には家具なんてない。あるのは切れかけの蛍光灯のみ。いや、たった今力尽きたみたい。もう今日は寝よう。布団にくるまると、扉にしずくが当たる音がした。



 飛び起きて窓のそばに駆け寄ると、風が冷たくなっていた。冷え切った風が入り込んできたんだ。雫群は、私にとって綺麗なものを次々と覆って、汚していく。私の空間を崩していくその風景に、見とれてしまっていた。



 強く吹き込んだ風のせいで、部屋はバラバラのジグソーパズルのようになってしまった。けれども、そんなことはどうでもいい。今の私には、この冷え切った風が必要なんだ。




 窓を閉め、コップの底に残る死んだ紅茶を喉に通す。体はもう末端まで冷えていたけど、それは私を温めてくれる。

 

 口中の残滓はとっくに消えていたみたいだ。



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