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ゼアルに到着

午前中に森を抜けて、しばらく歩くと大きな壁に囲まれた町ゼアルが見えてきた。

ここで、装備と食料を整えて山を二つ越える。

そこまで行かないと、町がないのだ。

よって、入念に用意しなければならない。

我ながら、えらい所から出て旅をしてきたものだ。

溜め息をしてから、快晴な空を見上げる。


町に入る人はパラパラといるみたいだ。

町に入る受付をする為、門兵の所に並ぶ。

俺の前には数人いたが、直ぐに自分の順番が来た。

門兵にカードを手渡す。

カードを受け取った門兵は、俺を下から上まで見る。

これは危ない奴を入れない為に、しっかりしている証拠。

中には、不快に思う奴も居るみたいだが。


「一人か?」

「ええ、一人です。ミリから故郷に帰る為に来ました」

「へぇ、まだ若いだろう。もう、故郷に戻るのか?」


俺は困った様に笑う。


「どうやら俺はのんびりしたのが良いみたいです」

「そうか、気を付けてな?入って良しっ」


門兵の掛け声と共に、後ろに控えていた門兵が道を開けてくれた。

こうして、俺はゼアルに入った。


ゼアルに入ると露店が結構な数出ていた。

やはり、果物が多い。

おっ、あのキノコは・・・。


「ちょっと、あの赤い果物美味しそうじゃない。食べたいわ」


キノコの露店に向かおうとしていた俺の服の裾を、誰かが引っ張る。

ちょっ、強い。引っ張る力が強すぎだ。


「分かった、分かったから。行くから待ってくれエリア」


エリアと言われた女性。

水精霊様ことアクエリアは、俺の言う事も聞かずに引っ張っていく。


「ん~、これね。この二つ頂戴。ほら、会計宜しくねっ」


俺は腰にしているポーチから、お金を取り出しお姉さんに渡す。

銅硬貨2枚か・・・前は、4つで2枚だったはずだが。

まぁ、今日位は良いかと隣に居るエリアを見る。

幸せそうに手の平くらいの大きさの赤い果物、アピーを食べている。

俺の視線に気付いたのか、首を傾げる。


「何よ?」

「あ~、美味いか?」

「美味しいわよ、水々しくて甘いのも嬉しいわっ」


エリアは片手に持っていたアピーを俺に手渡す。


「俺の分だったのか?」


エリアは呆れた様に俺を見る。


「当たり前じゃない。何よ、私が独り占めするとでも思ったの?」

「・・・悪い、思った」


エリアはジト目で俺を見ると、片手で早く食べる様に促す。

なんだ、結構優しいじゃないか。

俺はアピーに齧りつく。

シャクッシャクッと、水分と同時に程良い甘さが口の中を占める。


「前に食べた時よりも甘いな」

「当然よ。私が選んだんだもの」


エリアはそう言い、続きを食べる。

俺は店員にお礼を言い、エリアについて来る様に手で促す。

不満に思う事もないのか、俺に促されるまま後をついて来る。


「所で、何処に向かっているのよ」


アピーを食べ終わったのか、エリアは俺の横に並んで首を傾げながら聞いてくる。


「宿探しだ」

「・・・まだ、昼前だけど?」


俺の答えに、訳が分からないという表情をしている。


「実はな、旅で一番大変なのは宿探しなんだよ」

「なんでよ?」

「冒険者や商人が町に訪れるのは決まって、午前中か昼頃なんだ。理由としては俺達みたいに近くで休息を取ってからというのと、昼頃から門の関所が渋滞するから」

「成程、それで宿ね?」


エリアは納得した様に頷く。


「そういう事だ。この時間に探しておかないと・・・」

「町に入れたは、良いけど外で寝る事になると」


エリアの言葉に俺も頷きで返す。

いや、駆け出しの頃には誰もが一度は経験するんだ。

そういう俺もやらかした事がある・・・。

そんな事を思い出しながら苦笑し、目的の場所へと足を進める。



「ちょっと、本当に道合ってるんでしょうね?」


エリアは俺の隣を歩きながら、訝し気に俺を見る。

そりゃそうだ。今、歩いている所は薄暗い路地裏の一本道なのだから。


「アンタ、私に変な事する気?」

「するかバカ」

「バっ?私にバカって言う人も初めてよっ」

「ほう?」


エリアは片手で頭を押さえると、呆れた表情をする。

いや、知らんがな。お前が変な事を言うほうが悪い。

ただ、大きい声を出さなかったのは褒めてやろう。


「で?」

「ん?」


エリアは疲れた表情で片手をパタパタさせながら言う。


「この道で合ってるの?」

「合ってるし、この先が目的地だ」

「目的地って・・・こんな所に宿があるの?」


エリアは薄暗い向こう側を見る。


「まぁ、知る人ぞ知るって所だな。意外と人気なんだ」

「・・・へぇ?」


ぁ、信用してないな?

まぁ、気持ちは分かる。


「直ぐに着くから、安心しろよ」



「本当に宿屋って、書いてある・・・」


エリアは呆れた様に行き止まりにある扉の上、看板を見て呟く。

だよな、俺も同じ反応したし。

俺はエリアの様子を他所に扉を開ける。

中に入ると外の薄暗さと違って、明るい照明を使っている為か胡散臭さがない。

1階は食堂になっている為、四角いテーブルがチラホラある。


「いらっしゃい」


野太い男の声がした方を見る。

仕込みでもしていたのか、カウンターの向こう側に居るガッシリした体付きをしたオッサンと目が合う。

オッサンは俺と目が合うと、驚いた様子で言う。


「オリエル・・・またなのか?」

「違う違う、今回は普通に泊まりに来ただけだ」


オッサンは俺の言葉に、安心した様に溜め息を一つした。

その反応に俺は困った様に笑い、片手を振る。


「1週間、泊まりたいんだ。部屋は二つ。あるか?」

「ああ、大丈夫だ。丁度、今日団体客が居なくなってな。沢山ある。・・・それより、二つ?」


俺は、顎で後ろをついて来ていたエリアを指す。

俺越しにエリアを見たオッサンは、疲れた表情になる。


「セキューナとドミニスは知ってるのか?」

「何で、あの二人の名前が出て来るんだよ」

「お前・・・冗談だろ?」


ジト目見てくるオッサン。やめろ、眼光がキツイ。

いや、気付いてるから。二人が俺に少しなりとも好意を持っているのは、気付いてるが。


「そういう意味じゃない。故郷に帰るのに、二人はついて来てもしょうがないだろ?」

「・・・訳を聞いても良いのか?」

「良いが、喉が渇いたんだが」


オッサンはカウンターの上に木製のコップを用意し手招きした。

さぁ、話せって表情で。

俺はエリアにカウンターを指差し、促す。



「加護を断られた・・・ねぇ」

「断ってないわ」

「ああ、だからそれを機に故郷に戻ろうとな」

「セキューナとドミニスはごねただろう、可哀そうに」

「私の方が可哀そうよ」

「・・・むしろ、怒ってたよ。もう、怖いぐらい」

「そりゃぁ・・・なぁ」

「私も怒ってるんだけどね」


・・・おい、そこの水精霊喧しいぞ。


オッサンもエリアが呟いている内容が気になるのか、チラチラとエリアを見ている。

エリアは気にした様子もなく、不満気にブドウジュースを飲んでいる。


「あぁ・・・オリエル?処で、そのお嬢さんは?」

「・・・それを言う前に、今日・・・俺達以外に客の予約は?」

「いや、今の所はないが・・・」


なら、今の時間だけならいいか?

俺はエリアを見ると、フードを取ってもいいと手草で教える。

エリアはニンマリと微笑み、フードを取る。

オッサンには、恋仲のそれに見えたのか。


「おいおいオリエル、お前や・・・っぱ・・・」


最後の「り」が出てこない程の絶句である。

初めて見るオッサンの絶句。嬉しくない。

エリアがフードを取ると綺麗な艶がある水色の髪が零れる。

エリアは手を団扇代わりにパタパタさせながら言う。


「ようやく取れたわっ。気付かれない為とはいえ面倒臭くて、暑苦しくてもう」

「ア・・・アアク・・・」


オッサンはエリアを見て壊れたブリキの玩具みたいに俺を見る。

気持ちは物凄く分かるが、落ち着け。

エリアはオッサンの挙動を気にせず、開放感溢れる良い笑顔をしている。


「この宿屋なら良いの?」

「他の客が居ないみたいだから、今はな」

「ふ~ん?」


ここで、ようやくエリアの目にオッサンが止まる。

凄い、オッサンの青白い顔って初めて見た。


「ア、アクエリア様ですか?」

「あら、私を知っているの?ここはイフリアの管轄、のはずなんだけど」


オッサンはエリアの返事を聞くと、俺を見て。

ぶっ倒れた。

・・・勘弁してくれ。

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