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異世界開拓記  作者: 久万聖
はじまり
8/21

誤解が解けた。

 ヤバイ。


 マジでヤバイ。


 つがえられている矢は、明らかに自分を標的にしてる。


 こういう時はどうすればいい?


 こんな命のやりとりになるような事態は、全然想定してないぞ。


 もっと、そう友好的な遭遇を期待してたんだけど・・・。


 サティを保護もしていたし。


 穏便にいくと思ってたんだよなあ。


 楽観視しすぎてたなあ。


 だけど、すぐに射ってこないところをみると、なにか理由があるのかもしれない。


 そう思うと、ちょっとだけ落ち着いてきた。


 少し観察する心の余裕ができたので、相手の様子を観察してみる。


 エルフってのは、色々な話の中でも先進的な文化を持ち、そして高貴な種族ってことになっている。


 だけど、目の前にいるエルフたちの身に付けている衣服は、貫頭衣よりはマシでもけっして高貴な種族が着るようなものじゃない。


 そのことに気づいた俺は、相手の持っている弓に目を移す。


 弓に詳しいわけじゃないけど、そんな俺にも良い弓でないことはわかる。


 だからといって、あの弓から放たれる矢を躱せるなんて思いもしないけど。


 武芸の達人だとか、そこまでいかなくても段持ちならなんとかなるかもしれないけど、生憎と自分はそうじゃない。


 さあどうしよう?


 そんなことを考えていると、エルフたちの間でなにやら会話がされている。

 大きな声で話してくれていれば、自分にも聴こえるのに。


 視線を移してサティを見ると、母親らしき女性に抱きしめられていて動きが取れないみたいで、心配そうな目でこっちを見てる。


 再び弓を構えているエルフたちに視線を移すと、若い女エルフがなにやら困惑したような表情で、自分とサティに視線を何度も移しながらリーダーっぽいエルフに何かを言っている。


 少なくとも自分に敵意が無いことは、あの女エルフには理解されたように思える。


 なら、あと一押ししなければ。


 ナイフとエアガン、サバゲー用の手榴弾を明後日の方向に投げ、両手を挙げる。


 これで、こちらに敵意が無いことは完全に伝わる・・・・・・、はず。


 エルフたちが次の行動に移るのには、もう少しの時間が必要だった。



 ーーー



 駆けてきたサティを発見して、エステリが歓喜の声をあげる。


 見慣れぬ服装になってはいるが、間違いなくサティだ。


 だけど問題はこの後、サティを追いかけてきたと思われる人間の存在だ。


 足止めするためにラウリが矢を放つ。


 人間は一人とは限らない。


 私たちは油断なく、追いかけてきた人間に矢を向けている。


 その距離は五十メートルくらい。


 私たちの技量うでなら、まず外す事のない距離だ。


 人間も何かを感じたのか、動こうとはしない。


 追いかけられる事のなくなったサティは安心しているだろう、そう思ってサティを見ると、むしろ不安そうな表情を私に向けてくる。


 私たちが倒される?

 いや、そんな表情じゃない。

 じゃあ、なぜそんな表情を?


 もう一度人間を見て、それからサティを見る。


「あっ!?」


 サティの服装も見慣れぬものだが、同時にあの人間の服装も見慣れないものだ。


「巫女様の預言?!」


『東に向かいなさい。

 そこには見慣れぬ衣服を纏った人間がいる。

 そこで貴女たちは安住の地を得るでしょう。』


 見慣れぬ衣服を纏った人間とは、あの者のことではないのか?!


「ラウリ!」


「どうした、レーア。」


 ラウリは油断なく相手を見据え、弓を構え続けながら私に声を返す。


「もしかしたら、あの人間こそが巫女様の預言の者かもしれない。」


「なに?!」


 ラウリも流石に驚きを隠せないが、それでも構えを解くことはない。


「見た事のない衣服を纏った人間、巫女様はそう預言された。

 あの人間の衣服も、それにサティの着ている服も私たちには見慣れないもの。

 可能性は十分にあると思う!」


 無論、私の言うことは可能性でしかない。

 だけど、あの人間がサティを保護して着替えさせた、そう考えることはできないだろうか?


 サティの表情も、私たちが倒されるとかではなく、恩人が傷つけられることへの不安だとしたら?


 なんとか、ラウリに話しかけて攻撃を止めるようにしなければ。


 そう私が考えた時、まるでそのことを理解したかのように人間が行動に移している。


 何かを明後日の方向に投げたのだ。


 その中のひとつに、刃物のような物が見て取れたことを考えると、武器なのだろうと思われる。


「カナメ、いい人!

 だから射っちゃダメ!」


 サティのその言葉が決定的なものになった。


 ラウリが構えを解き、皆に弓を下ろすよう合図をした。


 みんなが弓を下ろすと、エステリの拘束が緩んだのだろうか、サティが人間のところに走っていく。



 ーーー



「カナメ、大丈夫?」


 向けられた弓が下げられ、安堵の息を吐くと同時にその場にへたり込んだ自分のもとに、サティが駆け込んできて心配そうに顔を覗き込む。


「大丈夫だよ。」


 そう言ってサティの頭を撫でるが、ちびりそうになっていたのは内緒だ。


「よかった。」


 サティはそう言って頬擦りしてくる。


 うん、可愛い。


 そんなことをしている間に、エルフたちがそばに来ていた。


「カナメ!

 わたしのお母さん!」


 サティが紹介していく。


「サティの母、エステリと申します。

 娘を保護していただき、感謝にたえません。」


 サティのお母さんの、丁寧な挨拶。

 なにか気品を感じられるあたり、それなりの身分なのかも。


「私はラウリ。この一団のリーダーを努めております。

 同族の者がお世話になりながら、無礼をはたらいてしまい、申し訳ございません。」


 そう言って頭を下げるのは、リーダー格だというエルフ。


「俺、じゃなくて、私はカナメ。

 本山要。見ての通りの人間だけど、貴方たちと事を構える気はないよ。」


 やっと言えた。

 サティから聞いてはいたからな、この世界の人間と仲が悪いのは。

 少なくとも、俺に敵意が無いことを伝えたかったんだよ。


「それより、不躾な言い方だけどお腹が空いているんじゃないのか?

 そちらから腹の虫が鳴いている音が聞こえるんだが・・・」


 特に、ラウリの隣に控えている若い女エルフから。

 その若い女エルフが顔を真っ赤にしているのを見ないフリして、


「簡単なものだけど、軽食くらいのならすぐに出せるから。

 食べながら話をした方がいいんじゃないかな?」


 空腹じゃ、いい考えも浮かばないだろうしね。


「心遣い、ありがとうございます。

 お言葉に甘えさせていただきます。」


 ラウリがそう返答したことで、テントを張った場所まで戻ることになった。






 ☆ ☆ ☆






「なるほどね。

 神様の言葉を受けて、ここに来たと。」


「はい。」


 用意していた焼き芋を食べながら、エルフたちと話をする。


「なんでそこまで君たちを毛嫌いするようになったんだ?

 少し前まで、それなりに良い関係だったんだろ?」


 いや、こっちの世界でも似たようなことはあったらしいとは聞いてるよ。

 ユーゴ紛争の時の、セルビア人とクロアチア人みたいに。


 でもユーゴ紛争が起きたのは、チトーとかいう強烈なカリスマを持った指導者が死んで、箍が外れたのが大きな要因だったようなことを読んだ気がする。


 他に歴史的に、セルビア王国とクロアチア王国の争いがあったとかなんとか。


「残念ながら、私たちには皆目見当がつかず・・・」


 ラウリの言葉に、


「少なくとも、ここ数百年は争うようなことはありませんでした。」


 サティのお母さん、エステリが続く。


「そっちの方は、今は考えても仕方ないか。」


 あまりこちらの世界にのめり込むのは、拙いかもしれないからなあ。

 巻き込まれる可能性もあるし。


「それにしても、この焼き芋というのは甘くて美味しいです。」


 アルヴォという若い男のエルフが、焼き芋を文字通りに貪りながら感想を口にしている。


「こ、こらアルヴォ!」


 真面目な話をしているときに、茶化されたと感じたのかもしれないラウリが嗜めようとする。


「いいよ。だけど、ここで食べすぎると、夕食が食べられなくなるよ。」


 実のところ、話をしながら夕食のための調理をしていたりする。


 だけど、エルフたちの食べっぷりが凄い。


 本当に、逃亡生活でろくに食べてないんだなあ。


 栄養のあるものを食べてもらった方がいいと思って、牛乳と牛肉と野菜たっぷりのシチューを作っている。


 ガスコンロを弱火にして、持ち込んで来た予備のテントを二つ張ることにする。


 エルフたちに手伝ってもらったから、すぐに終わったけどね。


 そして、夕食を食べ終わるとよっぽど疲れてたんだろうな。


 エルフたちは男女に分かれてテントに入ると、すぐに眠っちゃった。

 サティも、お母さんといる安心感からか一緒に寝てるし、ちょっと寂しい気分。


 まあ、自分も明日に向けてやりたいこともあるからいいか。





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