遭遇
洞窟の先の、手付かずの原野を見てから三日。
村の人たちにそれとなく祠のことや、その裏の洞窟のことを聞いているけど、誰も洞窟のことを知らない。
人によっては、祠のことすら忘れている人もいるからなあ。
でも不思議なのは、何人かはお社を見に来ているのに、洞窟に気付かないんだよなあ。
なんでだろう?
よくある選ばれた人間にしか見えない、とかか?
・・・・・・・。
うん、そんなことあるわけないな。
選ぶなら、平々凡々な一小市民な俺なんて選ぶ筈がない。
じゃあ、あの洞窟はどうしようか?
閉鎖する?
うーん、ホントにどうしよう?
いや、あっちも開墾して農地にしたらどうだろう?
あっちでも生産できたなら、それをこっちに持ち込んで販売する・・・。
そうすれば収入アップできる!!
いや待て。
たしか農産物の流通って、農協やらが関わってなかったっけ?
うーん・・・・。
あ、農協から肥料とか買ってなかった。
村で飼育してる牛や豚、羊や山羊の糞から作る堆肥を使ってた。
うん、農協の件はパスできる、と。
多分。
他に考えないといけないのは・・・
・・・
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
ダメだ。
考えすぎて頭が痛くなってきた。
こうなったら“案ずるより産むが易し“だ。
行動あるのみ!!
ということで、早速行動。
まずは現地調査から。
徳さんに三日ほど留守にすることを伝えて、軽トラに乗って出発!!
持って行くのは三日分の食料に、双眼鏡とテントとノートパソコン、そしてドローン!!
可能な限り広範囲で空撮して、地図を作らなくちゃいけないからね。
その為にはドローンは必須!
まずは洞窟の出口にテントの設営。
なんでこんなところに設営するかって?
なにか変な生き物が出てきたら、すぐに洞窟を通って逃げるためさ。
最初の調査は洞窟出口周辺の様子。
パッと見でわかるのは、ここが小高い丘になっていることだけ。
だから、この周囲のこともしっかりと確認しなくては。
あとは水の確保。
この地を開墾するなら、絶対に必要なことだ。
早速、ドローンを飛ばすのだけど、ここで想定外のことが。
いや違う。
想定しなきゃいけないのに、思いっきりぬけてたこと。
こっちにGPSが繋がってないこと。
おかげでドローンは、目視できる範囲でしか飛ばせない。
こ、これでは余計に手間がかかってしまう・・・。
なので、とりあえずドローンで周囲を撮影し、気になるものがあれば自分の足でそこに行ってチェックする、しかない・・・。
ま、まあ、これでも昔の人たちに比べれば楽に違いない・・・。
きっと・・・。
でも、人手が必要だよなあ。
神代村の人たちに手伝ってもらうわけにもいかないし・・・。
うーん、今はまず少しずつでも調査を進めよう。
・
・・・
・・・・・
・・・・・・・・
集中してやってたら、もう夕方になってた。
昼も食べずにやってることに気づいた。
テントに戻って、とりあえずは食事にしよう。
あれ?
テントの前で誰か倒れてる?
ん?
小柄な・・・、幼女?!
ま、ま、ま、ま、ま、まさか、事案発生?!
お、落ち着け俺!
し、深呼吸、深呼吸。
すー、はー、すー、はー。
落ち着いたら近づいて、まずは観察。
見た目は幼稚園年長さんくらい。
ずいぶんと汚れているな、主に泥で。
遊び疲れて、それで迷子になった?
それなら他にも子供がいて良さそうだけど・・・?
だけど、周りに子供らしき姿どころか、人影ひとつ無い。
褐色の肌と、泥に汚れた長い黒髪。
目鼻立ちは整って見える。
成長したら美人になるだろうな、きっと。
呼吸は落ち着いているようだし、起こすのもなんか悪いような気がする。
とりあえず抱き上げて、テントの中に寝かせよう。
ん?
目の端に、涙の跡がある。
何があったのだろう?
この子が起きたら、色々と聞いてみよう。
あれ?
その前に、言葉が通じるのかな?
ま、まあ、それは起きてから確認するとして、まずは腹ごしらえ。
そして、この子が起きた時にすぐ食べられるよう、何かを作ろう。
そう考えて、食事の準備を始めた。
☆ ☆ ☆
このエルフ耳の幼女が目を覚ましたのは、俺が食事を終えて食後のお茶を飲むためのお湯を沸かしている時だった。
「う、うーん・・・」
目が覚めたようなので声をかけてみる。
「大丈夫、かな?」
遠慮がちな声かけは、言葉が通じるかわからないから。
エルフ耳の幼女は、寝惚けたような焦点の合わない瞳をこちらに向ける。
やがて意識がハッキリしてきたのか、焦点があってきたようだ。
「に、ニンゲン?!」
俺を見て怯えたような声を出されると、地味に傷つくんだけど。
慌てて俺から距離を取ろうとして、足が縺れたのか倒れる幼女。
それでも、言葉が通じるらしいことを知ってホッとする。
「なにもしないから。怪我はないかい?」
幼女は俺の言葉に、
「ホントに、ホントになにもしない?」
怯えたような声は変わらない。
「なにもしないよ。それよりも、お腹は空いてないかな?」
そう言いながら、レトルトのシチューを片手鍋に開けて、カセットコンロにかける。
これは、匂いを漂わせることで食欲を刺激して、警戒感を解すのが狙いだ。
その一方で、お茶用に沸かしていたお湯に水を差して人肌くらいに冷まし、タオルを絞る。
シチューの匂いに釣られて近づいてくる幼女を捕まえると、タオルで顔を拭いてやる。
最初こそジタバタと抵抗されたものの、温かいタオルが気持ち良かったのか、すぐに大人しくなる。
漂っているシチューの匂いに負けたからかもしれないけど。
鍋のシチューを木皿に移し、木のスプーンを添えて幼女に渡す。
幼女は驚いたように俺に視線を向けるが、空腹に耐えかねたように、スプーンで掬うと一口、また一口と食べていく。
「よっぽどお腹が空いてたんだな。」
思わずそう口にしてしまうくらい、このエルフ耳の幼女は勢いよくシチューを食べている。
「おかわり、いるかい?」
俺の言葉に、幼女はこくこくと頷くことで意思表示をみせてくれる。
今度はレトルトパウチから直接、幼女の持っている木皿に注ぎ込む。
それをさっきと同じように、勢いよく食べているが、今度は半分ほどで手が止まる。
死んだ妹も、これくらいの年頃だったっけなぁと、感慨深く見ていたら、幼女が泣き出した。
「えっ?!な、なんで?!」
わけがわからずパニックになる俺と、大泣きする幼女。
と、とにかく幼女が落ち着くまではと、抱きしめてあげる。
邪な気持ちなんてないからな?
俺は幼女趣味じゃないんだから。
しばらくの間、抱きしめていたら泣き疲れたようで、幼女は眠っていた。