候補者選定
日本。
伊勢にてアマテラスは八百万の神々を招集して、会議の内容を報告する。
「またですか。」
異世界からの応援要請の話を聞き、うんざりした顔をする神様多数。
「姉上様も、もっとはっきりと拒絶されても良いのではありませんか?」
とは月読の言葉だが、この場に集まっている八百万の神の総意と言ってもいい。
異世界からの応援要請、これに応えることが悪いとは思わない。
だが、あまりにもその負担が日本人にかかり過ぎてはいないか?
その思いが強くある。
無論、あちらの言い分もわからないではないが、それも自分たちが手をこまねいていたことが原因ではないか。
そんな思いが表情に出ている。
「たしかに、日本人に負担をかけ過ぎておるが、今回はまだきちんと要請してきただけマシであろう。
強引に連れ去った者共も多いのじゃからな。」
そう言われると、一同は苦い表情になる。
そう、それも一人二人なら兎も角、時には数十人を一度に連れ去ることもあったのだ。
ただ、そうことをやらかした異世界の神には、後で強烈なお仕置きが加えられたのだが。
「それで、候補者は決まっているのですかな?」
大国主の問いかけに、
「決まっております。」
菅原道真は答え、資料を主だった神に配る。
「ほほう、本山要か。
なかなか良さそうな者じゃないか。」
「さすが道真じゃな。
良い人選をする。」
神々の感触は良好のようである。
「本当にこの者を、彼方の世界に送るのですかな?」
大歳神が何か言いたげに、口にする。
「おや、大歳神はこの者をご存知なのですかな?」
大国主が尋ねる。
「この者は、数年前より私の祠のある神代村によく来てくれておる若者じゃ。」
大歳神が答えると、
「はい、そのことは存じております。」
と道真が伝える。
「それから、向こうの世界に送るのではなく、行き来できる道を繋ぎます。」
その言葉に色めき立つ神々。
「繋ぐということは、向こうからも来る可能性があるのではないのか?
それは本当によいのか?」
そう、過去に繋がれた道から怪物がやってきたなどということもある。
日本では大した怪異は入ってきてはいないが、他の地域では甚大な被害が出たこともある。
「そこは、管理は我々に任されております。
また、向こうの世界の神にも、そういった怪異が侵入することがないようにしてもらうことも、確認済みです。」
「なるほど。すでにそこまでしておったか。」
「はい。ですので、一方的に送り込むわけではありません。」
その説明に大歳神も納得する。
「今時珍しい若者じゃからな。
わざわざ、人間のいうところの限界集落に移住しようという若者じゃ。
むざむざと、むこうに行かせたくはなかったでの。」
ホッとした様子の大歳神。
「たしかにその通りです。
ですので、今回は異界への道を神代村に繋げます。」
「神代村に繋げる?」
「はい。その本山要も移住するということですし、また他の人間の目につきにくい限界集落。
我々としても管理がしやすい。」
「たしかにその通りじゃな。
移住するというなら、それを利用するのも当たり前か。」
まとまりかけたその時、天鈿女が発言する。
「この、本山要の親族に気になる名前があるのですが?」
「気になる名前?」
「ええ、この系図を辿ると遠い遠い親族に、来生春樹という名があるのですが、まさかあの来生家、ですか?」
「来生家?」
「はい。別の異界に繋がる扉を管理している者です。」
それを聞いて神々たちは思い出す。
三十日に一度、異界に繋がるために現れる扉の存在を。
その管理を任せたわけではないが、事実上管理している来生春樹が理性的に対応しているため、問題は起きてはいない。
「そちらにも監視の目をつける必要があるか。」
「そうじゃな。」
そちらに対しても同意が形成される。
「それで、神代村とその異界、いつ道を繋げるのだ?」
「三年後を目処にしています。
ですから大歳神、貴方にはこの本山要に農業のイロハを叩き込んで欲しいのですよ。
異界でも通じるように。」
「わかりました。じゃが、彼一人だけで大丈夫ですかな?」
「はい。そちらが軌道に乗り始めた頃、他国の者がそちらに派遣されることになっております。」
「他国の者?」
「汚名返上の機会が欲しいとのことですので。
また、日本人も幾人か送ることになるでしょう。」
「なるほど、わかりました。
彼のやろうとしていることも、ある程度軌道に乗せなければなりませんな。」
「そのためには、他の神たちにも協力をお願いいたしますので、その時にはよろしくお願いしますよ。」
これにより、本山要が異世界への文化発展に力を貸すことが決定され、また日本の神さまたちも間接的ながら協力することが決まったのである。