腹ペコ魔女の家の中で。2
「ただいま戻りました。」
レナさんが戻ってきた。
口のまわりにジャムとパンの食べかすがついている。
ここは気にしないでおこう。
レナさんがいない間に窓の外を見たり、部屋のなかを観察していて気づいたことがある。
この世界は地球の二倍の速さで一日がすすむ。
もう夜中だ。こんな常識すら知らないのでレナさんに教えてもらう必要がある。
どう伝えれば良いか悩んでいるとレナさんが口を開いた。
「キョータさん、突然ですが私の弟子になってみませんか?」
驚くべき提案だった。ただ何故俺なのかわからない。
「いきなりでは戸惑うと思うので説明させていただきます。私はSSランクの冒険者として活動しています。」
サポートブックによるとSSランクは歴代で5人しかいない冒険者の最高峰だ。
冒険者のランクは実力や人柄、地位に応じてEからSSで決まる。現役のSSランク冒険者は3人しかいないらしい。
その中の一人がレナさんなわけだ。
「私がSSランクになれたのは師匠の訓練を受けたからに他なりません。師匠は現在他界しましたが、私は師匠の技を受け継いでいます。そして私以外に師匠の訓練を受けた者はいません。もし仮に私が冒険者を続けられなくなったときにこの技を後世に残すことができなくなってしまいます。だからあなたを弟子にして技を伝えたいのです。」
理解はできたが俺に厳しい修行を耐える気概は無い。
断らせていただこう。
「俺は長い時間厳しい訓練に耐える気概は持ち合わせていません。それに自分で言うことではありませんが、戦闘能力も一般常識もほとんどありません。自分は弟子にむかないと思います。」
「あなた、転移者ですよね?」
レナさんが真っ直ぐに俺を見つめて言った。
そして言葉を続ける。
「さっきの大きな魔力の発生は転移魔法によるものでしょう。それもかなり大規模の。私も今まで2人の異世界人と接したことがあります。そのひとの大切にしていた衣服とあなたの服装は同じではありませんが、似ています。それに私の名前を知らない常識外れ。これでも私って有名なんですよ。キョータさんは異世界人で間違いありませんね?」
「はい。その通りです。」
嘘をつく理由もない。俺は正直に答えた。
「ならレベルは1のはずです。下手に育っていると修行に失敗する可能性が高いのです。それにおそらくキョータさんには身寄りがない。住み込みで私の弟子になってもらえませんか?」
よく考えると俺にとってメリットばかりの提案だった。
この世界のことをレナさんから聞くこともできるし、住み込みなら寝床も確保できる。
危険な異世界で戦う力を手に入れられる。
それに師匠になるひとは相当な美人。
しかし一つだけ問題がある。
「俺には魔力がありません。」
そう。何故か俺には魔力が無いのだ。
さすがに才能の欠片もない弟子をおいてくれるほど優しい人はいないだろう。
「知っていますよ。師匠もそうでしたから。異世界人の方はたまに魔力を持たない方がいると聞きました。キョータさんもそうなのでしょう。安心してください。魔力が無くても強くなれます。」
憂いは無くなった。
ハッキリとした声でレナさんに伝える。
「よろしくおねがいします!レナさん!」




