森の奥で。1
俺は森の奥へ進んでいく。
寝床を探すためだ。
大きめの木の洞なんかあればよいのだが、無ければできるだけ動物や魔物に見つかりづらい位置を見つけるつもりだ。
川の位置を見失わないように木にナイフで目印を付けながらゆっくりと歩いていく。俺は方向音痴だ。
ヒント無しできた道を戻るなんて芸当はできない。
既に日は沈みかけている。このまま適当なところで寝ればせっかくの異世界で初日に食われておしまいなんてことになりかねない。そんなのごめんだ。
「グルゥルルゥ」
低く響くような音が近くの茂みから聞こえてくる。
魔物か?野生動物か?
どちらにせよ小さなサバイバルナイフしか持っていない俺では戦うことはできない。
ここはできるだけ物音をたてずに後退するのが吉であろう。
気づくなよ、気づくなよ、と心の中で願う。
俺は茂みから目をそらさずに一歩後退した。
「パキッ」
俺は得たいの知れない音に気をとられて足元の小枝に気がつかずに踏んでしまった。
まずい。非常にまずい。
茂みがガサゴソと音をたてて揺れた。
これは気づかれたか…
俺は踵を返して一歩を踏み出そうとする。
森の魔物や野生動物に敵うわけが無いが、万にひとつの可能性にかけて全力疾走しようとしたのだ。しかし…
「あのっ!」
透き通るような美しい声が俺を呼び止めた。
「誰かいるんですか!?助けてください!」
女性のその声は必死に俺に話しかけてくる。
俺は危険を感じつつも声に引かれてつい答えてしまった。
「どうかしましたか?」
俺の声は緊張と疲労で少しひきつっていたかもしれない。
しかしできるだけ、落ち着いて言ったつもりだ。
俺はゆっくりと茂みに近づいていく。
サバイバルナイフはマジックポーチにしまった。
相手に襲われる可能性もあるが、これはまたとないチャンスだ。
相手に恐怖を抱かせるわけにはいかない。
俺はサポートブックや筋骨隆々地蔵からしかこの世界の情報を知らない。
現地の人々から得られる情報は俺にとってとても貴重であろう。
例えば町の方向や、一日の長さ、お金の使い方など知らないことはたくさんある。
そんな期待を込めて茂みの裏をみるとそこには美しい女性が座りこんでいた。
年齢は俺のもといた世界で20代前半であろうか。
俺と同じか少し高いくらいの身長で、青い目と長いブロンドヘアをしている。薄い緑のワンピースのような服装と白い肌。
一瞬見とれるほど美しいが少しやつれているようにも見える。
「どうかしましたか?」
もう一度声をかける。
相手の姿がみえたことで少しだけ恐怖が収まった。
「あのっ……お腹が空いて動けないんです…」
美女はうつむきながら俺にそう伝えた。




