美少女 2
つい先刻通ってきた花道を下っていく。
その道は変わらず美しいが、今はより一層美しく見える。
それは、その美しい道に美しい少女がいることによる相乗効果だろうか。
オレは前を歩く千歳のあとをついていく。
やがてガードレールが見えてきたとき、千歳がオレに尋ねてきた。
「勇也くんは今は何をされているんですか?」
興味津々といった様子で尋ねてくる。
「何をって言われてもな......フツーに高校生をやってるけど」
両腕を広げ、着ている制服をアピールする。
この格好を見れば、わざわざ聞くまでもない質問だと思うのだが......。
「そういえば、学校はどうされたのですか? 制服を着ているということは、まだ夏休みには入っていないのでは?」
さらに質問を重ねてくる。
まぁ、その原因はお前にあるんだけどな。
「あぁ、今日が終業式だったんだけどな。登校中にあの黒塗りの車が見えたから追いかけて来たんだよ」
「へぇ、私を追いかけて来てきくれたのですか。......ふふっ」
ふふって......オレがどんだけ苦労したか分かっているのか。
「何がそんなに可笑しいんだ?」
変わらず千歳は嬉しそうに笑い続ける。
「いえ、海外の病院で見ていた恋愛ドラマを思い出してしまって。主人公がヒロインの乗る電車を
その横でずっと追いかけるっていう感動的なシーンがあるんですけど、まるでそのシーンみたいだなぁ......って」
それはまた何ともベタなシーンだな。何処と無く昭和の臭いがする。
「そうか、その主人公も大変だな。オレならタクシーに乗って追いかけるけど」
わざわざ走って追いかけるなんて真似は、金輪際しないと今日心に決めた。
オレと同じ災難に見舞われていたその主人公に同情の念を送る。
すると、何故か千歳が驚きの表情を浮かべた。
「よく分かりましたねっ。そうなんですよ、なんとその主人公タクシーに乗ってその電車と並走してたんです。普通なら走って追いかけるだろうけど、凄く冷静な判断ができる人なんです!」
何だその微妙な画は。
あれは徐々に遠ざかるのを惜しみながら、それでも電車を追いかけるのが醍醐味なシーンだろう。
並走してどうする、並走して。
「ありがちなドラマだと思ったけど、中々に個性的なドラマじゃないか」
むしろ一周回って興味が湧いてきた。
「ええ。そろそろ新作としてDVDが発売される頃でしょうから、よろしければ今度一緒に見ましょう」
しかも割りと最近のドラマだったらしい。
テレビなんかまともに見ないから知らなかった。
「そうだな、機会があればな」
そうこうしている内に、二手に分かれている道が見えてた。
オレが登ってきた道ではなく、先程選ばなかった道の方へと歩を進める。山頂へと続く道だ。
今までの下り坂から上り坂へと変わる。
黙々と歩いていても退屈なので、今度はオレから尋ねてみることにしよう。
「そっちはどうなんだ?」
「え?」
「この十年間、なにかあったりしなかったのか?」
しばらくの間千歳は考え込む。
「うーん、そうですねぇ......実は、退院したのは一年ほど前なんです。それまではずっと病室に籠りきりだったので、これといったエピソードはないんです」
「? 体が治ってからの一年間は何してたんだ?」
病室に籠っていた間は仕方ないとして、治療が終わった後の時間は好きなことができるのではないか。
「治って退院した後も、通院とかで忙しかったので......」
「......そうか」
しばらく沈黙が続いたが、やがて千歳が笑顔で振り返ってきた。
「だから、今から沢山思い出を作るんです!」
貴方と一緒に、という千歳の言葉にオレは何も言うことが出来なかった。