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十年前の約束 君を幸せにする約束  作者: 東頭明治
プロローグ 十年間
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美少女  2

 つい先刻通ってきた花道を下っていく。

 その道は変わらず美しいが、今はより一層美しく見える。

 それは、その美しい道に美しい少女がいることによる相乗効果だろうか。

 オレは前を歩く千歳のあとをついていく。

 やがてガードレールが見えてきたとき、千歳がオレに尋ねてきた。

 「勇也くんは今は何をされているんですか?」

 興味津々といった様子で尋ねてくる。

「何をって言われてもな......フツーに高校生をやってるけど」

 両腕を広げ、着ている制服をアピールする。

 この格好を見れば、わざわざ聞くまでもない質問だと思うのだが......。

「そういえば、学校はどうされたのですか? 制服を着ているということは、まだ夏休みには入っていないのでは?」

 さらに質問を重ねてくる。

 まぁ、その原因はお前にあるんだけどな。

「あぁ、今日が終業式だったんだけどな。登校中にあの黒塗りの車が見えたから追いかけて来たんだよ」

「へぇ、私を追いかけて来てきくれたのですか。......ふふっ」

 ふふって......オレがどんだけ苦労したか分かっているのか。

「何がそんなに可笑しいんだ?」

 変わらず千歳は嬉しそうに笑い続ける。

「いえ、海外の病院で見ていた恋愛ドラマを思い出してしまって。主人公がヒロインの乗る電車を

その横でずっと追いかけるっていう感動的なシーンがあるんですけど、まるでそのシーンみたいだなぁ......って」

 それはまた何ともベタなシーンだな。何処と無く昭和の臭いがする。

「そうか、その主人公も大変だな。オレならタクシーに乗って追いかけるけど」

 わざわざ走って追いかけるなんて真似は、金輪際しないと今日心に決めた。

 オレと同じ災難に見舞われていたその主人公に同情の念を送る。

 すると、何故か千歳が驚きの表情を浮かべた。

「よく分かりましたねっ。そうなんですよ、なんとその主人公タクシーに乗ってその電車と並走してたんです。普通なら走って追いかけるだろうけど、凄く冷静な判断ができる人なんです!」

 何だその微妙な画は。

 あれは徐々に遠ざかるのを惜しみながら、それでも電車を追いかけるのが醍醐味なシーンだろう。

 並走してどうする、並走して。

「ありがちなドラマだと思ったけど、中々に個性的なドラマじゃないか」

 むしろ一周回って興味が湧いてきた。

「ええ。そろそろ新作としてDVDが発売される頃でしょうから、よろしければ今度一緒に見ましょう」

 しかも割りと最近のドラマだったらしい。

 テレビなんかまともに見ないから知らなかった。

「そうだな、機会があればな」

 そうこうしている内に、二手に分かれている道が見えてた。 

 オレが登ってきた道ではなく、先程選ばなかった道の方へと歩を進める。山頂へと続く道だ。

 今までの下り坂から上り坂へと変わる。

 黙々と歩いていても退屈なので、今度はオレから尋ねてみることにしよう。

「そっちはどうなんだ?」

「え?」

「この十年間、なにかあったりしなかったのか?」

 しばらくの間千歳は考え込む。

「うーん、そうですねぇ......実は、退院したのは一年ほど前なんです。それまではずっと病室に籠りきりだったので、これといったエピソードはないんです」

「? 体が治ってからの一年間は何してたんだ?」

 病室に籠っていた間は仕方ないとして、治療が終わった後の時間は好きなことができるのではないか。

「治って退院した後も、通院とかで忙しかったので......」

「......そうか」

 しばらく沈黙が続いたが、やがて千歳が笑顔で振り返ってきた。

「だから、今から沢山思い出を作るんです!」

 貴方と一緒に、という千歳の言葉にオレは何も言うことが出来なかった。

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