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十年前の約束 君を幸せにする約束  作者: 東頭明治
プロローグ 十年間
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美少女  1

 オレの目の前に美少女が立っている。

 透き通るような白い肌と色素が薄いために若干茶色がかっている長髪が、女のか弱さと儚さをより引き立てている。

  その潤んだ瞳はしっかりとオレの姿を捉えて離さない。まるで子犬のように庇護欲をそそらせてくる。

 その微笑みはオレを惹き付けて離さない。優しげな笑みはオレの心を洗い流しそうなほど綺麗な物だった。

 「......ずっと、ずっと勇也くんに会いたかった。日本を発った後も毎日貴方のことばかりを考えて......そうやって、十年間を過ごしてきました」

 ポツリポツリとオレの与り知らぬ過去を語ってくる。

 その瞳はますますと潤み、遂には頬を伝い出した。

 ふいに女が──千歳が辺りを見回し始めた。この埃まみれの病室を隅から隅まで観察する。

「懐かしいですね、ここ。以前に比べてとても廃れてしまったけれど......それでも、こんなに懐かしく感じるのは、貴方が......勇也くんがここにいてくれたからなんでしょうね」

 再びオレに視線を戻して微笑んでくる。

 その表情から判断するに、心の底から俺と出会えたことを喜んでいるようだ。

 こちらが何も言葉を発せないでいると、突如千歳の表情が悲しげに曇った。

 その視線はオレの左手首に注がれている。

「......? どうかしたか?」

「いえ、その......もうミサンガはされていないんですか?」

......なるほど、あのミサンガか。

 確か、千歳が戻ってきた時に約束の相手を判別するために身に付けることになっていたな。

「いや、ちゃんと着けてるぞ。学校の校則で装飾品が禁止されててさ。バレないように足に巻いてるんだ」

 そう言い、ズボンの裾をたくし上げる。

 オレの足首に巻き付いている青いミサンガを見て、千歳は曇ったその表情を綻ばせた。

「よかった......。てっきりもう捨てちゃったのかと」

「まさか。人から貰い受けた物を捨てるなんて真似はしないよ」

 その言葉を聞いた千歳はより一層笑みを輝かせた。

「そうですよね! 勇也くんはそんなことする人じゃありませんもんね!」

 ......いや、そんなに信用されても困るが。

 昔のオレならそういう人でもなかったかもしれないが、今現在のオレは人から貰った物でもバンバン捨てる。母親が買ってきてくれた微妙な洋服とか。

「......そうだ! 場所を変えても構いませんか?」

 唐突にそんな提案をしてくる千歳。

 特に拒否する理由もないため、素直に応じるとしよう。

「それはいいけど......どこに行くつもりなんだ?」

 すると、千歳は人差し指を上に突き立てた。

「山頂です!」


 

 ............



千歳の要望を叶えるため、一旦病院の外へと出た。

 やはり入口付近にはあの車が置かれている。

「そういえば、運転手はどこにいるんだよ?」

 先程から一向に姿を見せない存在。

 千歳はオレと同い年だから運転免許は持っていない。

 となると、誰かもう一人、運転できる齢の人間がいてしかるべきなのだ。

「それが、ここに到着した時に寄るところがあると言ってどこかに行ってしまったんです。ですので、今は別行動中です」

「......別行動中って。ここから歩いていける距離に寄りたくなる場所なんかないと思うけど」

 こんな山の中腹から歩いて行こうと思える場所なんて、山の麓にある駄菓子屋か、山頂付近にある墓地、それか、その墓地を管理しているボロい寺くらいのものだ。

「さぁ......どこに行くかまでは教えてもらえませんでしたので」

「こんな美少女をほったらかすなんて、ロクなヤツじゃないんだろうな」

 オレの暴言に苦笑する千歳。

「でも、毎日休みなくお世話をしていただいていますから。こんなにも自然豊かな場所に来たときくらい、息抜きをしてもらいませんと」

 お世話をしてくれてるとなると、同行者は両親か家の使用人か。

「息抜きねぇ......。こんな只の山に来たくらいで出来るもんなのか? ここに住んでる身としては、ただ登るのが鬱陶しいだけの場所なんだけど」

 オレも都会に住んでいればこの山の空気に新鮮味を感じるんだろうが、生憎と、幼少の頃からこんな発展途上の田舎町に住んでいる。

「ま、なにか事件に巻き込まれる心配はないか」

 そんな田舎町のため、ここに住んでいる人間も穏やかな性格の人が多く、治安が良い。

 唯一の懸念材料は夜間にあの病院にたむろしている不良くらいのものだ。

「ええ。......さぁ、私達も行きましょう? 実は先程からずっとウズウズしてるんです」

 そう言って軽やかな足取りで歩き出す千歳。

 その後ろ姿を呆けながら見ていると、オレが付いていっていないことに気がついたのだろうか。

 クルリと振り返り、両手で口元にメガホンを作って叫ぶ千歳。

「置いていっちゃいますよーー!!」

 そんなに距離が離れているわけでもないだろうに。

 叫ばなくても聞こえる距離だ。

「病弱だったはずなんだけどな......。むしろオレより元気じゃねぇか」

 無視する訳にも行かず、オレは走り回って疲労が蓄積されている足を踏み出す。

 オレが歩き出したのを確認した千歳は前方に向き直り、鼻唄交じりに歩き出した。


 



 

 

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