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十年前の約束 君を幸せにする約束  作者: 東頭明治
プロローグ 十年間
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十年後 青年 1

「......約束なんてするもんじゃねぇな」

 照りつける太陽から身を隠すため、電柱の陰に立っているオレ。

 今は早朝だが、七月の下旬。

 朝といえどもその暑さは強烈で、電柱の陰に隠れていても汗が止まらない。

「ていうか、桐花はいったいなにやってんだ」

 普通、人を呼び出しといて遅れるか? 一体オレはどれくらいナメられているのだろう。

 思えば、以前にもこんなことがあった気がする。

 サッと陰から顔だけを出し、桐花がやって来るであろう方向を見る。

 しかし、そこに桐花の姿はなく、夏休み目前で浮かれている小学生数人が、登校中にも関わらず追いかけっこをしていたり、主婦達がごみ袋をもって談笑していたりする。


 ......よくもまぁ、あんな日向に居られるものだ


 顔がヒリヒリと太陽に焼かれていくのを感じ、即座に顔を陰へと引き込ませる。右手で顔を擦りながら、空いた左手で懐からスマホを取り出す。

 見ると、画面上部の時刻は既に約束の時間を十分も過ぎていた。しばらくすると、先程見かけた小学生達が、オレが隠れている電柱の横を通り過ぎた。

 そのうちの一人がオレの存在に気がつき、ビクリと肩を震わせてサッと顔を逸らす。

 オレのことを変質者か何かだと思っているのだろうか。

 通り過ぎた後も、数歩歩いては振り返り、オレのことをチラチラと見てくる。

 いかに寛大なオレと言っても、さすがにそんな失礼な態度を取られれば腹も立つ。

 オレは少年がオレから視線を外し向こうを見た時に、限界まで瞼を開けて、瞬きもせずにジッと少年を見つめた。

 すると、またしても振り返ってきた少年と目があった。

「っ!?」

 仰天の表情を浮かべる少年。

少年はすぐさま一緒に登校している小学生達に何事か声をかける。

  会話の内容はオレの耳には届かなかったが、直後一斉に走り出した様子を見るに、『不審者がいる』とでも伝えたのだろう。

 その少年達が曲がり角に消えるまで、オレはその眼力を保った。

 器の小さい復讐に内心でほくそ笑んでいると、突如隣りから「ひゃあ!?」という頓狂な声が聞こえた


 見れば、オレの待ち人────川島桐花がそこにいた。


「お、やっと来たか」 

 オレは地面に置いておいた通学用の手提げカバンを拾い上げる。

「あ、あんた何やってんの? めっちゃ目付きが怖かったんだけど」

 胸に手を当て、心を落ち着かせようとする桐花。 

「子供達に社会の厳しさを教えてただけだ」

 手短にそう答え、オレは親愛なる日陰から出る。

「それよりも、人を呼びつけておいて遅れた理由を教えてもらおうか」

 こちらの責め立てる視線など気にも留めず、桐花は笑いながら答えた。

「いやぁ寝坊しちゃってさぁ、あはは」

「あはは、じゃねぇよ」

 謝罪に全く気持ちがこもっていない。やはりオレはナメられているようだ。

 しかし、寝坊したというのは事実なのだろう。

 桐花のショートカットの髪型は、所々寝癖で乱れてしまっている。おそらく直す時間が無いほど切羽詰まっていたのだと推測される。

「ま、とにかく早く行こう。あんまりのんびりしてたら遅刻してしまう」

「ありゃ、思ってたより怒らないんだ?」

 こちらの態度が予想外だったのか、目を点にする桐花。

 「なんだ? お前はオレがこんなことでいちいち怒るようなヤツだと思ってるのか? もう高校二年生だぞ、オレは」

「いや、結構しそうな感じするけど? 小さいことをいつまでも根にもって、どうやって仕返ししようかってことばかり考えてそう」

「......あ、そう」

 反論しようとも思ったが、先程オレがした小学生への仕打ちが頭を過ったため出来なかった。

 しかし、さすがは幼馴染みといったところか。

 オレはあまり表情豊かな人間ではないにもかかわらず、正確にオレの心理状態を把握している。

 話が一区切りついたところで、俺達は並んで歩きだす。

 今日は待ちに待った終業式だ。

 表情には出さないが、オレは明日から始まる楽しい夏休みに、内心胸を踊らせている。

 すると、桐花がオレに尋ねてきた。

「そういえば、ユウは夏休みに何か用事とかあるの?」

「いや、ない。例年通り、ガンガンに冷房を効かせた部屋でダラけるだけだ」

「あれ、一馬とかに遊びに誘われなかったの?」

「全然」

「......あ、そうなんだ」

「小学生の時にアイツからの遊びの誘い殆ど断ってたからな。誘っても無駄だって思われてるんだよ、きっと」

「あー、確かにユウは私達とあんまり遊ばなかったもんねー」

 ほんのしばしの沈黙。

「......じゃあ、彼女とかは?」

「ん?」

「彼女とかとデートに行ったりはしないの?」

「いや、いないし」

「......へ、へー。そうなんだー」

「? 何ニヤけてるんだお前」

「べ、別に!」

 なぜか少し嬉しそうな顔をしている桐花。今の会話のどこに喜ぶ所があったのだろうか。

 少し考えてみると、割りとすぐに答えが出てきた。

「あ、なるほど。お前は人の不幸話をきくのが大好きなタイプの人間ってわけね。性格悪いなお前」

「なっ!? ち、違うわよ!!」

 それからしばらくの間は、桐花の反論が続いた。

 


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