ただ、恨みのままに
「4」
私はあいつが憎い。
許せない、許したくない、自分の持つ悪を含めて、あいつを許すことが出来ない。
嫌悪、憎悪、怨念、毒念、醜悪、恨みが積み重なり
それは晴らす事が出来ない怒りとなる。
これから人を殺めて仕舞うのでは無いかという考えすらよぎるほどの怒り。
ただただ憎い、何をこんなに怒っているのか
どうでも良くなっている程度には狂っている。
しかし、書き留めておかなければならないのだろう。
あいつを陥れる為に、辱める為に、そして、私の愉悦の為に。
計画は、綿密に練らなければならない。
「3」
あいつと私は親友だった。
毎日連絡を取るわけでも、遊び倒すわけでもない。
お互いを認め合い、確認し合って、秘密を共有する程度の仲であった。
傍から見れば、付き合っていることを隠しているカップルの様にも見えていただろう。
異性の友人というのは、そういう浮ついた目で見られがちであり
また、お互いに少なからず意識してしまう多感な時期だってある。
しかし、そんな周囲の期待に応えることもなく、応えることが出来ずに
進路を分かつこととなった。だが、そんなことは気にならない。
進む道は違えど、いつもと変わらず、気が向いたときに連絡を取って
たまに会えればいいのだから。
実際、ほとんど連絡を取ることなく、時々会い、遊び、生存を確認するだけで
特に何があるわけでもなかった。
お互いが居ない生活が当たり前で、普段は気にも留めない。
これが親友で良いのかと、疑問に思う人が居るかもしれない。
しかし、これが私たちの親友像なのだ。
別に、友人がいないわけではない。
それこそ、一般的には友人が多い人と言われるくらいには存在しているらしい。
人と話すのが好きではあるし、何かと頼られることが多く、また、面倒見もいい。
ただ、自分が「それら」を友人と認識していないだけだ。
興味がない。
名前と顔が一致する友人なんて数えきれるほどしかいない。
そんな私が親友として認識するだけの素質があいつにはあった。
その話は、ここで話すと本筋からそれてしまうな。
別の機会にしよう。
ただ、それほどまでに認めていたからこそ、あいつが許せないのだ。
「2」
あいつが許せなくなったのは、ただ一度、体を重ねたあの夜。
お互い久しぶりに交わした盃の酒に酔い、日頃積もった不満をぶちまけ合い
まるで鏡の自分が出てきたかの如く流れ、弾み、膨らんでいく話に気分が高揚しきっていた。
その後の話になるが、酔った勢いでホテルに行った。
これは誘った方が悪いのかもしれない、いや、誘いを受けた方が悪いのかもしれない。
どちらも悪いと言えばそれまでなのかもしれないが
私は悪くないと、揺ぎ無く、怒りを込めて思う。
お互い、異性として思いを寄せていたわけではない。
ただ、肉体的な関係を持ちたかっただけだ。
それはいい。
別に、楽しめればいいと割り切っている。
ホテル代を払わされたこと
飲み物代やらなんやらと払わされたこと
お互いに相手がいること
どうでもいい。
そんなことは、どうでもいいのだ。
許せないのは、やり棄てられたことだ。
「1」
あの日以降、連絡を取らなくなった。
いや、連絡が取れなくなった。
待てど暮らせど、約束が果たされず、そして、無碍にされる恨みが積み重なっていく。
憎い、許しがたい、殺してしまいたい。
そう思う気持ちが時の針が進むごとに深く、長く、そして痛々しく刻まれていく。
別に、私はどうでもいいのだ。
体だけの関係であるならば、それも受け入れよう。
あいつとの楽しみが増えたと思うだけだし、恋人に対する罪悪感を共有しあえばいい話である。
そういうものだと思い、また、そうするものだと思って、あの日は行為に及んだ。
しかし、あいつは違った。
理由を付けては連絡を避け、接触を拒み、私から記憶までも遠ざけようとする。
それは、恋人に対する罪悪感か、それとも私に対しての気遣いか。
暫くは相手を悪いように考えず、良い方へと考えてやった。
だが、それは徒労に終わる。
あいつはただ、自分の犯した罪から逃げたのだ。
自分が犯した過ちを他人のせいにすることも出来ず
だからと言って受け入れることも出来ず
恋人に対してひどく罪悪感を抱き、しかし隠し通そうという思いが強まり
私を切り離した。
いや、普通の人ならば妥当な判断だろう。
分からない。
私には分からないが、あいつがそうするなら妥当な判断なのだ。
しかし、私の気持ち、プライドというものは地に落ち、泥にまみれ、踏みにじられた。
自分で落としたプライドならば、容認できる。
辛くもないだろう。怒りもなく、それが自分なのだろ考えるだろう。
しかし、他人に辱められた自分というのはどうしてこうも、許しがたいのだろうか。
恥ずかしさだけではなく、悲しさや、憐みも混ざり合い、そして恨みとなった。
「0」
なぜこうも、許せないのだろう。
親友だからなのだろうか。
そもそも、なぜ、あいつを親友と認めてしまったのだろうか。
あの夜の過ちを、罪と思わない私が感じる
大きな過ちとして、親友という言葉がつきまとう。
あいつに対して、ここまで何かを感じたことはなかった。
それは無関心だったからではなく、必要ないと考えていた。
お互い、深く考えずとも、理解しあえていたからだ。
だからこそ、あいつのことをこんなにも毎日、考え、思うことはなかった。
だからだろうか。
ふとした瞬間に理解した。私が受けるべき罰を。
私はあいつが好きなのだ。
タイトルの通り
ただ、ひたすら恨みを想像し、書きました。
恨み、憎しみ、復讐を考えたものはその先に
罰を受けるべきだと、思いついてしまって
私に罰を与えました。