トイレにいきたい男〜行列編〜
俺はトイレに行きたかった。トイレに急ぐってことは、もう要件は一つだけだ。
これ以上は下品だから皆まで言わないが、とにかく今俺は、かなり大変な状況なんだ。
詳しいことは後で話すが、とにかく今の俺は、一秒でも早くトイレに行きたかった。
ハッキリ言おう。も、漏れる!!!
ああ、ようやくあったぞトイレが。公園の奥って以外と穴場だけど、ちょっと汚いなあ、見た目が。
だけれどここは我慢しよう。世間体を失うのと、潔癖を我慢するのどっちが大事かは、まあ即答だ。
……って、どうしてこんなに並んでるんだよ?!
「すいませーん。まだですかー?」
「あの……並んでるんですか?」
「そうだよ、全くさっきから出てこなくてさ」
「本当ですか? あーもう、急がなくちゃいけないのに」
「こっちだって急がなくちゃいけないんだよ。自分都合ばかり言うな」
そんなことを言ってくるから、カチンときた俺は言ってやった。
「なんですって?! 見てくださいよこの姿を。さっき私妻に浮気がバレて頭に包丁が刺さってるんですよ」
「ああ、見ればわかるよ。そんなことは」
「もう本当だったら死んでるんですけど、最後の心残りとして、どうしてもこの腹痛をどうにかしたいんです。だから早く!!」
「それを言ったらお前。これを見ろ!!」
男の人は、着ていたコートを少し剥がして、自分の胸部を僕に見せた。
「通り魔に拳銃で撃たれて、心臓貫通で即死さ!」
「そ、それは災難でしたね」
「でも、俺どうしても、どうしても! トイレで、身体に残った不純なものを全部出してから行きたいんだ!!」
「そっちだって自分の都合でしょうが!! もう早くしてくれよーー!!」
「全くですよね!!」
二つ前の人が俺達に話しかけてきた。その人は身体が中に浮いていた。というか足がなかった。
「僕なんて、腹切り婆ってお化けに偶然あっちゃって、上半身と下半身切断されちゃったんっすよ。もうこれは運が悪かったとあの世で頑張ってくるしかないんですけど……その前にね、この便秘を解消してからいきたいんです!」
「はあ。ところで、あなた下半身は?」
「それがお恥ずかしいことに、ヘヘッ……どこかで落としてきてしまったんですよ……どなたか下半身貸してくれません?」
「「さっさと探してこいよ!!」」
バキーーー!! と俺達二人でソイツをぶん殴って、遠くの方へと吹き飛ばしてやった。よしっ、これでライバルが一人減ったぞ。
「うるせえなあ、漏れちゃうだろ!」
「す、すいません。あなたも待ってるんですか?」
「ああ。バイクで事故って首がすっ飛んじゃってさ。おまけに子ども轢き殺したから地獄行きだって。散々な話だろ?」
「そうですね……」
「で、潔く地獄にいってやろうかと思ったら、このガキが『お腹イターイ、漏れるー』とか言い始めるから、責任とって俺が連れてけって話になって……なあまだかー?!」
世の中は広いなあ。他人のためこうやって必死こいてる奴もいるのかあ。
なんて関心しているうちに、お腹がグルルルルと鳴り始めた。この野郎……機能が停止している癖にいっちょ前に俺を苦しめるつもりか。
他の方々も同じなようだ。っていうかさっきの首なしライダーさんまでお腹を抑えはじめてる。おいおい、簡便してくれよ。
俺達のイライラと焦燥が募る中、ふいにまた一人、後ろに並んでくる奴がやってきた。これはまた運が悪いのがきたな。
相当急いでいたのか、俺以上にゼエハアゼエハアと、呼吸に落ち着きがない。
「あなたも?」
「ええ、もう時間がないっていうのに!」
「俺達だってさっきからずっと我慢してるんですよ!」
「そうだそうだ。お前一人じゃないんだぞ」
「ガキだって我慢してるんだ!! お前少しは耐えろよ!」
「いやあ、そう言われましても……」
後ろにやってきた人は、ふいに自分の腹巻を俺等に見せ付けた。
「俺、爆弾マニアの彼女に時限爆弾仕掛けられちゃって、いっそ死ぬなら誰か巻き添えにしてやろうと思ったんですけど、昨日食ったパンに当たっちゃって。だから死ぬ前に一つスッキリさせていこうかなーと」
「そうだったんですか。ひどい女ですね、どいつもこいつも」
「しかし爆弾とはまたすごいですね。あと爆発までどれくらいですか?」
「ああヤベエ。もう時間じゃん」
「全く、外が随分騒がしかったなあ」
トイレに入っていた男は、ようやく一通りのことを済まして、トイレから出てきました。
外には、たくさんの死体が転がっていました。それを見た男の人は、あまりのショックを受けて心臓麻痺を起こし、その場で死亡しました。
また一つ、死体がゴロンと増えました。
「うっ。こりゃヒデエ」
「新手の自爆テロか自殺サークルですかね?」
「あるいは連続殺人かもしれない。念入りに調べろよ」
「はい! にしても、爆死かと思ったら、全員違う原因で死んでるみたいですね」
「それだけじゃないぞ。ここから1kmくらい離れたところになんて、上半身と下半身の分かれた死体が吹き飛んでたからな」
「これは……自殺というよりやはり連続殺人でしょうかね……ところで警部?」
「なんだね」
「トイレに行っていいですか?」
「ダメ、俺が先」
「職権乱用はやめてください。警部、我慢できないんです俺」
「うるさい。俺は痔もちなんだ。我慢してると身体に毒なんだよ!」
刑事と警部が睨み合う中、鑑識のひとがまたやってきました。
「鑑識はいりまーす」
「ああ、ご苦労」
そうして鑑識の人は、トイレの中に入ってきました。耳を塞ぎたくなる様な嫌な音が聞こえてきました。
「あ、テメエーーーー!!」
明らかにスピリットサッカーRのノリを引き継いでしまった作品。これは駄目。次はもっと落ち着いた奴にします。




