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髪を切る日  作者: ちわみろく
髪を切る日
6/93

美味しい日

 長時間の空腹と安堵で緊張感が抜けたのだろうか、由良は突然めまいを起こしてしまった。

 美夜子にして上げたように、セイラがすぐに台所へ入り、簡単な食事を用意する。ソファに寝かされてから、かいがいしく世話をする親友がやけに嬉しそうで、由良は思わずその理由を問う。

「だって、由良があたしの前で弱いところ見せたのはじめてだから。介抱してもらったことは多いけど、して上げたことはなかったし。だから楽しいのよ。」

 いつもとは逆転した立場であることが珍しく、また嬉しくて仕方ないらしい美夜子の顔をのんびり眺めながら、なんだかちょっと照れくさいような気分で身を起こした。その必要はないけれども、親友に手を貸してもらいながら。

「お待たせ。先ずはスープからね。」

 香ばしいコンソメの匂いと共にスープ皿がやってきた。

「セイラの料理はとても美味しいわよ。はい、あーん。」

 それだけは勘弁してくれ、と訴えながら由良はそれでも口を開く。

 美しい金髪の青年。少しの訛りも感じられない流暢な日本語。由良を警察署から救い出してくれた人だった。何とも風変わりな人物だ。

 秀も流河もかつての知り合いによく似ているために、違和感を覚えないが彼にだけはどうしても注目してしまう。黒いエプロンをかけて包丁を握る彼は、何者なのだろう。彼が煎れるお茶は今まで飲んだどの飲み物より美味しかった。

「気になる?由良」

「え、ああ、そうだね。変わった人だね。」

「美形だよねえ、すごく。しかもいっちばん優しいんだよ。あの人。」

「確かに」

 二人の兄弟はすでに暴力をふるっているので、初対面から正義の味方だった金髪の青年は一際優しく思える。

 再び彼が香ばしい焼き立てのパンとバターをのせた皿を持ってきた。

「どう、おいしいかい?」

「とても。」

 皿を受け取って、すぐにかぶりつく。なんとも言えずうまかった。

 その顔を嬉しそうにしばらく眺めてから、セイラは腕を組んでちょっと考え込んだ。

「美夜子ちゃんはちょうどサイズの合う服があったんだけど、由良ちゃんは少し大きいねえ。そうでなくてもここには女物が少ないし…随分汚れてしまったようだから、クリーニングした方がいいんだけど。」

「由良はグラマーだからね。」

「単に筋肉質なの。鍛え方が違うよ。」

 むきっと上腕を見せて筋肉をアピールする親友に、ハイハイ、と呆れたような返事をする美夜子は、既に着替え済みだった。

「男物じゃ、大きいでしょ?」

 セイラの問いに、由良は簡潔に答える。

「大きくてもなんでもかまわないです。」

 着られればなんでもいいのだ、という理屈がすぐに伝わるような口調で彼女が言うと、また美夜子がそれをからかいはじめる。

 ドアの開く音がしたので、そちらに目をむけると、

「あ、秀…」

 セイラが呟いて道を開ける。

「どうしたの、それ。」

 何の表情も見当たらない、切れそうなほど整った顔が手に持った衣類の方を向いた。それを、ソファでじゃれあう二人の上に落とす。

「良ければ、着るといい。」

 そっけなく言って、窓際へ背をもたせかけ、視線を由良の方へ注いだ。

 衣類に目を落とすと、どうやら彼のものらしい。しかも新品と思われるほど綺麗だった。

「…秀、さん、細いから私着られなかったりして。」

 苦笑混じりに由良が言うと、そっとセイラが傍によってきて、

「殴ったお詫びのつもりなんだよ。きっと。着て上げて。」

 小さな声でそう告げる。

 由良と美夜子が顔を見合わせた。

 窓辺でふてぶてしくこちらを見ている顔付きは、どう見てもそんな殊勝さを感じさせないのだが。

 仕方ないなあ、とでもいいたげな表情で美夜子が立ち上がり、由良を促す。

「ちょっと、隣りを借りて着てみよっか」

「あ、うん。」

衣類を手に持って、二人が出て行くとセイラがにっこりと笑った。

「秀、ありがとう。」

「お前に礼を言われる覚えはない。」

 無愛想にそれだけ言うと、窓の外へ顔を向けた。黒ずくめの青年は、照れているのかもしれない。不器用な秀の思いやりは中々目に出来ないが、今日はその貴重な一日らしい。

 セイラはそんな彼に優しく声をかける。

「コーヒーいれるけど、飲むかい?」

「ああ」

 カウンターの向こうに流し台が見えて、そこでのんびりとカップを探すセイラが時折他愛ないことを語り掛け、秀はそれについて言葉少なく答えていた。

 ブラックの熱いコーヒーが運ばれてくると同時に、二人の少女が戻ってきた。

「ああ、良く似合ってるね。ぴったりじゃない。」

 優しい声でセイラがすぐに誉めた。

 コバルトブルーの綿シャツとクリーム色のパンツを着た由良が、軽く頭を掻いた。美夜子が傍らに寄り添うようにくっついている。見ようによっては初々しいカップルのようだった。

「そうでもないです。やっぱり、手足は長いですね。」

 裾と袖を少し捲っているが、それも御愛敬だ。

 男性としてはやや細身の秀の服が、少女としてはしっかりした体型の由良の体にぴたりとしていた。サイズもそこそこだが、中性的な服装が由良には良く似合っている。スカートよりも高い身長をすらりと見せるパンツ姿の方が彼女の印象にぴったりだった。

「当座は、それで我慢しろ。」

 コーヒーのカップを薄い唇につけながら、感情のこもらぬ声で秀が言った。

「制服は僕が預かってクリーニングするよ。」

 金髪の青年が美夜子から制服を受け取る。

「食事は済んだのか?」

 中断させた本人が、由良に問うと、

「あ、はい。凄く美味しかった。」

 由良の正直な感想を聞いてセイラがにっこりと笑い返した。

「三階に来い。刀麻が戻ってきたから傷の手当てをしてもらえ。痛みはないらしいが、念のため診て貰ったほうが良かろう。」

 怪我を増やした張本人に言われたくないが、由良はここも正直に答えた。

「…まだ結構痛いですよ。」

「早くいけ。」

 セイラが険悪な雰囲気になりそうな二人に割って入る。

「由良ちゃん、先に刀麻のところへ行ってきて。僕の手当てはあくまで素人仕事だから、早く専門家に見てもらったほうがいいよ。」

 さっきまで彼がいたキッチンからロールキャベツの香りがする。それも食べたい、と思ってなんとなくその場を去れずにいた由良は仕方なく動き出した。

「刀麻さんはね、千沙にそっくりだったよ。なんだかおかしいね。そのうちクラスメートが全員現れそうだよ。」

 親友の腕をひいて美夜子がそう、教えてくれた。美夜子の検査は、その人がすでに終えてくれているようだ。


美夜子に案内されて三階の突き当たりへ足を向ける。親友がノックをすると、

「どうぞ。開いているよ。」

と、陽気な声が返って来た。

「失礼しま~す。由良を連れてきました刀麻さん。怪我をしてるみたいだから診てやってくれますか?」

のんびりと内側へ開くドアを開くと、正面に小柄な青年が背を向けて座っているのがみえた。書き物をしているのかこちらを見向きもせず、

「そこの椅子に座ってちょっと待っててくれる?」

と、少年のように高音の、愛想のいい声を発する。どんな顔で性格なのか、ちょっと想像も付かないタイプな気がした。

だが、あのつんつんと尖ったほとんど真茶色の頭はどうしたことだろう。まるで、コントで爆発後のメークをしたような、凄まじいヘアスタイルである。

迷わずパンクロッカーな青年を想像した由良の予想を裏切り、間伸びした声が聞こえ、それに美夜子が返事を返す。にこやかにパイプ椅子へと足を向ける親友に従って、由良は腰掛けながら部屋の中をぼんやり物色した。

出入り口のドアから正面奥に大きな窓があり、そこから昼間は陽射しが差し込むのだろう。その窓のすぐ下に刀麻と呼ばれる青年は机に向かっている。由良と美夜子はドア脇に置かれたパイプ椅子にちんまり座り、左右どちらの空間も白いカーテンで仕切られ、恐らく診察用のベッドやら機材やらがあるのだろうと推測した。

ラフに着たオレンジのシャツと、迷彩柄のズボンの上に白衣をはおった青年がくるりと椅子を滑らしてこちらを向く。

「待たせて御免よ。とりあえずはじめまして。安西刀麻あんざいとうまと言います。流河や秀にはもう会ったんだよね。俺は奴らの弟だ。職業はご覧の通り医師。専門は外科だ。」

パンクなヘアスタイルに似合わず、大きくて分厚い眼鏡をかけた小柄な青年は、ゆっくりと立ち上がり握手を求めるように右手を差し出しながら歩み寄ってくる。慌てて由良は立ち上がりそれに応じるように自己紹介した。ペンダコだらけの手と握手すると、思わず苦笑をもらしてしまう。彼の身長は由良とほとんど変わらなかった。

「随分あちこち傷だらけの戦士だねぇ。はい、軽くでいいから口開けてー」

ガーゼやら包帯やらバンソーコーやらで武装した由良をみて眉毛を動かすと、立ったまま彼は診断をはじめた。

「はい、じゃ、今度は後ろ向いてー」

後頭部の傷を見るために後ろを向かせて巻いてある包帯をはずす。陽気でやさしい対応に、小児科医を彷彿させた。

美夜子はにこにこと笑って座ったまま見守っている。

由良も外見は奇抜だが、愛想のいい若い青年医師に好印象を持った。

「あれれ、こっちは随分ひどいな。痛かっただろう?」

 眼鏡を直しながら刀麻が眉をひそめた。後頭部の裂傷は医師の目から診てもひどいものらしい。

青年医師の言葉に不安になったのか、由良が思わず振り返ると同時に親友も立ち上がった。赤黒く変色した血の跡が残る首筋と包帯を交互に見ると、美夜子の顔が青くなる。

「今はもうそんなでもないですが、しばらくはとても痛かったです。」

「そうだろうね。下手すると跡になっちゃうかもしれないよ。一回きちんと開かないと駄目だねこれは。」

 立ち尽くす患者を尻目に、刀麻は机に戻り見た事もないようなペンで何事かを書き付けた。カルテを作っているのだろうか。

 自分の目からは見えないので親友の顔色から傷の様子を想像すると、さすがの由良も不安になった。



 突然の爆音。

 地震みたいに周囲のものが揺れ動く。立っていた由良と美夜子はバランスを崩し床へ跪き、腰掛けていた刀麻も机にしがみつくように姿勢を変える。

甲高い美夜子の悲鳴が部屋中に響き渡った。その悲鳴に耳を押さえながら由良が彼女を背後から抱きしめて、すぐに騒音を吐く唇を手で覆う。一分もしないうちに揺れがおさまると、いつのまにか机の下に隠れていた青年医師がのっそりと顔を出し、

「大丈夫?二人とも。」

 引きつった笑顔を浮かべて安否を確かめた。

 彼に親指をたてて見せると、安堵した表情で青年がすっくと立ちあがる。床に伏せたままの二人に手を差し伸べようと歩み寄った時に、荒々しくドアが開いた。その音に室内の三人がびくっと身体を震わせる。

 流河と秀が駆け込んで来て怒鳴るように言い放った。

「ここが見つかったらしい!刀麻急いで引き上げるんだ!」

 この人でも、声を荒げることがあるのかと、思わず不謹慎にも感心してしまう、次男の怒鳴り声と、

「必要なものがあるか?」

 本当に慌てているんだろうかと問いたくなるくらいゆったりした長男の声に、

「じゃ、医療カバンとあれを。」

 平然と二人の少女を「あれ」扱いして指差した三男が、机の引き出しから重そうな医療カバンを引っ張り出す。流河がそれを引っ手繰るように取り上げて小脇に抱えた。

 何が起きたのか把握していない二人は、呆然と三人の青年のやり取りを見ていたが、何かを問おうとする前に、三人の青年に部屋を引きずり出された。

 由良は左手を、美夜子は右手をそれぞれ兄弟に引っ張られて全力疾走で階段を駆け上る。

「ちょっとぉ!どういうこと!?」

それでも走りながら声をかけると、痛いほどに強く握られた腕が少し緩んで、

「お前が多分尾けられたんだな。つまりは俺が尾行されたようなもんだ。」

上がる呼吸を整えながら、切れそうな横顔が答えた。

「え!?なに!?」

 低すぎるくぐもった声でよくわからない。

「お前が逮捕された連中がココを突き止めて攻撃してきたのさ。」

「だって、あの人たちは一応警察なんでしょ!?私は間違いでタイホされたんじゃないの!?」

屋上へでると、すでに乗り物が用意されていた。由良を迎えに来たあの単車と、見た事も無い形の自動車がすでにアイドリング状態で乗客を待っている。夜逃げというには随分と用意周到だ。昼間だし。

「え…!?由良逮捕されてたの!?」

 声にならない声で、ようよう驚きの声を上げる美夜子の反応に、

「バレちった。」

 小声で言って、由良は舌を出した。

 その反応に、親友が何かを言おうとする寸前、セイラが声をかけながら屋上へ走りあがってきた。そのままブルーシルバーの自動車の方へ小さな荷物と共に吸い込まれる。

二人の少女は曇った空の下で置き去りにされて、次の行動の指示を大人しく待っていたが、ヘルメットを腕に二つぶら下げた黒ずくめの男と、茶色の上着姿の男が重そうな荷物を持ってこちらへ歩いてくるのを見て、思わず顔を見合わせた。

「どういうことよ由良…?」

 上目遣いで睨む親友ににじり寄られ、由良は思わず逃げ腰になる。

「私にも…。」

 逮捕の件と今のこの状態になんらかの関わりがあるらしいことはわかる。しかし説明を求められる困るとしか言いようが無かった。

 さらに追及の手を強めようとする美夜子から救うように、流河がそばによって来て声をかける。

「よし、あんたは乗った事があるんだから秀と一緒でいいだろう。美夜子ちゃんはこっちだ。」

と、由良に指図して黒いヘルメットを渡す。

 いやだとも言えず、顔を引き攣らせながら秀を見ると相変わらずの無表情で黙って単車の点検をしていた。

 初対面で彼に殴られたことを思い出す。容赦のない一撃を思い出すと微かな怒りと共に微かな恐怖も甦る。それでも、彼は迎えに来てくれたわけだし、服を貸してくれたりしたのだ。彼は悪い人ではない、そう無理にでも自分を納得させた。ため息をついて、由良はそちらへ足を向ける。

 由良が不承不承弟の元へ寄っていったのを見ると、今度は流河がさっきまで引いていた美夜子の手を再び引っ張ってシルバーレッドの車の中へと促す。

「あん、由良と一緒がいいのに!」

駄々をこねる美夜子を、困ったように見つめて流河は呟いた。

「…。あんた一体いくつだ。」

「うるさいわね。乗ればいいんでしょ乗れば。」

かわいらしい口を尖らせつつ指示に従う。素早くドアをしめて、彼は運転席へ腰を下ろした。助手席に座るセイラと、後部座席の刀麻、その隣りの美夜子へ確認するように目を走らせると、

「行くぞ秀。」

低い声で呟いた。どこから応答してるのか、すぐに返答が返ってくる。

「行き先は?」

「マドンナを拾ってこなくちゃなるまい。町で中継してセイラの店からもう一台車を調達していこう。」

「わかった。先にでてくれ、流河。」

「了解。」

屋上から車が上昇する。

屋上に所狭しと並んだ温室がどんどん小さくなっていく。灰色の空と、黄土色の大地。淀んだ空気の向こうに小さな街や、さらにその向こうにぼんやりとした輪郭だけを見せる山々があった。

この建物からはじめて外部へ足を踏み出した美夜子は、目を皿のようにして窓の外の光景に見入る。

そして、さっきまで居た建物を囲むようにして、たくさんの車が集まっていくのがあまりに小さく見えて、あの中を逃げてきたのだということに妙に現実感を感じられなかった。

美夜子は、三人の兄弟での長兄にあたるという流河に話はきいてはいたが、実際に外の世界を見たのはこれがはじめてであった。

これが、自分と親友がこれから生きていかなくちゃ行けない世界らしい。なんというか味気ない、殺風景な光景だ。

砂漠に点々と見かける都市と小さな街。これが車や単車を空へと導いた世界なのだろうか。

あまりにも寂しすぎる。

愛らしい美夜子の横顔が翳った。

 少なくともあの高校生活では無くなってしまった事に、美夜子も気が付いている。

その現実を徐々に把握して否応も無く順応しつつある。せざるを得ないではないか。

 流河の話に寄れば、美夜子達の説明する世代は古いそうだ。あらゆる技術・学問水準そのものが、美夜子の知っているものと一世代くらい違うのだと言う。

その中で唯一異常な程遅れている、あるいは停滞・消滅してしまった学問は、植物学なのだそうだ。

「日本の国土には今自然の緑というものがないのさ。」

運転席からそう告げられて初めて美夜子は、自分が無意識に視界の中の緑を探している事に気が付いた。青々と茂る緑の姿を、彼女は我知らず探していたのだ。それを悟ったかのような流河の声に、思わず振り返る。

「俺はあんたと由良ちゃんは過去の世界からの遺物みたいに思えるよ…どうだい、あたってるんじゃないか?」

自動操縦に切り換えているのか、流河は異世界の住人を見るような目で美夜子を見つめていた。

傍らに座る刀麻は居眠りをしているらしく、目を閉じて無反応を示し、助手席のセイラはわずかな微笑を口元に湛えて正面を見つめていた。

「その答えは、あたし達が欲しいのよ…」

 思いつめた声で、美夜子は再び窓へ目を向けながら答える。

 悪い夢なら、とうの昔に覚めているはずだとわかっていたから。

 夕方に親友と二人きりでたたずんだ教室へ、もはや戻れないらしい。

何もかもがわからないままである。ただ起こる出来事に流されるだけであった。他にどうしようもない。どんなに困惑していようと混乱しようとも。幸い、何故かそれほど混乱はしていないのが不思議なのだが。

 恐らくは、知っている顔が傍に居る事や、異世界に居るような違和感が少ないためだ。確かに空を飛ぶ車や単車の存在には驚いたが、他にはこれと言って現実味のないものが無い。武器を見せられたことには確かに狼狽したけれど、それは意味が違う。

 流河が操縦する車の後方を殆ど距離を離さず追ってくる黒い単車の上で、身動ぎもせずがちがちに固まっている親友が見える。あんな親友を初めて見た。人との距離の取り方がわからなくて困っている由良なんて、久しく見たことが無かったのだ。

 割とどんな場所でも、どんな人とも図々しく、あるいは堂々としていられる由良にしては珍しい。彼女はいつだってあるがままで正直なのに。

 そんな親友の心配をよそに、由良はヘルメットの中で小さく呟いていた。

「ロールキャベツ、食べたかったな…。」




続きをよんでいただけたら嬉しいです。

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