死を想え
自分は明日死ぬ。
何故なのかは分からない。死因なんてものは見当も付かない。
ただただ、ずっと昔から明日死ぬのを知っていた。
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最初にその夢を見たとき、ただの夢だと思った。
しかし、漠然とした恐怖も感じていた。
何度も、何度も同じ夢を見ていく内に、実際に起こるのではと恐怖した。
自分の頭がおかしくなったのかと思い、精神科にも行った。
だが、何も異常はなかった。
それからも毎日のように同じ夢を見た。
恐怖で体が動かなくなっていくのを感じた。
会社も辞め、夢を見たくないために眠りもまともに取れなくなっていた。
動かなくなっていく体でずっと考えていた。
どうすれば死を避けられるのか?どうしたらこの夢を見なくなるのか?
だが、答えは出なかった。
当然である。
どうやって死ぬのかがわからないのだから。
何の前触れもなく夢を見始めたのだから。
思考を死で埋め尽くされた時思ったのだ。
こんな状態で死んでいいのか?
喉も乾き、腹も減り、心も体も満たされていない状態で死んでいいのか?と
水を飲んだ。肉を食べた。少し体が動くようになった。
そして、また考えた。
もし夢が示した日に死ぬとしても、満たされぬまま死にたくないと。
夢を見るまで、自分はほどほどに後悔し、ほどほどに満足した生活だった。
滑り止めの大学を卒業し、中小企業の営業マンをしていた。
上司からの評価も悪くなかった。
プライベートでも、恋人はいなかったが一緒に喜びを共有できる友達がいた。
悪くはなかった。
だが、決して満たされてはいなかった。
仕事も面白いわけではなく、さりとて給料が良いわけではない。
上司からの評価も悪くはなかったが、良くもなかった。
恋人のいない生活はどこか物足りない。
この現状を作り出したのは、間違いなく自分だ。
自分自身が行ってきた行動に対する結果だ。
中途半端な人生のまま終わりたくはなかった。
自分自身を満たしたい。後悔したくない。
真剣にいきたいと決意したのだ。
まず、死ぬまでに叶えたいことを考えた。
・昔から興味のあった仕事に就くこと
・親友を作ること
・心を焦がす恋をすること
この3つは死ぬ日までに叶えようと考えた。
刻々と迫る死を意識しながら、自分は体を動かした。
昔から興味のある業界の仕事に就いた。
この業界は衰退しつつある業界であった。
そのため、就職活動の時に選択肢から外していた。
給料は前より安く、休みも少ない。そして苦しさもある。
だが、確かに満たされていた。
人から見れば、そんな給料でよく働くと思われるかもしれない。
しかし、好きな仕事ができる喜びはそういった現実を超えていた。
自分には友達がいる。一緒に喜べる友達がいる。
しかし、親友がいるかと言われればいないと答える。
親友にはっきりとした定義はない。
自分が思う親友とは、喜怒哀楽を共有できること。
そして心を開くことができる相手だと考えている。
恋人や妻と似たような存在なのだろう。
そんな存在がいれば、なんと幸せなのだろうと心から思う。
自分は心を開くのが苦手だ。
弱みになる部分は見せたくはない。
相手に引かれたくはないと思ってしまうのだ。
だが、もう躊躇はしなかった。
友達に感情をだし、自分自身の過去や悩み、愚痴を吐いた。
その結果友達は減ってしまった。
しかし、その中の一人と強い絆で結ばれた。
こういった存在が親友なんだと思えた。
恋人とは近い存在なのだろう。
なぜならメールでのやり取りを見た会社の同僚に恋人?
と聞かれるほどなのだから。
だが、恋人と一つ大きな違いがある。
男性特有の悩み・苦しみをしっかりと理解してくれる点だ。
恋人が出来たとしても彼との関係は、ずっと続くだろう。
次に心を焦がす恋をするために、様々な女性と出会い話をした。
友達からの紹介、出会い系、ナンパなど手段を問わずに行なった。
ナンパをする時は、ためらいや恥ずかしさがあった。
しかし、それ以上に恋をしたい気持ちが強かった。
いくつもの出会いを経て、一人の女性に惹かれた。
美人ではない、だが心を癒すような笑顔をする女性と出会った
何度も遊び、話していく中で少しずつ惹かれ告白をした。
心を焦がすような恋ではなかった。
だが、今まで知らなかった感情で満たされていた。
この人のためならどんな辛い時でも耐えられる。幸せにしてあげたいと。
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自分は明日死ぬ。その準備もしてきた。
死ぬのは恐い。けれど胸を満たしてるのは、恐怖ではなく幸福や充実感である。
彼女や親友にこの話をした時、笑わず真剣に聞いてくれた。
明日は一日中一緒にいてくれるそうだ。
明日自分がどうなるのかなんてわからない。
夢が示した通り死んでしまうのかもしれない。
何事もなく生きていけるのかもしれない。
ただ一つ言えるのは、この死を意識させる夢が見れて良かったということだ。
死を恐怖したからこそ、胸を張れる人生になっていったのだ。
もし無事に明日を越えたら、衰退していく業界を復活させてみせよう。
彼女の為に一生を捧げよう。
友と語り明かそう。
だが忘れてはいけない。死は恐ろしいものであることを
死があるからこそ生きていけることを…
ジャンルがわからない・・・