第88話 文化祭の準備
文化祭を控えた、ある日の放課後。
「(コン、コン、コン)」
「(ギコギコギコ)」
「お〜い、これはドコに持っていけばいいんだ〜!」
「ねえ、ここの飾り付けはどうかな〜」
教室は、文化祭の準備で大忙しである。
かく言う僕はと言うと。
「はい、”お客様、いらっしゃいませ〜”」
「「「「「お客様、いらっしゃいませ〜」」」」」
女装メイド喫茶の元凶である、宮陣さん監修で、接客の練習をしているのである。
「もう少し足を閉じて、はい、背筋を伸ばーす!」
宮陣さんの激がとぶ。
もちろん、メイド担当のメンバーは、当然、メイド服を着てである。
初日の練習の時、ドコから持ってきたのか、宮陣さんが、人数分のメイド服を持ってきたのだ。
そして、僕以外のメンバーが、女子全員により、強制的にメイド服を着させられたのだった。
「「「「「しくしくしく」」」」」
当然、全員が教室の隅で、うずくまって泣いてしまった。
最初の頃は、イヤイヤながらだけど、最近は、慣れたのか、それとも吹っ切れたのか、積極的に練習している。
「もう少し、ユックリとお淑やかに歩く!」
本物の女の子でもやらない事を要求する、宮陣さん。
もう完全に、ノリノリである。
そんな宮陣さんにシゴかれながら、メイドの練習をやるのであった。
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練習が終わると、外は、すっかり陽が落ち、暗くなっていた。
そんな中、僕と透也が珍しく、一緒に帰っている。
ちなみに、この学校の文化祭で出し物をするのは、1、2年だけで、3年は受験を理由に出し物を出さないのである。
なので、姉さん達は、先に帰ってもらっていたのだ。
僕と透也が、二人で玄関の影の所に差し掛かると、見たことのある人影が見えた。
「あれ、どうして・・・」
見ると、由衣先輩が壁に寄りかかりっている。
「じゃあな、先に帰るわ」
そう言って、透也が先に行ってしまった。
どうやら、僕に気を使った様である。
”その気配りを、出し物を決める時とかに、見せてくれれば良かったのに”
僕は、内心、そんな事を思ってしまった。
透也が離れたのを見た、由衣先輩が、壁から背を離し、僕の方に近づいてくる。
「優くん、結構、遅かったね」
「先輩、どうして・・・」
「うん、優くんを待っていたの♪」
そう言いながら、先輩が微笑んだ。
「ダメでしょ、先輩、女の子がこんな薄暗い所に、一人で居ちゃ。
先輩は、可愛いから、特に危ないよ」
「優くん・・・」
僕の言葉を聞いた先輩が、瞳を潤ませながら、僕を見詰めていた。
・・・
「くゅん!」
突然、先輩が可愛らしいクシャミをする。
もう10月も半ばになり、夜になるとそれなりに冷える。
どうやら先輩は、体を冷やしたみたいだ。
「先輩、寒いですか?」
「う〜ん、手が少し冷えたかな」
そう言って、自分の右手で左手を握りこむ。
それを見ていた僕は、思わず、
「あっ・・・」
先輩の手を握ってしまった。
先輩の手は思ったよりも、冷えている。
元々から、体温が低い上、長い間冷えた所にいたからであろう。
先輩を見かねた僕は、先輩の手を引き込むと、
「えっ!」
自分のYシャツの中に入れた。
この方が暖まると思ったからだ。
更に言うなら、冬になると、姉さんによくこれをしていたのである。
「先輩、暖かいですか?」
先輩が頬を赤くしながら、頷いてくれる。
こうして、僕はしばらく、冷えた先輩の手を温めていた。
その間、先輩が赤い顔のままで、僕の事をジッと見詰めていたのだった。




