第77話 激情に駆(か)られて
あれから、体育の授業には、由衣先輩に抱き締められていたので、大幅に遅れてやって来た。
当然、先生からこっぴどく叱られる事になったが、僕は先生の小言は耳に入らなかった。
僕の頭は、先輩の柔らかな感触と甘い匂いに事で一杯だったからだ。
その後も、僕の様子は昼食後とは、別の意味でおかしかったみたいで。
「優、お前、少し顔が赤いぞ」
透也がそう言いつつ、怪訝そうな顔をしながら僕を見ていた。
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放課後になり、いつもの様に、姉さん達と一緒に帰る。
帰りも当然、蓮先輩もいた。
しかし帰りは、姉さんと手を繋いでいたので、先輩は二人の後ろを歩いている。
だが、僕はと言うと。
「ねえ、ゆうくん、どうしたの? 何だか、変だよ」
「うん、別に何でも無いよ」
「そう・・・」
無言の僕に、姉さんが尋ねてきたが、僕は上の空で答えた。
そんな状態で、歩いていたら、前を歩いている由衣先輩がこちらを振り返り。
「(ニコッ)」
意味ありげに微笑んだ。
僕はその笑顔を見ると、教室での出来事を思いだし、顔が熱くなり、思わず俯いてしまう。
「?」
隣にいた姉さんが、不思議そうな顔をして、そんな僕を見ていた。
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夕食後。
今日は、姉さんが台所で洗い物をしていた。
僕は、居間でテレビを見ながら、ボンヤリとしている。
頭の中は、今日の事、姉さんと蓮先輩の事、そして、由衣先輩の事で一杯だった。
僕に対しての好意は、理解していたつもりだったが。
しかし今日、由衣先輩の思いの強さに、驚いている。
そして、先輩の優しさに溺れそうになっている、自分自身にも驚いていた。
だが、そんな先輩にどう対応すれば良いのか、分からない。
まだ、僕の心の中では、今の姉さんとの関係への思いの方が強いのだ。
でも、由衣先輩の事も気になっているのは間違いない。
「(パタパタパタ)」
そんな事を考えている内に、洗い物をしていた姉さんが、洗い物が終わって居間に来る所が見えた。
僕は、こちらに向かっている姉さんを見ている。
姉さんを見ている内に、僕の心にある思いが急激に湧き起こってきた。
姉さんが居間に入ると同時に、僕はソファから立ち上がると、姉さんの側に近寄る。
「ん、ゆうくん、どうしたの?」
姉さんが、そんな僕に声を掛けた。
しかし僕は、姉さんのその声には答えず、イキナリ、
「(ガバッ!)」
「ゆ、ゆうくん・・・」
姉さんを抱き締めた。
物心付いた頃から慣れ親しんだ、柔らかくて暖かい、姉さんの感触だ。
その感触を感じると、自然に腕に力が入ってしまう。
「ちょっ、ちょっと・・・、く、苦しいよ・・・」
「あっ、ごめん・・・」
僕は激情のまま、力一杯、姉さんを抱き締めていたので、姉さんが苦しみ出した。
僕は姉さんに謝ると、抱き締めていた腕を緩める。
「ゆうくん、どうしたの?」
「う、うん・・・」
「急に抱き付いてきて、 お姉ちゃんに甘えたくなったの♪」
そう言いながら、姉さんが僕の背中を撫で出した。
姉さんの柔らかな手が、僕の背中を滑っている。
僕は、昼間の由衣先輩の感触を思い出していたが、姉さんの姿をみた途端、それ以上に、姉さんの暖かさが欲しくなってしまったのだ。
そして、その激情のままに、姉さんを抱き締めてしまった。
だが、姉さんはそんな僕に何も言わず、背中を撫でてくれる。
僕は、姉さんの優しさに感謝しながら、しばらくの間、姉さんに甘えて続けていたのであった。




