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第77話 激情に駆(か)られて

 あれから、体育の授業には、由衣先輩に抱き締められていたので、大幅に遅れてやって来た。


 当然、先生からこっぴどく叱られる事になったが、僕は先生の小言は耳に入らなかった。


 僕の頭は、先輩の柔らかな感触と甘い匂いに事で一杯だったからだ。


 その後も、僕の様子は昼食後とは、別の意味でおかしかったみたいで。



 「優、お前、少し顔が赤いぞ」



 透也がそう言いつつ、怪訝(けげん)そうな顔をしながら僕を見ていた。




 *****************




 放課後になり、いつもの様に、姉さん達と一緒に帰る。


 帰りも当然、蓮先輩もいた。


 しかし帰りは、姉さんと手を繋いでいたので、先輩は二人の後ろを歩いている。


 だが、僕はと言うと。




 「ねえ、ゆうくん、どうしたの? 何だか、変だよ」


 「うん、別に何でも無いよ」


 「そう・・・」




 無言の僕に、姉さんが尋ねてきたが、僕は上の空で答えた。


 そんな状態で、歩いていたら、前を歩いている由衣先輩がこちらを振り返り。



 「(ニコッ)」



 意味ありげに微笑んだ。


 僕はその笑顔を見ると、教室での出来事を思いだし、顔が熱くなり、思わず(うつむ)いてしまう。



 「?」



 隣にいた姉さんが、不思議そうな顔をして、そんな僕を見ていた。




 *****************




 夕食後。


 今日は、姉さんが台所で洗い物をしていた。


 僕は、居間でテレビを見ながら、ボンヤリとしている。


 頭の中は、今日の事、姉さんと蓮先輩の事、そして、由衣先輩の事で一杯だった。


 僕に対しての好意は、理解していたつもりだったが。


 しかし今日、由衣先輩の思いの強さに、驚いている。


 そして、先輩の優しさに溺れそうになっている、自分自身にも驚いていた。


 だが、そんな先輩にどう対応すれば良いのか、分からない。


 まだ、僕の心の中では、今の姉さんとの関係への思いの方が強いのだ。


 でも、由衣先輩の事も気になっているのは間違いない。



 「(パタパタパタ)」



 そんな事を考えている内に、洗い物をしていた姉さんが、洗い物が終わって居間に来る所が見えた。


 僕は、こちらに向かっている姉さんを見ている。


 姉さんを見ている内に、僕の心にある思いが急激に湧き起こってきた。


 姉さんが居間に入ると同時に、僕はソファから立ち上がると、姉さんの側に近寄る。



 「ん、ゆうくん、どうしたの?」



 姉さんが、そんな僕に声を掛けた。


 しかし僕は、姉さんのその声には答えず、イキナリ、




 「(ガバッ!)」


 「ゆ、ゆうくん・・・」




 姉さんを抱き締めた。


 物心付いた頃から慣れ親しんだ、柔らかくて暖かい、姉さんの感触だ。


 その感触を感じると、自然に腕に力が入ってしまう。




 「ちょっ、ちょっと・・・、く、苦しいよ・・・」


 「あっ、ごめん・・・」




 僕は激情のまま、力一杯、姉さんを抱き締めていたので、姉さんが苦しみ出した。


 僕は姉さんに謝ると、抱き締めていた腕を緩める。




 「ゆうくん、どうしたの?」


 「う、うん・・・」


 「急に抱き付いてきて、 お姉ちゃんに甘えたくなったの♪」




 そう言いながら、姉さんが僕の背中を撫で出した。


 姉さんの柔らかな手が、僕の背中を滑っている。


 僕は、昼間の由衣先輩の感触を思い出していたが、姉さんの姿をみた途端、それ以上に、姉さんの暖かさが欲しくなってしまったのだ。


 そして、その激情のままに、姉さんを抱き締めてしまった。


 だが、姉さんはそんな僕に何も言わず、背中を撫でてくれる。


 僕は、姉さんの優しさに感謝しながら、しばらくの間、姉さんに甘えて続けていたのであった。



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