第7話 一緒に下校
「起立、礼」
「着席」
日直の合図で、終礼が行われた。
そして、帰りのホームルームが終わると、教室が帰り支度で騒がしくなる。
クラブに入っている人間の中には、クラブの準備をしてる者もいるが、僕は姉さんと夕飯の準備をするので、クラブに入る予定が無い。
と言う訳で、僕が荷物をカバンに入れて、帰る準備をしていると。
「おい、優、今日は一緒に返ろうか」
隣から、透也の声が聞こえた。
珍しく、今日は一緒に帰るつもりらしい。
いつもは、瑞希先輩達に遠慮したり、あるいは、”お前達のイチャつきぶりなんか、見てられない”とか、色々あって。
一緒に帰る事とかは、そんなに無いんだけど。
まあ、一番大きいのは、今日は、女の子と帰る予定が無いんだろうな。
ちなみに、透也がクラブに入るかどうか分からないが、入るにしても、女の子が一杯いる所に入るとは思うけど。
「うん、分かったよ」
僕も、そう返すと、帰り支度を済ませると、一緒に教室を出た。
***************
透也と一緒に、階段付近まで廊下を歩くと。
その付近で、よく知っている顔の女の子3人が、僕達を待っていた。
姉さんは、僕と同じ理由でクラブには入って無く、瑞希先輩と、由衣先輩はクラブに入っているけど。
もう3年なので、もう実質引退状態である。
「ゆうくん!」
その中から姉さんが、トコトコ歩きながら近寄ると、僕の顔を見上げつつ、頬に手を当てた。
「さあ、一緒に帰りましょ」
「待ってた、姉さん」
「ううん、今、着いて所だから」
「・・・ほら、早く行こう。
言わないと、アンタら、ずっとそのままだからね」
僕ら二人がお互い見詰め合っていると、瑞希先輩が呆れながら、帰りを促す事を言って来た。
僕の後ろにいる透也は、溜め息を付き。
瑞希先輩の隣にいる、由衣先輩はこちらをジッと見ている。
僕ら以外の3人が近づくと、瑞希先輩が透也に言って来た。
「あれ、薬院君、今日は一緒なんだ?」
「先輩、透也でいいですよ。
まあ、たまには良いじゃないですか」
「ふ〜ん、今日は女の子との約束が無かったんだね」
「(ギクッ!) ははは・・・」
透也は、瑞希先輩に図星を突かれて、タジタジになっている。
「平尾先輩、久しぶりです」
「(コクコク)」
「はあ〜」
瑞希先輩の後ろにいる、由衣先輩に透也が挨拶するが。
由衣先輩が視線を下に向けたまま、頷くだけの反応に肩を落とした。
どうやら、今だに警戒されているらしい。
「じゃあ、いつまでも、こんな所に居ないで、早く帰りましょうか」
瑞希先輩の一言で、僕達は帰り始めた。
***************
下駄箱で靴を履き替え、玄関を出ると、僕達は駅へと歩き出す。
僕と姉さん以外は、駅で別れる事になるので、駅までは一緒である。
そうやって複数人で歩いていても、僕達二人は自然に隣同士に並んでしまう。
そうして隣同士で並んでいると。
「ギュッ」
僕の左隣にいる姉さんが、右手を伸ばして、僕の左手を握る。
そして僕は、小さくて柔らかい、姉さんの手を握り返す。
・・・
僕達は、小さい頃から、二人になると手を繋ぐ事が多かった。
成長してから、周りから色々と言われるので、気を付ける様にしているが。
いつもの間にか、自然に手を繋いでしまうのである。
手を繋ぐと、次に、お互いに相手を見てしまうのだ。
・・・
二人には会話は無い。
しかし、二人の間には、なごんだ空気が流れている。
その光景を見た、瑞希先輩が右手を頭に当て頭を抱え、透也は、また溜め息を付き、由衣先輩は羨ましそうに見ている。
二人は駅に着くまで、手を繋いでいた。