第64話 悪友の妹
夏休みが後2〜3日で、終わろうとしていた日。
”チャ〜ン♪ チャラララ〜ン♪ チャラララ〜ン♪”
午前中の暑くならない内に、庭の草むしりでしようとしていたら、携帯の着信が鳴った。
盛りを過ぎたとは言え、まだ一応夏なので、雑草の成長が早い。
放っておくと、直ぐに草むらになってしまう。
暑くない、午前中の内にむしろうとしていた時である。
・・・
画面を見ると、透也からだ。
何だろうなあ。
そう思いながら、携帯を取ると。
「もしもし」
「”お〜、優か、頼む助けてくれ〜!”」
「どうしたの?」
「すまん! 宿題を写させてくれ〜」
「は?」
****************
それから1時間後。
「はあ〜、暑かった」
透也の呼び出しで、僕は今、透也の家の前に立っている。
夏休みの終わった宿題を、持ってきてあげたのだ。
僕は当然、既に全部、済ませていた。
透也の家は、何の変哲もない、ごく普通の二階建ての一軒家である。
その玄関の前に立ち、呼び鈴を押した。
「”ピンポ〜ン”」
チャイムの音がした後で、
「は〜い〜!」
女の子が返事をする声が聞こえた。
「どちらさまですか?」
ドアが開いて出てきたのは、中学生くらいの女の子である。
その娘は、ボブカットの髪型で、やや釣り目がちで活発そうな印象を与えるが、とても可愛かった。
「すいません、透也君の友達の、大橋 優と言う者です」
「あ、あなたが優さんですか、ウチの兄がお世話になっています。
私は、透也の妹で 茜といいます」
そう言って、その娘が頭を下げた。
ん、透也の妹さん?
そんな事は、聞いたことが無いなあ・・・。
「それでウチの兄と、何か約束していたんですか?」
「いえ、夏休みの宿題を」
「そうですか・・・、少し、お待ち下さい」
亰ちゃんは、僕の言葉を聞いて、顔を引きつらせながら、そう言った後、一旦、玄関を閉め、二階へと駆け上がった。
「(この、バカ兄貴、あれだけ宿題を早く済ませろと、言ってただろ〜!)」
「(知るか、お前は母親か!)」
「(母さんから、兄貴の監視を頼まれたからよ。
でなければ誰が、こんな、バカの世話なんかするか〜!)」
「(じゃあ、監視なんかするなよ)」
「(なんですってえ〜!)」
「”ドン! ガラガラ! ガッシャーン!”」
すると二階から、何やら、罵声とすさまじい物音が聞こえた・・・。
・・・
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それからしばらくして、僕は透也の部屋にいた。
「痛てて、宿題を持ってきてくれて、すまん・・・」
ボロボロになっていた透也が、そう言って、頭を下げた。
「茜ちゃんだっけ、透也に妹さんがいるとは知らなかったよ」
「ああ、口やかましいくて、可愛げが無いけどな・・・」
「でも、可愛いじゃないか」
「あんなので良いなら、ノシを付けてやるぞ」
そう言って、透也はそっぽを向いた。
「それじゃあ、イケナイだろ、女の子には優しくしないと。
あれだけ、女の子にアタックしているんだから、分かるだろうに?」
「ん〜、違うんだよなあ。
アイツは、家族だから、お互いに気を遣わないでいられるから、良いんだよ」
「でもなあ、女の子は扱い次第で、どうにでも変わる、ある意味、鏡みたいな物だと思うよ」
「そんな事より、早く、宿題を見せてくれ」
透也は、茜ちゃんの事に興味無さそうに話をブッタ斬ると、宿題を要求した。
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「すまん、恩に着るよ」
透也に宿題を渡し、注意する所を教えると、取りあえず家に帰る事にする。
部屋を出ようと、ドアを開けると、
「きゃん」
イキナリ、茜ちゃんが僕の胸板にぶつかった。
ぶつかった反動で後ろに、倒れようとした彼女を抱き止めた。
抱き止めると茜ちゃんは、ボンヤリと僕を見た後、自分の状況に気付いたのか、慌てて僕から離れた。
「ご、ごめんなさい、飲み物は何にしようかと聞こうとして・・・」
そう言って茜ちゃんは、真っ赤な顔をして、額を手で擦りながら謝った。
どうやら、ぶつかった時に額をぶつけたみたいだ。
「(なでなで)」
それを見て僕は、思わず茜ちゃんの額を撫でていた。
そうすると、茜ちゃんは少し釣り上がった目を緩ませて、気持ち良さそうにしている。
「痛くなかった?」
「・・・いいえ、大丈夫です」
僕はそう言って、撫でていた手を下ろすと、茜ちゃんは、視線の定まらない目で、そう答えた。
「優さん、優しいんですね。
優さんが、私のお兄ちゃんだったら良かったのになあ・・・」
茜ちゃんは、再び、ボンヤリした顔で、僕を見ていた。
しかし、背後で、一連の状況を見ていた透也は、なぜか顔をヒクつかせていたのだった。




