第63話 花火大会にて
姉さん達と海に行ってから、しばらく経った。
盆休みにも姉さんは、休み返上で予備校に通った。
僕の方は、時々、透也と遊ぶ事もあるが、それ以外は特にする事も無いので、もっぱら家でゴロゴロしつつ、家事をしている。
家事と言っても、朝夕の食事と掃除くらいであるが。
シツコイ様だけど、僕は、洗濯だけはやる事が出来ない。
そんな夏休みも、後半を大きく廻った頃、姉さんが予備校から帰ると、唐突に、こんな事を言い出した。
「ねえ、ゆうくん、今度の花火大会、見物に行かない?」
「ふえっ?」
食事の用意をしている最中の僕は、姉さんの言葉を聞いて、包丁を動かしていた手が止まると同時に、、マヌケな声を出した。
「どうしたの、急に?」
「うん、盆休みも返上で頑張ってきたから。
ここで一旦、息抜きを取ろうと、瑞希が言って来たのよ」
は〜、また、いつもの様に、瑞希先輩が音頭を取っているのか。
「それで、どうせなら、ゆうくんも一緒に行かないかって、話になったのよ」
う〜ん〜、何か、意図的な物を感じるけど、まあ、別に悪い事でも無いので、行こうかな。
「そうだね、姉さんと花火を見るのも久しぶりだし、一緒に行こうか」
「うん、ゆうくん、一緒に行こうね〜♪」
姉さんがそう言うと、花が咲くような笑顔を見せた。
僕は、その笑顔を見て、思わず、顔が緩んでしまう。
その後、夕飯の時になっても、二人は、花火大会の話で盛り上がったのであった。
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花火大会当日。
僕は夕方、予備校が終わった姉さん達と、合流するために学校前の駅に向かっていた。
駅に差し掛かった所で、みんなが見えた。
「姉さん!」
「あ、来た! 来た!」
駅の前で。僕の姿を見た姉さんが、僕に向かって手を振っている。
それを見て僕は、急ぎ足で、姉さんの元へと向かった。
「姉さん、遅くなかった?」
「ううん、丁度いいくらいだよ」
急いできたので、汗を掻いた僕を見て、姉さんがポケットからハンカチを取りだし、それで僕の顔を拭いてくれている。
そんな僕たち二人の姿を見た、瑞希先輩が呆れた顔をし、蓮先輩が何とも言えない顔をして、由衣先輩がなぜか羨ましそうな顔をしていた。
「そんな所で、イチャついてないで、早く行こうよ!」
半ば切れ気味で、瑞希先輩がそう言ってきた。
「「・・・はい」」
そんな瑞希先輩の剣幕に、僕と姉さんは思わず、返事をしてしまった。
・・・
****************
それから僕達は、電車に乗り、前に、海水浴に行った海岸に行った。
駅から降り、海岸に歩いて行ったが、その最中に僕と姉さんは、みんなとはぐれてしまった。
余りの人の多さに、いつの間にか人の流れに流されてしまったのだ。
「ダメ、ゆうくん、携帯が通じないよ・・・」
元々から、余り電波が良くない所な上、この人出で回線が混雑しているみたいである。
「仕方がない、今の状況じゃあ、余り動かない方が良いかも」
何とも言えない状況に、取りあえず動かない事を選択した。
今、僕は、人ごみに流されてはぐれない様、姉さんの肩を抱く様にしていた。
姉さんは、可愛い柄のプリントTシャツに、薄手の青いミニスカートと言う服装である。
その薄い服の上から、姉さんの柔らかく、ヒンヤリとした肌の感触を、感じていた。
姉さんの心地良い、肌の感触に意識を集中させていると。
「ドーーーーーーン!」
花火大会が始まった。
「うわ〜っ、ゆうくん、綺麗だね〜」
感嘆の声を上げながら、姉さんが花火を見上げていた。
花火が広がると、瞬間的に辺りが、ほの明るくなる。
その光の中で、姉さんの横顔が輝いている様に見えた。
そんな姉さんの横顔に見惚れていると、
「うん、どうしたの、ゆうくん?」
急に横を向いて、僕を見た。
姉さんの肩を抱いた状態で、お互いに振り向いたので、至近距離で見詰め合う形になった。
「あ、何でもないよ・・・」
「そ、そう・・・」
僕は、照れて、上ずった声で答えると、それに釣られたのか、姉さんの言葉も、語尾がかすれていった。
「でも、花火は綺麗だね、ゆうくん」
上空を見直すと、姉さんが先ほどと同じような台詞を言った。
「うん、そうだね」
僕は姉さんに相槌を打ったが、僕の脳裏には、先ほどの姉さんの横顔を思い浮かべていた。




