第62話 帰りの電車の中で
人目の無い岩場で、由衣先輩と過ごした後、しばらくしてから海の家の所に戻っていた。
「優くん、ごめんね、ただ座っていただけで・・・」
「いいえ、良いですよ」
結局、あの岩場で、由衣先輩と長い間、一緒に座っていた。
「折角、一緒になれたのに・・・」
「え、何ですか?」
「ううん、何でもないよ!」
一瞬、先輩が何かをつぶやいたようだが・・・。
そう思いながら、海の家の方に向かっていると、むこうから、姉さん達が歩いて来るのが見えた。
見ると姉さんは、真っ赤な顔をして、俯いていた。
「姉さん、どうしたの?」
「何でもない! 何でもないのぉ〜!」
「?」
僕が尋ねると、必死になって首を横に振った。
不審に思い、更に尋ねようとした所で、
「あ、ごめん、ごめん、待った?」
瑞希先輩が、やって来た。
先輩は、右手に串に刺さったフランクフルト、左手には焼きイカを持っている。
「瑞希先輩、それはどうしたんですか?」
「あははは、戦利品、戦利品。
色ボケした奴から、せしめてきたのよ」
「はあ?」
「ホント、少しでも、肌を晒す格好をすれば、寄ってくるバカが多いんだから」
先輩が得意満面で、そう言った。
「たまには、逆上するバカもいるけど、そんなのは、返り討ちにしてやったねぇ〜」
、腕に力こぶを作りながら、先輩が続けてそう言う。
「「「「ははは・・・」」」」
それを聞いた僕たち4人は、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
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合流した僕達は、海の家で着替えると、駅へと向かった。
駅で、長い待ち時間を喋りながら待つと、やっと来た電車に乗る。
海へは、車などで来る人間が多い所為か、車両に乗る人間は以外と少ない。
僕達は、電車に乗るとしばらくは、喋っていたが、泳ぎ疲れたのか、僕以外は、みんな眠り始めている。
「すう、すう」
僕は、左隣の窓側で寝ていた、姉さんを見ていた。
対面座席の反対側には、僕の前に由衣先輩、姉さんの前には蓮先輩が寝ている。
そして、瑞希先輩は通路を挟んだ、反対側に寝ている。
寝ている姉さんを見ていた僕は、自然に姉さんの右手を握っていた。
「(ギュッ)」
そうしていると、イキナリ僕の手を姉さんが握り返してきた。
「何しているのかな、ゆうくん♡」
僕が驚いていると、姉さんが小さく僕に言った。
「ねえ、ゆうくん、今日はどうだった・・・」
そう言って今度は、姉さんが不安気な表情で、僕を見ていた。
「うん、みんなと一緒にいて楽しかったけど。
でも、姉さんと二人きりの時があったら、良かったなあとは思っている」
「えへへ」
小さく言った、僕の答えを聞いて、姉さんが満足気に笑った。
「私も、ゆうくんと手を繋いで、海岸を歩きたかったなあ。
今みたいに、ね」
そう言うと姉さんが、握っている手に力を込めた。
「僕も、姉さんと一緒に歩いてみたかったなあ」
僕も、握っている手に力を入れて、姉さんの言葉に同意した。
・・・
電車は目的の駅へと、向かっている。
瑞希先輩ら3人は寝ていたが、僕と姉さんは、無言のままお互いに見詰めていたのだった。




