第60話 弟とシャイガール3
海辺で、姉さん達とボールを使ったりと、しばらくの間遊んでいた後、海の家で昼食を取っていた。
「ねえ、午後からは、それぞれ別行動にしない?」
昼食を食べ終えて、食休みを取っている時に、瑞希先輩が突然、そんな事を言い出した。
「どうしたんですか、イキナリ?」
発言の意図が分からない僕は、先輩に質問する。
「いやね、大人数で動くのも良いけど、たまには2〜3人で動くのもいいじゃない」
そう瑞希先輩が答えるけど、何だか唐突な印象が拭えない。
「あ、そうそう、どうせなら、華穂と蓮、由衣と優くんと一緒に動いたら?」
何だか、ぎこちない様子で、そんな事を言う、先輩。
「でも、瑞希はどうするの?」
と、姉さんが、尋ねてきた。
先輩は、一人でどうするんだろうか?
こんな美人が一人でなんて、狼どもが狙わない訳が無い。
「はははっ、下心で近寄る奴なんか、せびってタカって搾り取ってやるから♪」
・・・すいません、相手が、羊の皮を被ったハイエナでした。
「じゃあ、午後から、それで行きましょう」
そう言って、瑞希先輩が、強引に話をまとめた。
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「由衣先輩、足元は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
そんな訳で、僕は由衣先輩と一緒に、浜辺を歩いていた。
取りあえず、先輩の要望で、静かな浜辺の外れを、二人きりで歩いていた。
先輩は、目が悪いので、僕にしがみ付く様にしている。
先輩の肌は、柔らかいけど、姉さんよりも体温が低いのか、とてもヒンヤリとしている。
みんなと一緒に、遊んでいる時にも、先輩は僕に、しがみ付く様にしていた。
しかし、それを見ていた姉さんは、何だか面白くなさそうにしていたが。
・・・
「ねえ、優くん、ここで休みましょ」
人のいる所から、少し離れた、周りを岩場に囲まれた砂浜に差し掛かった所で、先輩がそう提案して来た。
それで、二人は並んで、その場所に座った。
・・・
それから、しばらく二人で何も言わず、海を眺めていたら。
「ねえ、優くん、私って、可愛いの?」
僕の右隣に座っていた、由衣先輩が、そんな事を尋ねてきた。
目の悪い先輩が、僕に潤んだ瞳をした顔を近づける。
懇願する様な、先輩の瞳に、ドギマギしていると、
「お願い、私は可愛いの?」
更に、先輩が尋ねて来た。
目の前にある先輩の、大きな垂れ目に、通った鼻筋、小さい口にぷっくりとして唇をした、顔を見ながら答えた。
「先輩は、とっても可愛いですよ」
「良かった・・・」
僕の言葉を聞いた、先輩が涙を流した。
「先輩、どうしたんですか?」
「ううん、違うの、嬉しいのよ」
先輩が、そう言いながら、僕の肩に額を押し付けた。
そんな先輩の頭を、僕は撫でてやる。
先輩の、濡れて滑りにくい髪を、痛めないように気を付けて撫でる度に。
「はあ・・・」
先輩の、小さな溜め息が聞こえた。
「優くん、気持ち良いよお・・・」
先輩の頭を撫でている内に、そんなつぶやきが聞こえて来た。
・・・
由衣先輩の涙が止まった様なので、僕は撫でるのを、止めようとしたが。
「お願い、止めないで・・・」
先輩がそうおねだりして来たので、僕は先輩の頭を撫でつづけた。
それから、もうしばらくの間、僕は由衣先輩の頭を撫でていたのであった。




