第38話 弟とシャイガール2
体育の授業が終わり、教室に戻る途中、
「うんしょ、うんしょ」
見た事がある後ろ姿が見えた。
特徴のあるお下げ髪で、誰かと言う事が一目で分かった。
由衣先輩だ。
先輩は危ない足取りで、荷物を運んでいた。
しかも荷物が大きく過ぎて、前が見えているのかが怪しい。
由衣先輩が、階段に差し掛かった。
先輩を危なっかしく思っていた僕は、急いで階段へと向かった。
先輩が階段を登り始める、先輩の足取りが更に危なくなる。
そう思っていたら、先輩が足を踏み外した。
「あっ!」
先輩が声を上げる、それと共に先輩の体が宙に浮いた。
「ぽすっ!」
先輩の体が、床に叩き付けられる前に、僕は、先輩の体を受け止める事が出来た。
「えっ!」
「由衣先輩、大丈夫ですか?」
「優くん・・・」
先輩が一瞬、何が起こったか分からなかったが、僕の声に振り返る。
先輩は、荷物を持ったまま宙に浮いた状態で、僕に抱き締められていたのである。
先輩の体は、女の子だから、やはり物凄く柔らかいのだが。
姉さんと比べると、とても軽いのだ。
姉さんもとても軽いのだけど、それよりも由衣先輩は更に軽いのである。
僕を見詰めたまま、しばらくボーとしていた先輩が、自分の状況に気が付くと、頬を赤くさせながら俯いた。
「お願い、優くん。
もう大丈夫だから、下ろしてちょうだい・・・」
先輩が、赤い頬のまま、そう言ってつぶやいた。
「あっ、すいません、今すぐ下ろします!」
先輩のつぶやきを聞いた僕は、慌てて先輩を下ろした。
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「ふう〜」
今、僕は、荷物を運んでいる。
由衣先輩に変わって、荷物を運んでいるのである。
荷物は、ダンボールに入っていて、結構重い。
これじゃあ女の子、特に華奢な先輩だと、フラついて当たり前だよ。
しかも、大きいから、先輩が持つと視界が悪くなる。
誰だよ、こんなことをさせたのは〜。
「先輩、どうしたんですか、この荷物」
そう僕が尋ねると、先輩が、
「うん、次の授業の教材だって、先生から頼まれたの」
「誰なの?」
「櫛原先生なの」
ああ、あの先生かあ。
あの先生は、人使いが荒いので有名だからなあ。
「ホントに、女の子、特に由衣先輩みたいな華奢の女の子に、こんな重い物を持たせるなんて」
「えっ?」
「先輩、ちゃんと、ご飯食べてますか?
抱き止めた時、あんまり軽いんで、ビックリしましたよ」
先輩がさっきの、僕に抱き止められた時の事を思い出したのか、再び、頬を赤くさせながら俯いた。
「先輩、本当に大丈夫ですか?
女の子、特に先輩は華奢だから、心配になります」
しばらくの間、俯いていた先輩が、不意に顔を上げ僕の方を向くと、
「優くん、ありがとう。
私は、大丈夫だから、心配しなくていいよ」
まぶしい笑顔で僕を見て、お礼を言った。
こうして、僕は、上機嫌でニコニコしている先輩と一緒に、教室まで荷物を運んだのであった。




