第16話 電車の中で
学校が終わり、今、帰りの電車の中である。
僕達は車両の奥の、連結部付近に二人で立っている。
僕がつり革を持ち、姉さんが僕の腕を掴んでいる状態である。
しかし今日は、何だか、いつもより人間が多いな。
そう思っていると、途中駅に電車が入り、ドアが開くと同時に、人間が移動を開始する。
だが、乗る人間と比べて、降りる人間が少ないので、車両の中は、先ほどより更に混雑した。
なので、僕達二人は、車両の壁まで押されてしまった。
「何で、今日はこんなに多いんだよ〜」
思わず、僕が愚痴っていると。
「いや〜参ったよ、急に、事故で全線運休だとか」
「ホントだよ、おかげで、遠回りしないとイケないよ」
周りから、そんな声が聞こえて来た。
どうやら、他の路線で事故運休があって、その煽りを喰ったみたいだ。
「はあっ、今日は運が悪いなあ」
と言いながら、姉さんの方を見ると、姉さんが壁に押されて苦しそうにしている。
「ううっ〜」
それを見ていた僕は、姉さんを自分の方に引き寄せると。
壁に手を着き、退避のスペースを作り、その中に姉さんを入れた。
「はあ、ゆうくん、ありがとう」
ようやく一息付けた姉さんが、僕にお礼を言った。
「姉さん、どうも他の所で事故運休が、あったみたいだね」
「それで、今日はこんなに多いんだ」
いつもは多い事は多いが、この時間帯は、隙間無くと言った所まで多くは無かった。
「ん〜!」
しかし、周りからの圧力が凄いな。
僕は両手を車両の壁に着いて、姉さんを守っていた。
「ゆうくん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
そう言って、姉さんに微笑みかける。
すると、それを聞いて姉さんが、僕の胸に手を当てると、僕に寄り添って来た。
「・・・ゆうくん、ありがとう」
僕に寄り添う姉さんがそう言うと、僕の肩に頬を乗せる。
それから、家の近くの駅まで、そのままの状態でいた。
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電車が家の近くの駅に着くと、僕達はカバンを持って電車から降り、それから駅を出た。
「ゆうくん、ホントにありがとう」
熱い瞳で僕を見詰めながら、姉さんがまたお礼を言った。
「そんないいよ、僕は、姉さんが無事ならそれで良いから」
姉さんが僕の言葉を聞くと、僕の左腕に腕を絡ませて、腕を組んだ。
「えへへ、ゆうくんが私の弟で良かったよ」
姉さんが歩きながら、僕の肩に頬を付ける。
それと同時に、抱き付く姉さんの力が強まり。
僕の左腕は、更に。姉さんの柔らかさに包まれる。
その感触を感じながら、姉さんを見ると、姉さんが優しい笑顔をしていた。
その笑顔に対し、ぼくも笑顔で姉さんに返した。
そうして二人は、春の日の陽の光みたいな、暖かさに包まれながら、家へと帰って行った。




