第15話 後ろからハグ
その日の昼休み。
屋上でいつもの様に、姉さん達と昼食を食べ終わった所である。
「姉さん、美味しかったよ」
「おそまつさまでした」
僕が姉さんの料理を褒めると、姉さんが笑顔を見せた。
そんな僕達を、瑞希先輩と由衣先輩が、もう慣れたと言った感じで見ている。
「あれ、ゆうくん、ホッペにお弁当が付いてるよ」
僕の顔を見た、姉さんがそう言った。
「え、どっち?」
「右の方、違うよ、もっと下」
僕が取ろうとするが、見当違いの所に手を持っているみたいだ。
「違うって、もお、しょうが無いなあ〜」
ナカナカ取り切れない僕に、痺れを切らせた姉さんが、僕に顔を近づけると。
「チュッ」
・・・口で僕に付いた、お弁当を取った。
「ほら、取れたよ」
僕に微笑み掛けながら、姉さんがそう言った。
「・・・姉さん、ありがとう」
そんな姉さんに、僕は照れながらも、お礼を言ったのである。
しかし、そんな事をしていた僕達を、由衣先輩がジッと見ていて。
一方、瑞希先輩の方は。
「アンタ達、そんな事は誰も居ない所でしようね」
複雑な顔をしながら、僕達にそう言った。
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「はあ〜、今日は良い天気だね」
瑞希先輩が、両手を上げながら大きく伸びをする。
今、僕達は屋上の手すりに居て、遠くを眺めている所である。
瑞希先輩がせっかくの晴天だから、遠くの方を見てみようと言ったからである。
確かに今日は、まだ5月に入って無いが、五月晴れと言っても良い天気である。
頬を撫でる風が心地良い。
ふと、姉さんを見てみると、姉さんが髪をなびかせながら遠くを見ている。
何となく、僕は姉さんの背後に廻ると、姉さんの腰を抱き締めた。
「あっ!」
一瞬、姉さんが驚いて身を固くさせるが、僕だと分かると、力を抜き、手を僕の手の上に置いた。
「姉さん、家はどの辺になるんだろうね」
「うん、あの辺りになるかな?」
そう言って、ある方角を小さく指差す。
「あの辺りになるんだね」
僕は、そう言いながら、姉さんの背後から、頬を姉さんの頭に乗せた。
姉さんの頭に頬を乗せると、姉さんの甘い匂いが強くなる。
それに、風にたなびく髪の毛が、僕の頬をくすぐる。
「なに〜、ゆうくん、お姉ちゃんに甘えたくなったの〜」
姉さんが”ふふふっ”と、笑いながらそう言う。
「うん、お姉ちゃん、良い?」
僕は思わず、小さな頃の様に、”お姉ちゃん”と言ってしまった。
「もお、しょうが無いなあ」
姉さんが笑いながらも、そんな事を言った。
それから、姉さんが左手を上げて、僕の頭を撫でる。
姉さんの細くて柔らかい手が、僕の頭を梳って行く。
その感触が気持ち良くて、自然に。
「お姉ちゃん、気持ち良いよぉ・・・」
と、姉さんに甘える様に言ってしまった。
それを聞いて、姉さんの僕を撫でる手がより優しくなる。
・・・
その、一連の光景を見ていた瑞希先輩は、溜め息を付き。
由衣先輩の方はと言うと、僕らの方を見ながら、羨ましそうにしていた。




