第104話 シャイガールとの別れ
昨夜、姉さんに自分の気持ちを伝え、改めて、いつまでも一緒にいる事を誓った。
今度は由衣先輩に、自分が決めた事を伝えなければならない。
朝、学校に行く途中で一緒になった時、先輩に放課後、校庭の裏手に来るように言った。
だから、今日は一日中、気分が重い。
先輩を傷つける事を、告げなければならないからだ。
だけど、それは避けては通れない事でもある。
僕はそんな重い気分のまま、授業を受けていたのであった。
・・・
そして、放課後になった。
今居る場所は、校庭の木の影になっていて、周囲からは見え辛い場所である。
そこで、待っていると伝えてある。
恐らく、姉さんの方も、蓮先輩に今頃、同じような事を言っているのだろう。
そう思いながら、由衣先輩の事を待っていると。
「(来た)」
木の影から、何度も見る姿が見えた。
切り揃えた前髪と肩までの長さの黒髪で、以前とは違い顔に手を入れているので、とても整っている上。
穏やかそうな垂れ目が、その人柄を表しているかのようである。
先輩がユックリと歩みながら近づき、そして、僕の目の前で止まる。
「どうしたの、話があるって?」
そう言いながら、先輩が僕を見て、静かに微笑む。
その先輩の表情を見て、僕は胸が痛んだ。
これから、この表情を悲しみに変えなければならないからだ。
「・・・」
「?」
僕はナカナカ話を切り出せない、そんな僕を不思議そうな顔で先輩が見ている。
・・・
「先輩、この間、僕に告白して来たよね」
「うん、そうだよ♪」
やっとの思い出で、口を開くと、それとは関係なく、先輩が明るく同意する。
「・・・それで、その答えだけど」
「うん」
「ごめんなさい!」
「えっ!」
喉を絞る様な思い出で声を出すと、その言葉を聞いて先輩が驚く。
「・・・」
「・・・」
僕がそう言った後、沈黙が襲うが、しばらくして先輩の口が開いた。
「ねえ、それは、華穂がいるからなの・・・?」
先輩がそう言うと、僕は頷いた。
「でも、二人は姉弟だよ・・・」
震える声で、先輩がそう言った。
「別に、恋人になるとかじゃない。
今まで通り、仲の良い姉弟のままだよ。
ただ、いつまでも一緒だと誓い合っただけだよ」
そう言いつつ、僕はぎこちなく微笑んだ。
それを見た先輩が、溜め息と付いて、
「はあ、やっぱり、二人の間に入る事が出来なかったのか〜」
と、言った。
しかし、その余裕のある言葉とは異なり、先輩の顔は泣き笑いの表情になっていた。
・・・
それから、少しして、先輩が震える声を押さえながら、言葉を発した。
「私は失恋したけど、でも後悔はしてないよ。
だって、あなたに恋したから、私は変われた。
あなたに恋したから、私は強くなれた。」
先輩は笑顔のままで、涙をボロボロ流している。
「だから、私の事は心配しないでいいよ。
だって、次は今まで以上に、良い恋をしてみせるから」
涙を流しながら、僕にそう言った。
「それじゃあ、次に会うときは普通通りに会おうね」
先輩がそう言った後、踵を返すと走り去って行く。
僕は、先輩に何か言おうとしたが、先輩の後ろ姿を見て何も言えなくなった。
先輩を傷つけた僕が、慰めの言葉を言う資格がないのだ。
僕は、黙って、この罪悪感を受け入れるしかないのだ。
そう思いながら、走り去る、先輩の後ろ姿を眺めていたのだった。




