第102話 永遠の姉弟
「(・・・)」
今、僕は、姉さんの部屋の前にいた。
僕が、気付いた事、そして、姉さんに確認したい事を聞くために、姉さんの部屋に入ろうと思う。
しかし、その前に、高ぶった心を落ち着かせようと思い、深呼吸をする。
「すーっ、はあ、すーっ、はあ」
・・・少しは、冷静になれたかな。
心を落ち着かせると、僕はドアをノックする。
「コンコン」
「はあ〜い、入って良いよ〜」
姉さんの声が聞こえたので、僕は部屋に入った。
******************
「ゆうくん、どうしたの?」
勉強途中であったのか、姉さんは机に座ったままで、僕に微笑みかける。
しかし、その笑顔は、心なしか無理をしているように見えた。
「姉さん、蓮先輩に告白されたんだってね」
「えっ!」
だが、僕がそんな姉さんの様子に構わず、イキナリ蓮先輩との事を切り出すと、姉さんは驚いた表情になった。
「どうして、その事を・・・」
「由衣先輩から聞いたんだ、そして、僕はその場で、由衣先輩から告白されたんだよ」
「・・・ゆうくん」
姉さんが椅子から立ち上がると、僕が続けて言った言葉に驚く。
でも僕は、そんな姉さんに、尋ねなければならない事がある。
「由衣先輩から聞いたけど。
姉さんは、蓮先輩にまだ返事をしてないけど、それは僕が関わっているからなの?」
僕が、そう言うと、姉さんが”コクリ”と頷く。
「・・・別にゆうくんが悪い訳じゃないの、私が勝手にそうおもっているから・・・」
姉さんが目に涙を溜めて、今にも泣きそうな顔になった。
僕は、姉さんを泣かす様な事を言ったのに心が痛んだが、それでも続きを言わないといけない。
「姉さんは悪くないよ、だって、僕もそうなんだから。
僕も、由衣先輩に返事が出来なかったんだから」
「・・・どう言う事?」
「僕も、姉さんの事が気になって、しょうが無かったから」
「・・・」
僕の言う事を聞くと、姉さんは黙り込んだ。
そして、僕の心を推し量るかの様に、ジッと僕の目を見詰めていた。
「どうして、僕は、こんなに姉さんに執着するんだろうと、考えていたんだ。
そしたら、さっき夢を見て、それが分かったんだ」
「どうしてなの?」
「昔、幼い頃、姉さんと遠くに行った時、僕が迷子になった事があったよね」
「・・・うん」
頷きながら、姉さんがそう言う。
「あれからだよね、姉さんと僕が、いつも手を繋ぐようになったのは」
「そうだね・・・」
「それから、いつでもどこでも、手を繋いでいたね」
「うん・・・」
「いつも手を繋いでいたから、僕の手は姉さんの感触とぬくもりを、覚える様になったよ」
「私もだよ」
僕の言葉に、姉さんが同意する。
「いつも手を繋いでいて、隣に姉さんがいるのが当たり前になって。
そうしたら、いつの間にか、姉さんが僕の一部になった様に思えるようになったんだ」
「ゆ、ゆうくん!」
「だから、由衣先輩に直ぐに返事が出来なかった。
確かに、由衣先輩は魅力的だし、僕の為に自分を変える位、僕の事を思っている。
何もなければ、すぐにでも先輩の事を受け入れただろうけど。
でも、僕は、姉さんの手の感触とぬくもりが、忘れられないんだよ」
「ゆうくん、私もだよ!」
姉さん目から、涙が溢れ出す。
しかし、それは、嬉し涙の様に思える。
「姉さん! 姉さんは僕の半身なんだ。
僕は、姉さん以外の女の子が隣にいる事なんて、考えられない。
だから、いつまで僕の姉として、僕の側にいて欲しい」
そう言うと、僕は、姉さんを抱き締めた。
「ゆうくん、ゆうくん。
私も、ゆうくん以外の男の子と手を繋ぐなんて、考えられない。
私こそ、いつまでも私の側にいて」
姉さんがそう言って、僕を抱き返す。
そうやって、しばらくの間、お互いに抱き合いながら見詰めていると。不意に、姉さんが目を閉じた。
僕は、姉さんの望む事を理解すると、姉さんの唇に、自分の唇を寄せて行き、そして。
「・・・」
キスをした。
ゆっくりと唇と離すと、頬を赤くした姉さんの顔が、目に飛び込んできた。
「・・・姉弟でキスなんで、何か変じゃないかな?」
「そうかな? 外国では挨拶として、家族でも、する所もあるんだよ」
「そうだよね、家族だから、しても不思議はないか」
「・・・」
「・・・」
「はははっ」
「ふふふっ」
お互い、そう言い合うと、二人して笑い出したのである。
・・・
そうやって、しばらく笑い合った後。
「前に、僕がキスしようとした時があったでしょ」
「うん」
「あの時、姉弟以上になればと思って焦ってた。
でも、そんな事しなくても、姉弟のままでも良かったんだ。
ただ相手だけを、そして、いつまでも一緒だと誓い合えば良かったんだよ」
「そうだね、こんなに仲が良い、姉弟なんて他には居ないもんね」
姉さんがそう言うと、二人は再び笑い出した。
笑いながら、また、お互いに抱き合った。
こうして、お互い、ずっと一緒に居る事を誓い合いながら、いつまでも抱き合っていたのであった。




