大好きな魔女さんへ
「……あら、どうやらここまでのようね。ーあ、まだまだしたいことが、いっぱいあったのに……早すぎるわ」
「……勇者の相手も大変だね、魔女さん」
「そうねぇ~。でも、私は毎回毎世私を見つけるあなたも大概だと思うわよ」
……今世も勇者様は魔女さんを倒すために魔女さんの元へやってくる。世界が味方の勇者様と一人ぼっち(僕がいるから正確には二人だけれど)の魔女さんでは元より結果は見えているけれど、魔女さんは立ち向かう。
「頑張って、魔女さん」
そんな頑張り屋の魔女さんに激励の言葉を掛ける。
「んふ、ありがと。じゃ、行きましょうか」
そうして僕たちは森の奥深くの自宅を後にした。僕はもう帰ってこれないであろうその場所を、しっかり目に焼き付けるのであった。
* * *
「いたたたた……」
僕は薄汚い路地裏の壁にもたれ、腰を下ろした。そして、ゆっくりと目を閉じる。
僕は遠い、遠い昔の記憶を思い起こす。
前世の記憶を。
ここに生まれ変わる前の記憶、それより前の人生の記憶もある。だが今の自分にそんなものは有っても役にたたない。
何故なら僕は今の家庭で虐待を受けているから。今年で九歳となる今世の僕の境遇はかなりキツイ。そもそも今を生き抜けるかも不安である。
しかし、このままでは“魔女さん”に巡り会う前にこの体が衰弱して死んでしまう。
早く、早く、
「逢いたい……。」
そうして僕の意識は途切れた。
* * *
僕は魔女さんが大好きだ。魔女さんが幸せになってくれれば、それ以外何も要らない。なのに、勇者ときたらいつもそんな些細な願いさえ摘み取っていってしまう。
だから僕は勇者が大嫌いだ。
魔女さんはしょうがないことよ、と言っているけど、僕は知っている。魔女さんが勇者に会える、と言うよりも倒される前になると、決まって嬉しそうで、切ない表情を一瞬浮かべることを。
勇者に倒される直前に、いつも僕に微笑むよりも優しい笑顔になることを。
サラサラで艶のある黒髪、吸い込まれてしまうような漆黒の瞳。そして、いつも僕に、差し出してくれる、温かい手の持ち主。大好きだよ、魔女さん。
だから魔女さん、魔女さん、また勇者の前に行かないで。お願いだから。
* * *
「…………っ!!?」
そこは路地裏などではなく、小綺麗な部屋であった。一体誰が?
そんなことを考えていると、不意にノックの音がした。僕が返事をするより先に、その人物は扉を開ける。
「おはよう、よく寝たわね」
扉から入ってきた僕の前にいるその柔和な笑みと瞳の持ち主は……――――――
「……………っ!!
魔女さんんんんんっ!」
「う、っ、うわぁああああああん、魔女さん、魔女さん怪我はっ?病気はっ?しっかり食べてるっっ?」
少し体の傷が痛むが、そんなことはお構い無しに、僕は魔女さんに泣きつく。
「はいはい、大丈夫よ。むしろあなたの方がガリガリで傷ついているじゃない」
魔女さんは泣きながらすがる僕の頭を、なれた手つきで撫でてくれた。ゆっくり、ゆっくりと。
僕が泣き疲れて眠るまで、ずっと。
とりあえず登場人物紹介を
魔女さん:主人公を気に入っている。どうしようもない子供みたいな感覚で主人公に接している。勇者に恋をしていたり、していなかったり。
主人公:魔女さんLOVE、でなくLikeである。生まれ変わる度々に性別がコロコロ変わる。今回では女の子。
勇者:なにかと魔女さんの居場所をつきとめる。そして魔女さんを倒す。その後は不明。
最後まで読んでくださってありがとうございます!出来れば感想などお待ちしております。