免疫染色
いよいよ初日。朝8時半にと言われたが、15分早く着いてしまった私は、秘書室の前の薄暗い廊下で一人立っていた。5分ほどすると、コツコツとヒールの音を響かせて一ノ瀬さんがやってきた。彼女は私を見つけると会釈して、
「お待たせしてごめんなさいね」
と言ってバッグの中から鍵を出しながら、少し足を速めた。
「いえ、早く着いてしまって」
私がそう答えると彼女は秘書室の鍵を開けて、「どうぞ」と中に入れてくれた。
忙しくバッグを机に置いた彼女は、その横に置いてあった白衣と私の名札を差し出した。それから、
「ええっと、作製室の鍵はここです」
と、壁に掛けてある鍵を取り、この前柴田先生に案内された標本作製室に案内してくれた。
「ロッカーの鍵はこの前お渡ししましたよね」
「はい、持ってきました」
私はバッグから鍵を取り出し、ロッカーを開けた。そこにはハンガーが3つあり、白衣や自分の上着を掛けられるようになっている。私はさっそく白衣に着替えてみた。ピシッと糊のきいた白衣を着ると、なんだか背筋も伸びるような気がする。
「もうすぐ作製室の方も来られると思うので、待っててください」
そう言って一ノ瀬さんは秘書室に戻って行った。彼女が出て行くとすぐに、作製室に誰か入ってきた。
「あ、おはようございます~」
この前林田さんと並んで座っていた女性の一人だ。その人は愛想よく笑って、自己紹介した。
「森川さんでしたっけ?私、安道貴美子といいます。よろしく~」
「よろしくお願いします」
私より少し上かな?と思われるが、笑うとえくぼができる笑顔はどことなく幼くも見える。ゆるいパーマがかかった髪はふわふわとしていて、かわいらしい人だなと思った。するとまた人が今度は二人一緒に入ってきた。
「おはようございます」
一人はこの前座っていたもう一人の人。50代くらいの、優しそうな女性だ。もう一人は私と同じ年くらいで、初めて見る顔だった。
「あ、森川さんですね」
50代の人が私に言った。
「豊田悦子です。よろしく」
「私は谷彩香。谷ちゃんって呼ばれてんの。まあ、そのまんまだけどね。よろしくー」
と言いながら、ショートカットで活発そうな谷さんは白衣に着替えた。そこへ林田さんもやってきて、狭いロッカールームはいっぱいになったので、私と安道さんは外へ出ることにした。
「森川さんは免疫染色をされるんですよね」
と安道さんはニコニコしながら私に言った。
「ええっと…それがあんまりよくわかってなくて…」
「あ、経験者じゃないの?まあ、でもひろのさんが教えてくれるから、大丈夫ですよ」
笑顔で安道さんにそう言われ、私は少し安心した。
林田さんはみんなから“ひろのさん”と下の名前で呼ばれているらしい。
「じゃあ、今日は初めてだし。10枚くらいにしときましょうか」
そう言いながらひろのさんは、長さ7cm、幅2cmほどの、定規のような薄いガラスの板を10枚、この前座っていた自分の机から持ってきた。それは高校の生物の授業で見たような、かすかな記憶がある。ガラスの片端は2cmほどが白くて、そこを持って作業するようになっていた。そこには鉛筆で何か、番号と英字が書いてあった。ガラスの表面には、白くて(というより、ほとんど透明な)薄い何かが貼り付いている。
「これがスライドガラス。ここに貼ってあるのが検査の組織で、これを染色してカバーガラスをかけて、プレパラートを作っていきます」
ひろのさんは丁寧に説明してくれる。「そうだ、プレパラート」と、聞いたことのある言葉を思い出しながらも、私は何もかもほとんど初めて見る物に戸惑いつつ、メモを取りながら真剣に聞いていた。
「すっごく簡単に言うと」と前置きしてひろのさんは続けた。免疫染色とは、その組織標本に免疫反応を利用して色を付けることだ、と。
「免疫反応、ですか?」
と私が怪訝そうな顔をすると、はあっとひろのさんはため息をついた。
「そこから?ほんっとに素人なのね。教授も柴田先生も、なんでこんな人雇ったのかな」
あきれたようなその言い方と、「こんな人」という言葉に(そんなこと、私に言われたって…)と私は少しむっとしながらも「すみません」と小声で言った。
「まあ、やりながら説明しましょうか」
そう言って、彼女は金属性の小さなかごにガラスを1枚ずつ縦に入れ始めた。その四角いかごには内側にしきりがあってガラス同士が重ならないようになっていて、スライドガラスが20枚ほど入れられるようになっている。かごの上の部分にはこれも同じ金属の取っ手がついていて、その取っ手を横に避け、ひろのさんは今日染める10枚を1枚ずつ間隔を開けて入れていった。
「手順はいちおう、ここに書いてあります」
と、A4のカードケースに入ったシートを私の前に置いた。そこには“キシレン 5分→キシレン 5分→99%アルコール 3分→99%アルコール 3分”といったように、細かい手順が書かれていた。
「このかごを、ここに書いてあるとおりに、この時間、処理していきます」
ひろのさんはそう言って引き出しからタイマーを持ってきて、まずキシレンと書かれた、透明な液体の入っているガラスの容器に、かごをそのまま入れた。
「待ち時間がけっこうあるから、そのたびに説明していきますね」
そうして、初めての免疫染色が始まった。
「免疫反応って」とひろのさんは説明し始めた。簡単に言うと、例えば外から風邪などの菌が人の体の中に入ってきた時に、体の中でそれを攻撃する時に起こる反応のこと、と彼女は続けた。その時に起こる“抗原抗体反応”というものを利用して、組織を染色していくという。抗原抗体反応とは、風邪の場合でまた例えると、菌が「抗原」、菌を攻撃して退治してくれるものが「抗体」で、その両者が反応すること、ということになる。この反応は、「Aの抗原」には「Aの抗体」、というように、反応する相手が必ず決まっている。こういう反応を「特異的な反応」と言うのだそうだ。それを利用して、検査のために組織の中の染めたい部分に特異的に反応するような抗体を使えば、そこだけに色が付く、ということらしい。
「特異的…ですか」
と私が聞き慣れない言葉に戸惑っていると、彼女はさらにつけ足してくれた。
「まあ、特別ってことかな。よく『鍵』と『鍵穴』の関係って言われるのよ」
この鍵穴にはこの鍵じゃないと開かないって決まってるでしょ、と彼女が言うのを聞いて、「なるほど」と納得するのと同時に、私は浩太郎の家の合鍵のことを思い出していた。開かなかったドア。あんなことするなんてひどい。そのことが、私たちはもう“特別な”関係じゃないと語っているようだ。
ピピピピとタイマーが鳴り出した。私ははっとして、またひろのさんの後ろについて、彼女の作業を見つめる。彼女は慣れた手つきでピンセットを取り、それでかごの取っ手を挟んで次のガラス容器に移していった。
「あの、染めるって、何色になるんですか?」
私は素朴な質問をしてみた。
「茶色、うーん、赤茶色というか、こげ茶色、かな」
ひろのさんは考えながらそう答えてくれた。ふうんと私はうなずいて、ちょっと早く見てみたいな、と思った。
「どのくらいで染まるんですか?」
また尋ねると、「夕方には染まるわよ」とさらりと言われ、
「えっ?朝から始めて夕方って、そんなに時間がかかるんですか?」
と驚いてしまった。抗原と抗体を十分反応させるために、1時間半ほどかかるらしい。その前後にもいろいろな処理があるので、朝から夕方とほぼ一日かかってしまうのだ。午前中までにスライドガラスに抗体の溶液を乗せたらそこから1時間半反応させるので、そこで昼休みをとる。
この作業を、これから毎日やるのかと思うと、私は早くもこんな仕事を選んでしまったことを後悔し始めていた。浩太郎に会えるかもしれないからなんて、どうしてそんなことで決めてしまったんだろう。会えたからと言って、彼の気持ちが変わるとは限らない。私はどうしたらいいんだろう…。
「じゃあ、待ち時間の間に抗体の準備をしましょうか」
私のそんな不純な動機も後悔も知らないひろのさんは、てきぱきと次の準備を始めた。作業することは次々とあるので、余計なことを考えている暇はない。とりあえず私はまたメモを取りながら、説明を聞くことにした。
この前柴田先生に、私の作業台だと案内された机の横には冷蔵庫があった。それは家庭にあるような形のものではなく、食器棚のような、扉が横にスライドして開けられるような形だった。開けると中には小さな瓶がたくさんあった。
「これが抗体。今のところ、ここには700種類くらいあります」
「700種類?!そんなにあるんですか?」
私が驚くと、彼女は普通の顔で答えた。
「だって染めたい場所に合わせて、それぞれあるわけだから。これからまだまだ増えると思うけど。あ、この抗体の管理も森川さんの仕事だから、お願いしますね」
抗体の管理って…。ますます私の心は沈んでいった。
やっと昼休みになり、みんな休憩室に移動してお昼を食べることになった。私は母が弁当を作ってくれたので、それを持って移動した。休憩室には秘書の一ノ瀬さんもやって来た。
「森川さんはどうしてここを受けようと思ったの?」
安道さんにそう聞かれて、私はちょっと困ってしまった。
「あ、ええと、母に勧められて。母がテニスをやってて、そのテニス仲間の古田さんて方がアルバイトを探しているからということで」
「ああ、古田さんの紹介なんだ。それでねー」
と谷さんが言った。すると一ノ瀬さんがこんなことを言い出した。
「まあ、それもありますけど、他の応募者の方がちょっとどの方も変わってたというか…」
「変わってたって?何何?教授秘書しか知らない情報ね?」
と谷さんがサンドイッチを食べながら、身を乗り出した。
「ええ、履歴書に、特技を書く欄がありますよね?例えば就職に有利になるような資格とか、自分の性格とか」
うんうん、とみんなも聞いている。
「そこに書かれてあることが、ちょっとどの方も変わってて」
「あ、それ、加藤先生にもちらっと聞きました」
とひろのさんも加わった。
「あ、聞かれました?じゃ、言っちゃってもいいのかな?」
一ノ瀬さんはあまりそういうことを話すのをためらっていたらしい。
「なんか、特技が『CMの曲をほとんど全部歌える』とか」
一ノ瀬さんがそう言うと、私もみんなも吹き出した。
「何それー?それ特技?」
「しかも“ほとんど全部”ってどういうこと?」
ざっくりしすぎーと言う谷さんに、豊田さんも大笑いしている。
「あと、『生命力が強い』とか」
また一ノ瀬さんが控え目に言うと、さらにみんな笑った。私もみんなにつられて、こんなに笑ったのは久しぶりだと思うくらい笑っていた。
「今度の求人、enに載せたんだっけ?やっぱりああいう情報誌に載せたら、いろんな人が応募してくるよねー」
それにしても「生命力が強い」って、どんな人かちょっと会ってみたいよね、とまだ笑いながら谷さんが言うのを聞いて、学生時代、アルバイトを探すのによく買っていたその情報誌が思い浮かんだ。
「それで、森川さんの履歴書が一番まともだった、というか」
一ノ瀬さんがそう言うのを聞いて、面接の時、私の履歴書を教授が熱心に見ていたのを思い出し、なるほどそういうことか、と納得した。
「あの、古田さんて方は、先生じゃないんですか?」
一体古田さんとは何者なんだろうと思っていた私が尋ねると、ひろのさんが答えてくれた。
「古田さんは技官さんで、主に病理解剖のお手伝いの仕事をしてる人よ」
と、そこでひろのさんの携帯電話が鳴り出した。「あ、ちょっとごめんなさい」と言って、ひろのさんは部屋を出て行った。
「技官さんたちは別の部屋にいるから、まだ森川さんは会ってないんですね。技官さんは三人いて、馬場さんと古田さんと石川さん」
と、安道さんが引き継いで教えてくれた。
「馬場さんはよく『えっちゃん、えっちゃん』って、豊田さんをからかいに来ますよねー」
と安道さんは豊田さんに笑顔を向けた。
「そう、たまにうっとうしいけどねー」
と豊田さん。またみんなが笑った。
なんだかみんな明るくていい職場だな。私は沈んでいた気持ちが、少し明るくなっていくような気がした。
「ひろのさん、電話、航希くんかな?」
谷さんが一ノ瀬さんに言った。
「航希くん?」
私が不思議そうな顔をすると、谷さんが私に教えてくれた。
「ひろのさん、男の子がいるの。9歳だっけ?」
「確か、小学校3年生でしたね」
と一ノ瀬さん。
「え、お母さんなんですね。見えないなあ」
私が言うと、
「そう、離婚して、一人で育ててるのよねー。大変だよね」
とまた谷さんがさらに教えてくれた。ここで正職員なのは、ひろのさんと谷さんの二人だけで、谷さんは主に先生たちの論文のための実験の助手をやっていて、作製室とは別の実験室にいるので、ひろのさんが作製室のいわば主任で指導や管理にあたる立場らしい。午前中、ひろのさんに染色を教えてもらっていると、いろんな先生たちがよく作製室に現れてはひろのさんに何か質問をしていたのを思い出した。性格の強そうな、しっかりした人だなと思ったが、そんな立場にもよるのだろう。先生たちの信頼は厚いように思われた。
昼休みが終わり、また染色の作業が始まった。
「抗原抗体反応は生体反応なので」
とひろのさんはまた説明を始めた。生体反応、つまり、生きている人の体の中で起こる反応なので、スライドガラス上でその反応を起こすためには、ガラスの周りの環境を体の中と同じ状態にしてあげないと起こらないのだそうだ。
「なので、この反応の間はPBSという、まあ、いわゆる生理食塩水をずっと使っていくことになります」
PBS、生理食塩水…文系の私にとって、初めて聞く言葉が次々出てくる。生理食塩水とは、人の体液に近い塩分の食塩水で、PBSはその食塩水のpH(ペーハー、とこれは化学の授業で聞いたことがある単語だった)を7.2から7.4くらいに合わせたものなのだそうだ。
「pHは7が中性で、それよりも低いと酸性、高いとアルカリ性っていうのは、化学で習ったでしょう?」
と、ひろのさんはさすがにこのくらいは知っているだろうという顔を私に向けた。
「はあ、なんとなく」
と答えながら、私は約10年も前の記憶を引き出そうとしたが、それよりも今新しい知識を頭に詰め込む方が賢明だと判断した。わからないのだから、仕方ない。こうなったらなんでも聞いてやろう、とその時やっと開き直ったのだ。
「あの、pHって、どうやって合わせるんですか?」
私が尋ねると、彼女はさっそく待ち時間を利用してPBSの作り方を教えてくれた。pHはリン酸ニ水素一ナトリウムと、リン酸水素ニナトリウムという試薬(それらは、一ナト、ニナトと略される)をそれぞれ決まった分量計って、食塩水に溶かすと、pHが大体7.2から7.4になるのだそうだ。「この二つの試薬の分量を間違えると、pHが違ってくるので気をつけてね」とひろのさんはまた丁寧に教えてくれた。
時計を見ると、もう4時だった。これからようやく発色の作業になる。今まで透明だったガラスの上の組織に色が付くのだ。
「このDABという溶液につけて、発色させていきます」
そのDABにつける時間も抗体の種類によってまちまちで、ひろのさんは何枚かずつガラスをかごに分けて入れ、タイマーをにらみながら、その溶液につけていった。
ピピピとタイマーが鳴り、DABからPBSへ素早くかごを移す。それからその中から一枚を取り出し、顕微鏡の上に乗せた。
「うん、よく染まってる」
彼女はうなずいてイスから立ち、私に顕微鏡をのぞかせてくれた。
そこには網の目のような、茶色く染まった模様があった。すごい。ガラスの上の薄っぺらい中身が、こんなふうに見えるなんて。
「よし。じゃあこの後、この周りをメチルグリーンていう緑の色素で染色して、カバーガラスをかけてできあがり」
長かった一日がようやく終わる、といった感じで、ひろのさんの表情も少し穏やかになったように見えた。時計はもう5時近かった。
メチルグリーンで染色して少し水で洗った後、スライドガラスの表面の水分をアルコールで除き、さらにアルコールを除くため一番最後に透徹という作業をする時、ようやく“夏みかん”の匂いの正体がわかった。ここで使うHemo-De(ひろのさんはヘモディと言っていた)という液体が、夏みかんのような匂いがするのだ。この作業ではキシレンを使うこともあるそうだが、キシレンよりも体に害がないこのヘモディを使っているのだそうだ。
アルバイトの勤務時間はいちおう5時までということになっていたが、メチルグリーンの染色が終わり、カバーガラスのかけ方を教わっていると、あっという間に6時過ぎてしまった。標本が乾かないように表面にカバーガラスをかける、封入という作業はなかなか難しく、初めての私がやると中に空気が入ってしまって、何度もやり直しになった。私が悪戦苦闘している間に、安道さんや豊田さん、一ノ瀬さんがロッカールームから顔を出し、「お疲れさま」、「お先に失礼します」と私とひろのさんに声をかけて帰って行った。最後に谷さんも「初日だから時間かかるよね。お疲れさまですー」と言いながら帰って行った。
「できた!」
ひろのさんに何度か見本を見せてもらい、やり直し4回目でようやく端に空気を追い出して、きれいなプレパラートが一枚できあがった。
「じゃあ、ちょっとこれを顕微鏡で見てみましょうか」
まだ乾いてないから、そうっとね、と言いながら、ひろのさんはそれを顕微鏡の上に乗せた。
「うん、いいんじゃない」
そう言って、また私に見せてくれた。
「わあ」
茶色の周りが淡いグリーンで染まっていて、さっきDABで発色させた時に見たよりも鮮やかな映像が私の目に飛び込んできた。茶色の網目とグリーンの配色は、顕微鏡の光が下からあたっていて、それがちょうど木漏れ日のようで、まるで大きな木を見上げた時のような光景に似ていた。
「きれい」
思わずそうつぶやくと、ひろのさんはようやく笑顔になってこんなことを話し始めた。
「ここは病院からの依頼で検査の標本を作ってるところだから、これを先生たちが見て、教授が最終診断をして、その診断結果を病院に返すことになるのよ」
「診断って、がんとか、そういうのですか?」
私が尋ねるとまた彼女は話し始めた。
「そうね、良性か悪性か、とか。その診断結果に従って、その後の治療方針が決まったりするから、こんな小さな断片でも、すごく大事なのよね。私たちは直接この患者さんたちに会うことはないし、まして病気を治してあげられるわけじゃないけど、医療の端っこで、実はすごく大事な仕事をしてるのよ」
少し誇らしげにそう言うひろのさんを見て、私は思った。「こんな人」と彼女が最初に言ったのは、きっとこの仕事を大事に思っているからだ、と。私のような素人に任せて大丈夫なんだろうかと不安だったのだろう。そして、そんなふうに思える仕事をしている彼女を、私は少しうらやましく思った。
顕微鏡の上の、プレパラートという小さな世界。でも、その向こうには患者さんがいて、患者さんの家族や友人や恋人がいて、これからその人の人生で起こるいろんなドラマが待っている。
不純な動機で始めた私だけど、もう少しがんばってみようかな。
ロッカールームで白衣を脱ぎながら、そう思った。
こういう医療系のお話は、ドラマなんかだと専門家による監修というものがつくのだろうと思います。
しかしこの作品は、この筆者の知識と調査をもとに苦戦しながら書いていますので、その分野の専門の方が読まれた場合、おかしいと思われるところもあるかと思います。
専門の方でなくても、「ここがわからない」や、何か間違った表現等々、お気づきの点がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
薫ようこ