第七話 ココア条約
巨大な会議室に
3人の老人が円卓を囲んでいた。
秘書や警護の者などをふくめると数十人がその部屋の中で
3人のやり取りを見守っている。
その中のひとりが重々しく口を開いた。
「もう皆さんお分かりかと思うが今日の議題は
最近新たに冒険者になったココアという少女の件だ」
一気に部屋の温度が冷えた。
1人は首を曲げて床を眺め、1人は顔に手を当てた。
「我が社の場合、既に彼女の直接的被害においては
保険金の適用外としているが、間接被害が大きく
巻き込まれた人やダンジョンなどの建造物における保険金は
既に冒険者100人分に相当する金額を消費している」
すると続けてもう一人が言った。
「我が社でも同様の処置ですが同じ状況です。
このままいけば我が社は倒産しかねません」
最後の一人が口を開いた。
「お二人はまだいい、うちは最大大手だ。
彼女の『災害』を引き受ける存在が必要だ。
それが我が社の役割だ。それはいい、社会的責務だ。
だが、これを放置すれば我が社とて無傷では済まない」
重い雰囲気が漂う。
「誠に遺憾ながら、今後は被害者の救援も対象を絞らざるを得ない」
「私たちが崩れれば、救われるはずの人たちも崩れるということですな」
「そういうことだ……そこで」
そういうと1人の男はカバンから1枚の書類を取り出した。
そこにはココアの顔に『適用外』の捺印。
「今後、我々保険会社は彼女を人間として扱わない。
彼女は天災だ、自然災害に対して我々は保証を行わない」
「つまり彼女は……」
「人類史上初の人間災害だ」
その日も私は変わらずギルドに向かいましたが
何やらギルド前の掲示板には人だかりが、できていました。
やけに騒々しいので気になった私は
その掲示板に歩いていきましたが
周囲の人達は私を見ると、まるで魔物が出たかのような表情で
恐れおののいて距離を取っていきます。
『ダンジョンブレイカー』などという不名誉な渾名がついてから
そのような目線を向ける人も少なくありませんでしたが
今日はいつもとは明らかに違う。
魔物と言うよりは化け物をみているような目線。
私の周りは気がつけば多くの人に距離を取られて
こんなにも人がいるのにぽっかりと穴が空いているみたいでした。
そしてその掲示板にたどり着くと
そこにはデカデカと私の顔が描かれていました。
見出しにはこう書かれていました。
『冒険者ココア、人間災害に指定』
さらに記事の詳細を読むとそこには
「今後いかなる被害においても保険適用外とする」
と書かれていました。
「保険適用外もなにも、私はもう既にだいぶ前から適用外なんですけど……」
私はつい不平不満を口にした、その時でした。
ニヤニヤした顔をしつつブリジットがそこに現れたのです。
「お前、馬鹿か?」
「いきなり出会い頭に失礼な人ですね!」
「本気で言ってるのか?」
「言ってますよ! 何がオカシイんですか!」
はぁ。とため息をつきながら彼女は言いました。
「お前がお前のケツを拭くのは当たり前だろ。
そうじゃなくてお前の巻き添えになった連中のケアの話だ。
今までは保険会社が渋々出してたんだよ。
今後はソレも無くなるって話。わかったか?」
「ええと、私の支出が増えるんですか?」
「さぁな、そこはあんま変わらないかもしれないが
お前と関わりたいと思う人間はめちゃくちゃ減ると思うぜ?
関わったら最後、完全に自己責任だからな」
そういうと周囲の人達はもういなくなっていました。
「お前、これからどうするの?」
「どうするって……じゃあ1人でやってくしかないですかねぇ」
「ったく、本当にわかってないな。
もうお前が入れるダンジョンはない。
お前と同伴してくれる仲間はいない。
何も出来ないんだよお前は」
「え? えええええええ?!」
一体私が何をしたというのでしょうか!
ちゃんと考えて撃っているのに!
後日この件が保険会社の間でココア条約と言われていることを
私は知ることになったのです。




