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第二十話 ピエロの矜持

「さて、つまらない話はやめて、君の話をしよう」


私はその彼の言葉に背筋が凍るような悪寒を覚えた。

まるで全身を透視されてるかのような不気味な目線。


「ブリジット、君がお守りをするから彼女を殺せなかった。

 つまらんことをしてくれたな」

「生憎と、今はこいつと組んでるんでな。

 そうそう殺されちゃ困るのさ」

「君が固定を組むなんて……面白い観察対象だ」


言葉は温和なのに、その声はどこまでも不気味だ。

全身を舐め回されてるかのような不快感がある。


「さっきの銃弾はどういうことですか?」


「なに、どうということはない。僕は元々は盗賊だからね。

 殺しは遊びだ。本業は盗みなだけ」


言っていることが理解できません。

なんでこんな人との対話が人気なのか。


「なるほど、理解が出来ないか。

 君は評判とは違って、存外常識人のようだね」


「なんで考えてることが解ったんですか?」

「君、わかりやすいって言われたことない?」

「ありません!」

「なるほど。周りの人達は優しいようだね」


なんて失礼な人なんでしょう。

私は黙って帰ろうかと思いました。


「どうやら機嫌を損ねてしまったようだね。

 では君の持つ武器について語るというのはどうだろう?」


私はその言葉に帰ろうとした気持ちが揺さぶられました。


「ハハハ、君は本当にわかりやすいね。

 いいよ、君の銃弾、取った時のトリックを少しだけ説明しようか」


「全部じゃないんですか?」


「物は何でも知りすぎないほうが楽しい。そうは思わないかい?」


私にはあまり理解できない言葉でしたが

彼にとってはそれが大事な事のようでした。


「私のスキルは素早く動く事ができる。

 素早く君の懐から1発だけ拝借して、弾丸を指で素早く弾いた。

 ただそれだけのことだよ」


ありえない。

人間の指の弾く速度で弾丸を発射した?

しかも彼は鉄格子の中にいる。


「随分頭が硬いようだね、君の武装はそれを象徴するようだ。

 きっとジェノスならそんなバカでかい武器をいくつもつけない。

 彼ならアサルトライフルと拳銃だけ装備するだろう」


「嫌っているようなのに、その名前を出すんですね」


「嫌いさ。だが彼はとても、ある意味わかりやすい。

 比喩として便利な存在なのさ」


「それで、私との会話は楽しめましたか?

 私はもうつまらないので失礼したいのですけれども」


どうにも話していて気分が逆撫でされる。

私は今にも彼に徹甲弾をぶち込みたい気分でしたが

彼は不死、ただ牢屋が壊れて脱獄されるだけ。

そしてこんな人格破綻者が世に放たれても良いことはない。


「そうか、じゃあ報酬は僕のこの手元にある。

 取りに来ると良い」


あまりにも露骨な挑発でした。

正直いくらお金に困ってるとは言え銅貨1枚。

乾パンすら買えない金額。


「いりません。そもそも貴方に近づきたくない」

「だから言ったのに。こんなやつとあっても仕方ないって」

「おやおや、彼女はともかくブリジット、

 君までそんなことをいうのかい?」


ブリジットちゃんの表情も露骨に不快感を露わにしていました。

なんでこんな人との面会が人気なのだろうか?


「それは簡単なことだよ。

 世の中には自己肯定感が低い人間が多い。

 そんな人達に僕はそっと遠回しにこういってあげるのさ。

 『君はすごい』『僕には君のことがわかる』ってね」

「相変わらず気色わりいんだよてめぇは」


ブリジットちゃんは吐き捨てるように言った。


「君たちはそんな半端な人間ではない。

 自己肯定感の塊のような人間だ。

 僕との会話では満たされない、むしろ嫌悪感を抱くのは当然だ」

「そうやってつけ入ったところを殺したのか」

「そのとおり。さっきみたいに真正面から撃って殺すなんていうのは

 僕の美学には反する」

「頭がイカれてやがる。さっさと帰ろうぜ」


私もそれに同意するように首を振り、立ち去ろうとすると。


乾いた金属音とともに、私の手のひらに1銅貨が自然と乗っかった。


「本当はもっと大金を渡したいところだが、私は囚人の身だ。

 それが私の持つ最後の1枚の銅貨だ。持っていきたまえ」


「いいのか? それが無くなったらもう依頼も出せないんだろ?」


「構わない、君たちのような骨のある冒険者に出会えた価値はあった。

 次会うときは、私がここを出たときだな」


さらっと脱獄宣言してるように聞こえるけどいいのだろうか……。


「俺達が死ぬまでは出てくるな! 気色悪い!」


「せいぜい長生きしてくれよ、それだけ僕が表に出てこれる確率は上がる」



私達は表に出ると看守さんに面会が済んだことを伝える。

すると看守さんが鍵を締める。


私はあまりのひどさに疑問を口にした。


「看守さん、なんであの人あんなに自由にさせておくんですか?!」


するとやれやれといった表情で彼は答えた。


「意味がないんだよ」

「意味がない?」

「ある日、俺は無性にコーヒーが飲みたくなった。

 だが勤務中にトイレに行くわけにもいかないからね。

 我慢するために目を閉じて深呼吸した。

 そしたらどうしたと思う?

 そこの机に淹れたてのコーヒーが置いてあったのさ。

 いうまでもない、あいつの仕業さ」


どんなトリックを使えばそんな事ができるのか……。


「何をしたかわからない。

 多分あいつはここを出ようと思えばいつでも出られるんだ。

 だから大事なのはあいつの機嫌を損ねないこと。

 だから必要以上の警備は意味がないからしていない。

 私もある意味あいつに仕える使用人みたいなものさ」


世の中は広い。


なんでもありの滅茶苦茶な人がいるものなんだなぁと私は思いました。


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