第十九話 殺し屋の1銅貨
今日のギルドからの依頼は不思議な依頼だった。
Aランク任務。死亡リスクあり。
依頼者はSランク冒険者当人から。
話し相手の募集。報酬は1銅貨のみ。
「あのーこれ1銅貨ってめちゃくちゃ安いんですけど」
「ああ、これはピエロの依頼だな」
「ピエロ?」
ブリジットちゃんはつまらなそうにガムを噛みながら言った。
受付嬢のお姉さんが説明を補足してくれた。
「ブリジットさんが言われる通り、この依頼者はピエロという
元暗殺者ギルドの冒険者で、現在は投獄されています。
刑期は1234年でおそらく死ぬまで出てこれません」
「なんでそんなヤバい人が依頼出してるんですか!?」
「そりゃイカれてるからだよ」
そういう問題ではないと思うのですが。
流石に仕事を選ばないことに定評がつきつつある私ですが
この依頼はちょっとあんまりにもひどくないですか?
「ちなみに死亡リスクってどういうことですか?」
「文字通り、死ぬかもしれないということです。
彼は過去31回面会を行っており、そのうち3名が殺害されました。
そのため刑期が391年延長されています」
ますます持って意味がわからなくなった。
「あの……普通に死刑にならないんですか?」
「もちろん検討はされましたが、彼の場合『殺すことが出来ません』」
「殺せない?」
そう言うと受付嬢は彼の冒険者としてのデータを書面で出した。
能力などがわかりやすく表記されている。
その中で特筆するべき能力が一つ。
『不死』
これは確かに文字通り殺せない。
「不死って書いてありますけど
そもそも寿命で死ぬんですか?」
「わかりません、ただ不老ではないようなので
体が朽ちるまで牢に繋いでおく事になると思われます」
そんなとき、ガムをくちゃくちゃと噛んでいた
ブリジットちゃんが口を挟む。
「遊びなんだよ。暇だからこういった依頼を出す」
「銅貨1枚はどうやって捻出してるんですかね」
素朴な疑問を私は口にした。
「なんか知らんがこいつとの面会は人気なんだよ……
というか本気で依頼受ける気か?」
「少し興味が湧いた気がしまして」
「やめとけよ、最悪死ぬぞ」
「その時はブリジットちゃんが守ってください!」
「俺を巻き込むな!」
そんなブリジットちゃんの苦情は無視して二人で噂の『ピエロ』に
会いに行くことになりました。
「なんで俺がこんな意味のない依頼に……」
「まぁたまにはいいじゃないですか」
そう言う間に私たちは何度も
幾重にも張り巡らされた鉄格子を抜けて歩いていました。
そして更に地下に潜ったその先に、彼の牢獄がありました。
手前で看守の人が言いました。
「持ち物検査はあえてしない。
だが、相手は物を盗んだり利用するのが得意な男だ。
不必要なものはおいていくことをおすすめする」
それだけ言うと本当に持ち物検査無しで私たちは
鉄で覆われたドアの前にやってきました。
看守がドアの鍵を開けると、彼は大きくその場から退きました。
「ここから先はお好きにどうぞ。
私は死にたくないので下がっている。
何が起こっても自己責任だ」
そういうとブリジットちゃんは先に大剣を構えて前に出た。
私も続く足で中に入る。
瞬間、金属の衝撃音がした。
これは銃弾の音!?
しかしそれをブリジットちゃんは大剣を盾にして防いだようです。
「フフフ、合格。この程度で死ぬようなら私の話し相手としては退屈だ」
「てめぇ、叩き切ってやろうか?!」
私はその落ちた弾丸の形状をみるや
すぐに自分の予備弾薬のポーチを確認しました。
……軽機関銃用の銃弾が一発だけ減っている。
「すまないがそれはやめてくれ。いくら死なないとはいっても
斬られたら痛いし、血まみれになるとあとが面倒だ」
「それが嫌なら試すような真似すんじゃねぇよ!」
「それはできない。これが僕の楽しみだからネ」
そうして明かりに照らされて出てきた顔は意外にも幼い少年の顔だったのです。
「あ、あの、どうやって銃弾を抜き取ったんですか?」
「ああ、そんな難しいことじゃない。が、秘密だ」
すごい技術を持っている人……。
私は一つの疑問を口にした。
「どうして捕まったんですか?」
「どうして? なるほど君は新しい冒険者なんだね。
良いだろう。簡単な話だ。君はジェノスという冒険者を知っているかね?」
ジェノスさん……またあの人の名前が上がった。
「知ってます、すごい人だと思います」
「すごい人? はは、なかなか優しい言い方だ、なぁそう思うだろブリジット」
「ブリジットさんとはお二人、知り合いなんですか?」
「まぁ昔少しつるんだことがあるからな」
相変わらずブリジットさんは良くも悪くも友好関係が広いです。
「ブリジット、お前はアイツの事どう思う?」
「化け物、関わり合いたくない。まぁお前とも関わり合いたくないけどな」
歯に衣着せぬ物言いは如何にもブリジットちゃんらしかった。
「そう、奴は化け物だ。簡単な話だ。
俺はあの化け物に捕まってここにいる。
俺から言わせればなんであいつがSじゃないのかのほうが不思議だよ」
確かにすごい人だとは思うけど化け物と言うほどすごいのかと言うと
あまり私にはピンとこなかった。




