第十話 地獄の行軍 その2
私はそっと揺するようにブリジットに触れる。
彼女は豪快にいびきをかいて寝ていた。
何度揺すっても起きる気配がない。
まぁ死んでることはないだろう。
ペンライトで瞳孔を確認する必要はない。
私は今日も彼女をバックパックの上に乗せて
彼女の大剣を手にした。
正直邪魔だった。
私はロープで彼女の大剣を背中のバックパックのサイドに縛り付けた。
周囲は暗闇に包まれており、時間間隔はまったくない。
が、腕時計の時間を確認する。
時刻は午前5時。
私はペンライトを頼りにダンジョンの更に奥へ奥へと進んだ。
途中、何かが走る音がした。
私は腰に下げたホルスターから瞬時に22口径の拳銃を取り出してそれを撃ち抜いた。
ライトを当てると、それは大鼠だった。
12時の食料が確保できた。
私はネズミの首筋をナイフで切断し、溢れ出る血液を飲んだ。
動物の血を飲むことは諸説あるが関係ない。
リソースは限られている。
血抜きをした大鼠を袋に包むと私は更に行軍を進めた。
そして12時を迎えた。
私は近くに落ちている木の枝などを探し
火をつけた。
暖を取るためではなく、大鼠を丸焼きにするためだった。
肉の焦げる匂いに反応したのか、ブリジットが目を覚ました。
「んー、なにか肉の焼けるような匂いがする」
「起きましたか、ちょうど12時です。昼食にしましょう」
私は大鼠をナイフで割いて、半分を彼女に渡した。
彼女は味わうまもなく、あっという間にそれを食べ尽くした。
「あー喉乾いたな、持ってきた水飲むか」
そういうと彼女は持ってきていた麻袋から水筒を取り出した。
「流石に水は持ってきていたんですね」
「当たり前だろ、ばかにするなよ」
「馬鹿にはしてないですが、温存してください。
最深部に到達するのはあと3~4日かかると思われます」
「……もう帰りたくなってきた」
「帰るにしてももう100kmは歩きましたから。
1人で帰れそうですか?」
「……」
結局、その日も殆どを私が彼女を担いで歩いた。
予定通り、100km前進した。
私は彼女がいびきをかいてる横で、進んできた道を
マップに書き記していた。
更に翌日のことだった。
私は何かが動く気配を感じ取った。
ブリジットはいびきを掻いて寝ていた。
暗視ゴーグルで対象を確認する。
ゴブリンの群れだ。
4,5体だろうか。
私は腰にぶら下げていた手榴弾を投げた。
瞬間、激しい閃光と爆音が鳴り響いた!
「う、うおっ! 何事だよ?!」
「ゴブリンの群れがいたので手榴弾で処理しました」
「おいふざけるなよ! ダンジョンが崩れたらどうするんだ」
「そのために一番安全そうな手榴弾にしておきました」
「それのどこが安全なんだよ!」
「対応できないことが一番危険です。
危険だと思うなら起きて歩いてください」
そういうと、彼女は大剣をもって歩き始めたが
結局また2時間程度でギブアップし、私が彼女を担いで歩くことになった。
そうこうしているうちに4日目が終了。
なんだかんだで想定を超えた460kmを歩いていた。
当初予定だと400kmで最深部という話だったので
想定以上にこのダンジョンは深いようだ。
ブリジットはすやすやと寝息を立てている。
私は彼女に毛布をかけてあげた。
ここまでの道のりを地図に記した。
そして5日目。
今まで真っ暗だったダンジョンの奥の方で一際光を放つ空間が存在した。
最深部。
その予感は私を高揚させたが、その前にその場所をよく私は観察した。
その中央には、一体のオークが歩いていた。
他に敵はいない。
すると大剣を引きずる音が鳴り響いた。
「やっと俺の出番か。最後ぐらいは仕事しないとな」
「援護します」
「いらん、それでダンジョンが崩壊したらここまで来た意味がなくなるぞ?」
私は顔で頷き、同意したふりをしつつ
いつでもバックパックを起動できる準備をした。
彼女はオークの真正面から突っ込んでいった。
そして振りかぶった大剣を目にも止まらぬ早さで振り下ろすと
オークは真っ二つに両断され、再び動く気配はなかった。
私はそっとバックパックに伸ばしていた手を下ろした。
私とブリジットは周りに何かお宝やら何かがないかを
探し回ったが、めぼしいものは特に何も見つからなかった。
「弾薬の足しになるものがあればと思いましたが残念です」
「俺はそんなことより食料がほしかったなぁ」
「昨日はヘビを捕まえて丸焼きを食べたじゃないですか」
「まぁそれはそうだがな……」
私は周囲の観察記録をメモすると立ち上がった。
「ん、どこに行くんだ?」
「それは決まってますよ、帰るんです」
「か、帰るって、まだついたばかりじゃないか?」
「水がだいぶ減ってしまいました、どこぞの誰かさんが
考えなしでがぶ飲みするので。
今日今すぐにでも出立しなければなりません」
「っていうか……あの道を今から戻るのか?」
「遠足は帰るまでが遠足です」
こうして地獄の行軍は幕を閉じた。




