7話「愛する彼を虜にできる魔法」
萌えと燃えの能力を手に入れて歪んだ私。
そんな私に黒い影は質問してきた。
「萌えと燃えの能力はどうですか。恋に焦がれてとてもいい気分でしょう。」
この上ない高揚感を抱き、こう答えた。
「えぇ。そうね!!とてもいい気分だわ。今なら誰でも愛せるような気がするわ!!」
身体から沸々と涌き出る愛という欲望。
胸が燃えるように熱く、皆を愛でて支配したい想いで一杯だ。
「それは良かったです。先程も説明した通り、その能力は他人に向ける愛の形により効果が変化する能力です」
「愛の形?」
私は腑に落ちなかった。
愛の形など、好きである想い以外になにがあるのかと。
「えぇ、愛の形です。この人を狂わせるほど私を好きにさせたい愛とこの人を自分の手で葬り、絶望させたい愛の二つです。その能力をどちらとも発揮できるのが萌えと燃えのスキルです」
「なるほど!!あははは。それは、良いわね。私の愛と愛する彼の愛のどちらも持ち合わせてる感じがして好きだわ!!」
その説明は、確かに納得できた。
なぜなら、私がルイスに向けていた好意は、歪んでも純粋に好きだと思う心であり、反対に私にルイスが向けていた好意は愛する人を絶望の淵に叩き落としたいという歪んだ愛だからだ。
「それで、スキルの発動方法ですがこう唱えなさい。もえもえキュンと。」
謎の影から出たまさかの言葉。
青い瞳といいこのセリフといい、やはりこの影はルイスの初恋相手なのかもしれない。
「あぁ。そのセリフね。私も言ったわ。彼を想ってね。でも、その想いは届かなかったわ。ほんと何で…何で…何でなの」
髪をむしり、悔しさを浮かべながらそう言う。
「ええ。そうでしょう。あなたの想いは、痛いほどわかります。ですが、今の貴方ならその言葉も絶大な効果を発揮する魔法の言葉になります」
深い共感と信頼、そして相手の成長を確信した上での力強い後押をくれる言葉。
「相手を愛したい、萌えさせたいなら手でハートを作りながらこう言いなさい。私の虜になりなさいご主人様 "萌え萌えキュン"。そして、相手を殺したいと思うなら同じく手でハートを作りながら"業火の炎に焼かれて苦しみなさいご主人様 "燃え燃えキュン"と。」
謎の影は説明を終えて徐々に消えていく。
私は、情報の整理が追い付かないまま振り向き、歩みを進めて行く。
目線に写るのは、燃え盛る建物や無惨にも道端に転がる数々の屍だ。
転がる屍は老若男女、様々である。
そんな中でも、騎士はまだ追いかけて民達を殺そうとしているのが分かる。
もはや、そんな光景を見ても何も想わなくなった。
私の姿を見ても騎士達は殺意どころか見向きもしない。
ルイスから命令をされているからだろうか。
ただ一心に私は愛する彼の元へ向かう。
そんな中をしばらく歩いていると、ようやく彼の姿が見えてきた。
「あぁ。やっと見つけたわ!!貴方をずっと探していたの」
民に剣を刺して、前にも増して血飛沫を浴びた彼。
そんな彼を見つけた喜びで胸が一杯だった。
「おお。ようやく来たか。待ちわびたよ。そろそろ君を殺そうかと考えていた頃なんだ。来てくれてありがとう。ヘンゼル」
彼は、私を殺せる幸せと殺意で満ち溢れた表情で言ってくる。
次の瞬間だった。
彼は剣を構え、私に斬りかかってくる。
「死ねぇぇぇぇぇぇ」
振りかざされた銀色の刃は、私の身体に傷を入れた。
大量に出てくる美しい赤色の鮮血。
なぜか、痛みは感じない。
感じるのは、彼の刃で斬られてるという幸福感と愛しさ。
まさに彼の愛の形をその身で受け止めてる感覚だ。
「アハハハハ。心地いいわ。私を斬ってくれてありがとう。貴方の愛の形、最高だわ」
斬られても動じるどころか喜ぶ私に恐怖を抱くルイス。
「な…なんなんだよ。気持ち悪い化け物め。」
そう言って私を拒絶する彼。
その一言を言われた途端、悲痛へと変わる。
「なんで…。なんでそんな事を言うの」
予想外の言葉に、現実を受け入れられず、ショックを受けた。
「もう、いいわ。そんな事を言うなら貴方も虜にさせてあげる」
「ふふっ」という吐息のような笑いを交え、相手を手のひらで転がすような余裕を見せる。
一呼吸し、手でハートを作りながら私はこう囁いた。
「私の虜になりなさいご主人様。"萌え萌えキュン"」と。




