6話「歪んだ能力を授かった時」
そんな私の想いを悟るかのように騎士達に命令するルイス
「よし、もう説明したし!始めちゃおっか!!始めに~」
そうやって民達に指を刺しながら誰から殺そうか決めている。
その間も、彼の表情は生き生きとしていた。
「あ!そうだ!!」
指を指すのを止めて何か思い付いたような表情をするルイス
「ヘンゼルの家族は居ますか?出てこないと娘さんを殺しますよ~?」
まさかの提案をするルイスに動揺する。
「ちょっ…。まって…」
彼の考えが分かり、大きな声を出して呼び止めようとする。
さすがに愛する家族は殺されたくなかったからだ。
「ん?何?止めないよ?家族を殺せばもっと歪んだ表情がみれるからね!」
不敵な笑みを浮かべる姿に彼の好奇心を感じる。
「もう、でてこないなら皆一斉でもいいや!!やっちゃって!!」
そう言って騎士達に命令をするルイス。
「カチャ…。」
騎士達は鞘にしまっていた剣を取り出そうとした、その時だった。
「はい…私達です。だから皆を殺すのを止めてください!!」
「どうか、皆と娘を殺さないでくれ」
そう言って立ち上がったのは、私の両親だった。
「あ!!やっぱり居た。こっち来て」
そう言って笑みを浮かべ、ルイスは手招きをする。
「まって、まってよ…お父さん。お母さん」
必死に私は、ルイスの元へ向かう両親を呼び止めようとするも叶わない。
心底、自分の無力さが嫌になる。
「よし!!来た!!それじゃ~。娘さん達の復讐のためにもその子達の両親である。六人に殺させそうか!!」
無情にも奪われた痛みと同じを味合わせるという方法を用いてきたのだ。
そうやって騎士達から授けられた剣を手に持って、順番に三人ずつで何度も刺していく。
その時の被害者達の両親の眼差しは悲しさや憎悪に満ちていた。
「「ぐっ……あ、が……!」」
両親を失うという目の前に広がる絶望。
血飛沫が痛々しく吹き出る光景。
何度も刺されて血だらけで横たわる両親の姿。
「いやぁぁぁぁぁぁ。お願い、もうやめて…これ以上私を壊さないで」
彼によって私の愛着や信頼が、無残に踏みにじられている。
「ヘンゼルよ!!今、どんな感情だ?憎いか?それとも死にたいか?まぁいい!!これからもっと地獄を味わってもらう。やれ!」
そして両親が殺された事を皮切りに一斉に騎士達は前に出ていき、次々と民達を殺していく。
逃げ惑う人達を追いかけて剣で刺し殺す騎士や生きたまま火炙りにする騎士など様々である。
そうして、コンクリートで出来た道の真ん中に跪きながらも彼の顔を見ていた。
「どうだ!?ヘンゼルよ。私に恋をし、信じるからこうなるんだ!!アハハハハ!!哀れだな!!」
刀を片手に高笑いをする愛していた貴族のルイス。
最初の私だったら、殺意が芽生えていたであろうこの状況でもこの人に恋をし依存した私には、その言葉や姿すらも憎しみどころか愛おしく想えてくる。
完全に私の情緒はおかしくなっていた。
「死にたいだろ!?だが、お前はまだ殺さない。自分の大切にしていた民達が死に行く様をお前には見てもらう!!」
無情にもルイスは私を殺してはくれなかった。これも歪んだ思想の前では、私への歪んだ愛にしか捉えられなかった。
圧倒的な支配下や極限状況の中でも私の愛は彼に向いていたのだ。
「さて、私もこやつらと共に民達の皆殺しに参加するとしようかな!アハハハハ!!お前は、今までよく俺のために頑張ってくれたよ!ヘンゼル愛してるよ。」
ルイスは駆け出し、次々と民達を斬っていく。
「アハ…アハハハハ。民…民達が皆死んでいく。アハ…アハハハハ」
心が壊れていた私には、虚しくも笑うことしか出来なかった。
目の前に広がるのは、燃え盛る村と逃げ惑い、殺されていく民達
「た…助けてください。ど…どうか。」
「ザクッ…。痛い…痛い。」
村中に無情にも鳴り響く斬死されていく者達の断末魔
建物の外壁に飛び散る血液はまさにペンキで塗装されたようだった。
大切な家族や民を目の前で殺される絶望と愛おしいルイスへの歪んだ愛の間にいた。
絶望を抱き冷たいコンクリートの地面に膝をついている。
正義や善人だと吟われ、私も信じ、愛してていた貴族である愛する人に裏切られた私の心と身体は既にボロボロだった。
もう…全てが終わってもいい。愛し家族や民達、そして、愛するこの人と共に自分も死んでしまっても良いと思い、目の前にあったナイフを手に取る。
その時だった…。
「そのまま死んでもよろしいのですか?」
突如として現れた青い瞳の謎の影が私に問いかける
「あなたは一体…」
突然現れた存在に疑問を抱く私。
だが、謎の影はそんな事をお構いなしに話を進めてくる。
「私が誰かなど、どうでもいいのです。民の為に労力を費やし、愛する者を信じた貴方が、なぜ裏切られた挙げ句に、愛しの家族や大切にしてた民までも奪われなければならないのか。」
謎の影は一息ついてから、さらに言葉を重ねた。
「それは、貴方にまだ愛が足りないからです。愛が足りないからこそ、愛しの人に裏切られて大切な者達を奪われる。あなたの使命は、愛する者達を愛し尽くすこと。そして、牙を剥くものを愛して殺すこと。」
「愛が足りない?」
始めは、疑問を抱いたが納得できる部分もあった。
確かに彼の事を愛していたが、狂う程までに相手を愛することは出来てなかったからだ。
「そんな貴方に能力を授けましょう。それは、皆を虜にできる"萌え"の力と恋い焦がれた者を燃やせる"燃え"の力です」
青い瞳の謎の影が私にそう提案する。
「と…虜に出来る力と燃える力?」
その黒い影の問いかけに対して、とある一つの考えが自分の頭を過る。
もう二度と絶望を味わわないようにするためにはこの影が言う相手を虜に出来る"萌え"の能力と恋い焦がれた者を意のままに燃やす"燃え"の能力を授かり。
萌えの能力で愛した者の愛情を私に向けるようにし、尚且つもう一つの能力である燃えの能力を行使して自分に愛情を向けない者を滅す。
そんな、自分が愛した皆が自分に愛を向けるような世界を目指すという歪んだ考えになっていた。
「そ…その能力があれば、私は幸せになりますか?皆が私を愛するようになりますか?裏切りのない、自分が幸せになる世界を作れますか?」
絶望の縁に立たされた自分にとって、心の底からの願いだった。
今まで民を想って動き、愛する人に愛情を注いだ私にとって、愛する家族や愛しの人、そして大切な民達と共に幸せにこれからの人生を歩めると思っていた現実が数々の出来事により、打ち砕かれたのだから。
その私の問いかけに対して、禍々しい黒い影は答える。
「ええ!もう失わなくて済みます。貴方の愛で世界を包み込むことで、皆の想いは貴方だけに向けるようになり!裏切りなどない!貴方だけの世界が完成するのです」
禍々しく普通なら疑うであろうこの状況すらも絶望の淵に立たされた私にとっては、疑うどころか救いの神にすら見えてきた。
「そ…その能力を私に下さい!!あの人や残された民達への愛情しか私には残されていないのです」
大切な者達を失った自分にとって、支えとなるのはあの人や民達への想いだけだった。
涙目で黒い影に手を差し出し、心の底から願う。
すると、謎の影は手を差し出した。
差し出されたその手の平にあったのは赤と黒色の禍々しい魂のようなものだった。
その差し出された魂を自分の手の平に乗せて自分の身体へと取り込む。
「ドクンッ…。ドクンッ…」
高鳴りを感じる鼓動。
身体の中にふつふつと沸き上がるこの感情。今まで味わったこのないような爽快感。
ワインレッドの美しい瞳は円を描く。
「ヒッ…ヒッヒッヒ!!な…なんなのこの愛に見溢れた感情は!!身も心も燃えそうだわ!!でも…その苦痛すらもとても気持ちいいわ!あ~。皆を愛で包み込みたい気分!!愛おしい!愛おしいわ!アハハハハ。あ~あ。誰もわかってくれない。もう嫌…死にたい」
顔に手を添えながらひきつった笑顔で笑う。
完全に愛に支配され、全てが愛おしく想えてくる。




