3話「愛しの彼からのプレゼント」
あの犯行後の出来事は今でも鮮明に覚えている。
まず、ルイスが謎の薬品を取り出し、自分についた血痕を素早く取り除き、制服から中世ヨーロッパを感じさせる服装に着替えた。
犯行がバレないようにするためだろう。
何故か、ルイスの手慣れた動作からは今日が初めてじゃないように感じ取れた。
私はこの異様な光景をただ見ているだけだった。
「えっと~!!死体はこのまま放置でいいや。ほら!ヘンゼル。この場を早く立ち去るよ!じゃないと見つかっちゃうからね」
そう言って作業を終え、私に歩み寄って手を差し伸べるルイス。
差し伸べられたルイスの手を握る私。
少し血生臭いその手からは、彼の手段を選ばない冷酷な部分ともう後戻りできない罪悪感、私を想う愛の温もりを感じた。
亡骸となった三人の姿を背に罪悪感を抱きながらも即座にその場を後にする私とルイス。
三人の死体はそのまま放置である。
「すみません。あの死体って放置で大丈夫なんですか?」
私は疑問を抱き、走りながらルイスにそう問いかける。
こんな時に何を聞いているんだろうか。
目の前で殺人が行われたのにも関わらず、心配するのはルイスの命運だった。
もちろん、三人への罪悪感や説得で出来なかった自分の無力さも感じたがそれよりも彼の方が大切だった。
「あぁ。死体かい?大丈夫だともさ。どうせ、誰一人僕を疑わない。疑ったとしても貴族である僕の権力を用いて揉み消すからね。そこは安心してよ!」
そう言って私の問いに平然と答えるルイス。
「は…はい。なるほど。そうなんですね…」
私を心配させまいと出た言葉。
そんな言葉に、思わず少し疑問を抱きながら返事をしてしまった。
彼の言葉からは、一つの不安も感じ取られなかった。
それどころか権力への絶対的な信頼やかつ確固たる自信が感じ取れた。
それも、彼の表向きの姿は誰にでも親切で、民の安寧を第一に考え、称賛の声があるブライダル国王の一人息子だからだろう。
そういう経緯からも彼を誰一人疑おうとはしないのだ。
もし、疑ったら私をいじめた奴らのように消されるのかも知れないとも考えた。
そういう考えを抱きながら走った私は、気が付くと校内を抜けて城の近くの商店街まで来ていた。
「はぁ…はぁ。つ…疲れたね。もうここまで来れば安心だね。」
息を切らしながら周囲を見渡してルイスはそう言ってくる。
余裕や落ち着きを感じさせる息遣いや周りを警戒する動作からも手慣れているのが感じ取れた。
「はぁ…はぁ…。そ…そうですね。はぁ…はぁ…っ」
余裕そうな彼とは反対に私は、精一杯に息を切らしながらそう答える。
日頃、運動不足な事や緊迫した空気感も相まっての事だろう。
「息切れてるけど、ヘンゼル?大丈夫?」
私を心配してくれるランス
そんな所にも彼の優しさを感じる。
「だ…大丈夫です。はぁ…はぁ…。す…少し歩きましょうか。」
「商店街だしね!散歩する意味でも歩こうか!」
呼吸を整える意味でも私達は、商店街を回る事にした。
行き交う人々は男女関係なく、大人から子供までの幅広い年齢層の貴族や民達。
皆が楽しそうに雑談をしながら歩いている。
沢山の魅力的な物が立ち並ぶ商店街。
その中でも特に彼の目を惹く一品があった。
「あ!あの服、ヘンゼルに似合いそう。」
そう言って人波をかき分けながらその物がある店の前に颯爽と駆け寄るランス
「あ…一体何があったんですか?待ってください!!」
何かと思い、彼が向かっている店へと付いていく。
「これって…。なんて美しい服」
私も思わず目を惹かれた服。
その服は、沢山ある服の中でも群を抜いて美しいピンクと黒の装飾で彩られた。可愛らしい白色のメイド服だった。
「ね!!美しいよね!これなら君にも似合うと思うんだけどどうかな?」
ランスは明るい口調で私にそう提案する。
「似合うかもしれませんが。さ…さすがに高そうですし、そのお気持ちだけで十分です!!ありがとうございます」
私は、ランスからの提案を丁重にお断りした。
例え、物が貰えなくてもその言葉や想いだけで十分嬉しかったからだ。
「え~!!どうして?何かダメだった?」
不満そうな顔で答えるルイス
「いえ…不満とかではなくて。お金が…」
私が気にしているのは、デザインではなくお金だ。
彼がくれるものならもちろん何でも嬉しいが値段も分からないので、さすがに彼に払わされるのも申し訳なく思う。
「え?そんな事?僕を誰だと思ってるの?国王の息子だよ?お金ぐらい沢山持ってるに決まってるじゃん!」
自信満々にそう答えるルイス
さすがは国王の息子だ。
彼の言葉には確かに、説得力があった。
「えっ…でも~。」
でも、お金持ちだろうと気が惹けてしまう。
こういうぐずぐず考えてしまい、素直に甘えられない所も私の悪い所だと自覚している。
私は目を逸らして、指をいじりながら遠慮している。
なぜなら、貧乏な家庭で育った私にとっては一番と言っていいほどお金の大切さやありがたさを身を持って実感しているからだ。
「ほら!!良いから!良いから!店主。これいくら?」
私に遠慮するなと言わんばかりに椅子に座っている店主に値段を聞くルイス
「これかい?これはね。五千リンだよ」
白い髭を蓄えた八十歳であろう店主がそう答える。
「え!?五…五千リン!?」
私は、値段に驚愕し思わず大きな声がでた。
というのもこの世界において、一リンが十円だとすると、五千リンは五万円という計算になるからだ。
私達にとって五千リンあれば、少なくとも一年は何不自由なく暮らせるほどの大金だからだ。
「あ~!!五千リンか!!分かったよ。はい」
動揺する私とは裏腹に平然と財布から五千リンという大金を差し出すルイス
「さ…さすがですね。」
私は驚く事しか出来なかった。
「毎度あり!!彼女さんかい?お幸せに!」
笑みを浮かべながら店主はそう言ってきた。
「この方の彼女だなんて!!う…嬉しいです」
赤面しながら私はそう答える。
店主も我々をカップルだと思っているようだ。
カップルに見られた事への喜びを抱きながら私達は、店を後にした。
そして、ある程度歩いた所でルイスに買って貰った事へのお礼を言う。
「ありがとうございます!ありがとうございます!!」
愛する人からの初めてのプレゼント。
彼の優しさや懐の大きさを感じてとても嬉しかった。
「いえいえ!!どういたしまして!それよりも買ったことだし着てみるかい?」
もちろん、答えはYesである。
「はい!!ぜひ!着てみたいです」
そう言って建物の陰に隠れながら着替える私。
着替えながら彼がどんな顔をするだろう。喜んでくれるかな?という期待に胸を膨らませている。
「ふん♪ふふ~ん♪ふ~ん♪…」
彼の喜ぶ姿があまりにも鮮明に思い浮かんでしまい、喜びのあまり思わず鼻歌を歌ってしまう私。
着替えが終わりとうとうお披露目の時。
この時も私の心情は、喜んでくれるだろうという期待といつもとは違う自分を見せれる喜び、彼に見せるという緊張で胸が一杯だ。
私は、メイド服に着替えて彼の目の前に飛び出す。
「どう?似合ってる?可愛い?」
体を縮めて上目遣いをしながら彼にそう問う。
「わ~!!似合ってるじゃん!可愛いよ。より一層見違えて美しくなってる!!最高だよ」
万年の笑みで褒めてくれる彼の姿にこちらまで嬉しくなった。
自分の予想を遥かに超えた彼の反応に胸が熱くなる。
「やっぱり…この人を好きで良かったな」
私は、小さく独り言を呟く。
「ん?何か言った?」
疑問を抱くような表情で彼はそう言った。
「いいえ!何でもないです!」
聞かれたかと思い、赤面した顔で目線を逸らしながら答える。
すると、彼は次にこう提案してきた。
「あ!!その格好なら丁度良いや。ねぇ…こう言ってみてよ!"もえもえキュン"ってさ」
今思えば、この彼からのプレゼントと要求こそが後の私の人生に大いに影響を与えた出来事なのだろう。




