2話「愛しのあの人は救世主」
先程まで恐怖で震えていた足の震えがようやく止んだ。
不安な表情のまま、同じ目線で話す彼の言葉に耳を傾けている。
「確かに…されましたけど」
私は言葉に詰まるようにそう言った。
「だろ!?なら復讐をしないと!やられっぱなしじゃダメだ!!」
眉間に深いしわを寄せる彼の表情から強い怒りや憎しみを感じる。
なぜ彼は、ここまでするのか。私は不思議だった。愛のため?それとも自分のため?
「なんでそこまでするんですか?」
愛のためであってほしいと心の底で願ながら私は彼にそう問いかける。
「それは、君のために決まってるじゃないか。愛してる人がいじめられる姿なんて見たくないだろ?だから、終わらせるのさ!」
その一言により、私の想いは確信へと変わる。
これは間違いなく私のためだ。
貴族という高嶺の存在であっても愛に格差はないという事を純粋だったこの頃の私は簡単に信用してしまっていた。
「本当ですか!?嬉しいです。私のためにそこまでしてくれるなんて!!」
彼が私を想ってくれている喜びと自分だけを見てくれているという強い承認欲求で満たされていた。
それと同時に誰にも渡したくないという独占欲も湧いてくる。
「でも、どうやってやるんですか?」
素朴な疑問だった。
復讐というのなら、どれほどの事を考えているのか。
好奇心を抱き、聞いてみた。
「復讐の内容かい?それはね。彼女ら三人を呼び出して斬殺するのさ!!これでもういじめられないだろ?君の不安の種も消えて、僕も君が苦しむのを見なくて済むんだ!!」
彼のまさかの提案に衝撃を受ける。
「でも、その復讐って…。やりすぎじゃ。流石に殺したくはないです」
今までいじめられた事は消せない事実であり、恐怖や若干の憎しみは確かにあった。
だが、どれだけ憎かろうと殺意を向けたことはなかったし、自分にも落ち度はあったと思っていた。
恐怖を抱き、不安な私を余所目に話を続けるルイス。
「なら、次いじめられても助けないよ?それに、もう一生関わらないけどいい?」
さっきの笑顔はどこへやら、次はあきれたような表情で私にそう問いかけてくる。
その言葉に感じる失望と関係性の終わりを告げる強い決意
「ごめんなさい。私が間違っていたわ!だから、関わらないなんて言わないで!!殺すのは嫌だけど、あなたを失いたくないの!」
否定したい気持ちはあるが、ルイスに見捨てられるという絶望感と受け入れがたい現実の方が強くて承諾してしまう。
それほどまでに彼に惹かれていたのだ。
「なら…。それでいいんだね」
悲しい諦めを感じさせるルイスの表情。
彼も彼なりに愛する私のために辛い決断をしてくれているんだと感じた。
彼をここまで追い込んでしまった罪悪感と胸が締め付けられる想いだ。
「あ!!なら殺さない方法を探せば!!」
私も彼も苦しまない、殺さないという選択肢以外はないのかと彼の説得を試みようとする。
「ごめんだけど、僕にはそれしか方法が思い付かないんだ。大丈夫!!僕に任せて!君は見てるだけで大丈夫だから」
切なさを感じる表情を浮かべるルイス
彼を説得する事は無理だった。
「…分かりました」
念を押して、説得したい気持ちはあるものの次こそ本当に関係を切れかねないのでしぶしぶ承諾する。
「それじゃ…。放課後に校舎裏で決行するから。よろしくね。じゃ…また。」
「また…」
別れ際の心情はどこか辛く、愛しの人と共に居れるはずなのに今から起こる出来事を受け入れてしまう自分に罪悪感があった。
私とルイスはそう言って別れを交わし、いつも通り一人の学校生活を過ごした。
そして、時は過ぎて放課後になる。
私は約束通り。放課後に校舎裏に向かう。
今から起こる出来事を知りながら校舎裏に向かう重い足取り。
なぜここへ向かっているのかという徒労感と感情が麻痺したような感覚が私を襲う
「あぁ!!やっと来たね…。」
不安な私に手を振るルイス。
待っていたのは、ルイスと三人の上級生。
「なに!?この女まで来て何の様なの?」
「ほんとよ。何かの嫌がらせ?」
「私達暇じゃないんだけど!!もう、帰っていい?」
突然の呼び出しに怒る三人
そんな三人を無視するかのように淡々と話を進めるルイス
私は、歩み寄ろうとするが重い足が動かずにその状況を離れた所から見ることしか出来なかった。
「さぁ。皆が揃ったことだし始めようか!」
そう言ってルイスは鞘から剣を出した。
「ちょっと…何よ、それ。」
突然、剣を出したことに動揺するサラ
「「(息を呑む音)」」
他の二人は恐怖のあまり息を飲む事しか出来ないようだ。
そこからは、一瞬の出来事だった。
刃に斬られたサラの腕から大量に噴き出す鮮烈な赤い血。
「「あ゛あ゛あ゛ぁぁっ!?」
悲鳴をあげる暇もなく、無惨にも何度も斬られ、恐怖に歪んだ表情のまま横たわるサラ
「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
飛び散る血と共に鳴り響く二人の悲鳴。
カレンは逃げようとするも追いかけられ背後から刺殺される。
その後を追うかのようにシェーンも同じく刺殺される。
恐怖に歪む三人の顔。
一方、ルイスのニヤついた表情から感じる圧倒的な支配欲や虚無感の解消。
この時も、もしかしたら私の事を想っていたのかもしれない。
目の前で殺される者達を眺める罪悪感や愛しの人の本性を私だけが知ってるという特別感。そして、私の事を想ってくれてるという喜び。
最初は抱いていたはずの恐怖心は何故か抱かなかった。
もしかしたらこの日から私の思考は歪んでいたのかもしれない。
「ほら!!もう終わったよ!!これで君も僕も苦しまなくて済むだろ?ハッピーエンドさ!!あははははは」
無惨にも痛々しく殺されて亡骸となったカレンとサラとシェーン。
そして、返り血を浴びながら剣を片手に不敵な笑みを浮かべるルイス。
まさに地獄と化していた。
その日が初めて、貴族で善人と謳われた愛しの人の本性を知った日だった。




