1話「愛しのあの人は貴族」
私の名前は、ヘンゼル・サタニキア
大人可愛さを感じさせるピンクアッシュのロングヘアーに、深く濃厚な情熱を感じさせるワインレッドの美しい瞳。出る所は出ていて、右目は髪の毛で隠れており、容姿端麗な見た目の18歳である。
性格はおとなしく、誠実で安心感や穏やかさを大切にする内向的な性格だ。
そんな私は、ブライダル王国の庶民であるサタニキア家の一人娘として産まれた。
家族構成は父と母、そして私の三人構成。
家の中には、一つの机と二個の椅子のみ。
一つの芋を皆で分け合って食べるほど、とても裕福とは言えない家庭だった。
でも、笑顔が絶えない家庭が私は好きだ。
「お父さん!お母さん!学校行ってきます!」
「おお。行ってらっしゃい!!気を付けるんだぞ!」
「弁当持った?気を付けるのよ!」
「うん…。わかった~!! 」
両親と笑顔を浮かべながら元気に挨拶を交わす。
どれだけ気分が落ち込んでいようと両親に心配はかけたくないので、笑顔で振る舞う事を心がけている。
「ガチャ…」
鉄製のドアノブをひねり外に出る。
外に出た私の目の前にある屋根は青く、外壁は美しいレンガで出来た一軒家。
片や私の家は木製で作られた今にも崩れそうなボロボロな家。
「はぁ…。学校行くか~」
さっきとは打ってかわって表情は暗く、淀んでいる。
家を後にし、多くの建物や店、人々とすれ違いながら学校へ向かう。
町を行き交う私の目の前に写るのは、美しいレンガの外壁で出来た家。
綺麗で新品かのような美しい衣装に身を包む人々。
相対する私の衣装は、茶色の年期の入った布で出来た衣装に身を包んでいる。
そんな街並みからも自分と他人との貧困さが伺えて鬱になる。
気のせいかもしれないが、私を異物かのように見る人々の視線が痛い。
そんな想いを抱きながら歩いていると、
「あら!ヘンゼルじゃない!元気?」
「おお!!ヘンゼルじゃないか!おはよう!」
「はい…!?元気です!!」
突然の挨拶に驚いた。
明るく挨拶をしてきたのは、毎回のように私の事を心配してくれるグレイスとニア夫妻だった。
「今日も表情が暗いな!元気だせよ!」
「そうよ!ほら!元気出しなさい!」
そう言って差し出された一切れのパン。
「え!?いえ…毎回ですが。こんな貴重なものいただけません!」
貧困だった私にとってはご馳走ともいえるほどにありがたいものだった。
「いいのよ!持っていきなさい!」
「そうだぞ!それでも食べて元気だしなさい!!」
オドオドし、萎縮した表情で夫婦に深々と何度もお辞儀をしながら感謝を言う。
「あっ。ありがとうございます!!ありがとうございます!」
「今日も1日頑張って!」
「応援してるからね!」
感謝を言った私は、夫妻に少し手を振りながらその場を後にする。
普段から夫妻が困っていたら私や家族が助けていたりした事もあり、昔から私の事を理解して気遣ってくれる大切な人達だ。
貴重なパンを少しずつちぎって食べながら再び歩みを進める。
パン一口一口が夫妻の優しさや心の温かさも相まってより美味しいと感じてしまう。
「あははは!!ママ~!!こうやって走るとめっちゃ速いよ」
「こ~ら!そうやって走らないの!危ないでしょ!?」
パンをつまみながら歩いていると後ろから子供と母親らしき人物の笑い声が聞こえる。
その少年の笑い声が確実に段々近くなってきている。
ドンッ…
後ろから何かぶつかったような衝撃を感じた。
「痛たた…」
後ろを振り向くとさっき走っていた少年がぶつかってきたのだ。
年齢は6歳くらいで、青色のTシャツに黒い長ズボンをはいているどこにでもいるような無邪気な少年だ。
「だ…大丈夫ですか!?怪我はありませんか?」
私は少年に優しく微笑みかけながら、ポケットに入っていた自分のハンカチを渡す。
「ほら!走るからお姉さんにぶつかったじゃない!お姉さんにごめんなさいしなさい!」
ぶつかってきた少年に続き、母親であろう人が後を追ってきた。
「いえいえ!無邪気な子供じゃないですか。子供らしさがあっていいと思いますよ!」
私の性格上、無邪気とは程遠いネガティブに考えすぎる性格なので少年の無邪気な姿が羨ましくもあった。
「そうですか。ありがとうございます!ハンカチまで貰っちゃって悪いです!返しますよ!」
「お姉さんごめんなさい。もうしません!」
落ち込んだ表情で謝罪をする少年。
「はい!良くできました!またね。ハンカチはいいんです!持っていてください!」
少年に優しく微笑みかける。
持っていたハンカチを渡し、親子と会話を交わしてその場を後にする。
もちろん、ハンカチを買う余裕などなかったがそれよりも子供の方が大切だったから私は渡した。
そうこうしているとようやく学校にたどり着いた。
ここはセシス学園。校舎はお城のような灰色の外見に正門と裏門、本館の間には噴水台がある由緒正しい学校である。
「はぁ…。学校についた。嫌だな~。」
今日も憂鬱な学校生活の始まりだ。
なぜなら、私にはある問題があったからだ。
それは、学校でいじめられていることだ。
私をいじめている相手は貴族である二年生の先輩である三つ編み金髪ヘアーのカレンと茶髪ボブで眼鏡のサラと黒髪ショートヘアーのシェーンの三人。
理由は、些細なことだった。
それは、私と貴族であるランスくんが仲良くしてる事による嫉妬である。
ランスくんは、このブライダル王国の国王であるセリアス・ブライダル国王殿下の一人息子。
銀色の髪に、紫色の美しい瞳。身長も高くて立ち姿が美しい私と同じ18歳の男子であり、いじめられている私をいつも助けてくれる心優しき人物だ。
国の人々からの称賛の声もアツく、親しみ安さや民の安寧を第一に考える所からも素晴らしい人物だった。
私とランスとの出会いは、学校に入学してからだった。
周りが貴族の人達だった事や性格上の事もあり、あまり周りと馴染めずにいた私に優しく話しかけてくれたはじめての人だった。
最初は驚いたがそんな彼に、助けられる内に日に日に心惹かれていった。
貴族であるランスくんの隣に私なんかが居れるのは、とても光栄な事だった。
学校の門をくぐり、校内へ入る。
「おお!ヘンゼルじゃん!!また学校来たの?しかも、なに!その手に持ってるパン?笑えるんだけど。あははは」
「あ!もしかしてまたランスくんを誑かそうとしてるんじゃない?そのパンを使って!」
「あははは。言えてる~!!さすが人の好きな人を奪った泥棒だ~!」
校内に入った私を出迎えたのは、私をいじめている三人だった。
「そ…そんな!つもりはありません!ごめんなさい!」
怖さのあまり俯き、半分までちぎって食べたパンを握りしめる。
恐怖で震えながら強く握りしめたパンにはくっきりと手形がついている。
朝から最悪な出会いだ。
だ…だれか。助けてください。
自分に出せる精一杯の声で助けを求める。
だが、もちろん周りの人達は見て見ぬふりである。
逆らうと何をされるか分からないからだろう。
「え?なに震えてんの?被害者面?」
「可哀想なヒロインにでもなったつもり?」
「おい…。何か言えよ」
震える私に追い討ちをかける三人の無情な言葉達
「ご…め…んなさ…い。ゆ…るして」
怖さのあまり言葉に詰まってしまうほどに限界だった。
「なに言ってるか分からないんだよっ!!」
限界を迎えたリーダー的存在でもあるサラが拳を振りかざしてこようとする。
恐怖のあまり目を背けて両手で体を覆い、殴られる覚悟を決めたその時だった。
「おいっ!なにいじめてんだよっ!」
誰かが拳を受け止めたかのような音が聞こえる。
私は、恐る恐る目を開ける。
そんな目の前に映るのは、勢いよく振りかざされそうなサラの拳を止めるランスだった。
「ラ…ランスくん!?」
毎回のように助けてくれるランスの姿に安堵する。
毎回のように助けてくれると分かっていてもいじめられるのには、恐怖心があった。
自分でなんとかしないとと思いながらも解決へのその一歩が踏み出せずにいる私の無力さや罪悪感も同時に感じた。
「な…何で!そんなやつを助けるのよ!」
「そ…そうよ!!そいつは、庶民の娘なのよ!貴族のあなたが助けるべき人じゃないんじゃない?」
「…はぁ、ほんと。意味がわからないわ」
その三人の疑問に対してランスはこう答える。
「何で毎回、助けるか?だっけ?その答えは簡単だよ。この子が好きだからさ!もちろん!貴族として、見過ごせないのもあるけどね」
まさかの答えだった。貴族であるこの人が私を好意で助けていたなんて。
実際の所は、貴族としての面子や建前で助けてくれたと思っていたからだ。
好意を向けていたのは、私だけだと思っていたからこそ両想いだと知ったその時はとても嬉しかった。
「は!?その女の事が好き?まじ意味分かんない!もういいわ!勝手にすれば!?」
「もう…いきましょう」
「ほんと…あなたには、幻滅したわ」
ランスからの意外な言葉に愛想を尽かした三人は、振り向いて去っていく。
安堵や喜びも相まって一気に力が抜けた私は、床に崩れ落ちる。
「あ…ありがとうございます!私、私、とても怖くて!!本当にありがとうございます」
涙ながらに感謝を述べる私。
泣いていたからか顔は赤く腫れていた。
「いえいえ!!あのさ!話したい事があるんだけど、ここじゃ流石にまずいからあそこ行こうか!いける?」
そう言って私の手を取るランス
「あ…ありがとうございます!!助かりました」
私は、さっきの出来事により立てないほどではないが、支えもあり立つことが出来た。
「立てたことだし、ごめんだけどあそこ行こうか!」
ランスは、そう言って私を気遣いながら手を引く。
「はい…行けますけど。」
さっきの余韻から震える足。
私は、動揺しながらもそんな足で手を引かれて付いていく。
何をされるのか分からない怖さと好きな人に手を引かれるという喜びで満ち溢れていた。
隅に行った私に、ランスからのまさかの提案。
「ごめんね!ここまで連れてきて!ところで、あのさ!一つ提案なんだけど…。あのいじめられた三人に復讐したくない?いい方法あるんだけど…。どう?」
「え?復讐?でも…幻滅したって言ってたから。もしかしたらもういじめないかもしれないし…それに…。」
平和的な私は復讐なんて考えてなかった。
そんな私の言葉を途中まで聞いて遮る。
「ううん。いや。例えこれからされなくても、今までされた分があるだろう?」
首を横に振り、いつもの優しい表情で私にそう問いかける。
見慣れた表情のはずなのに、その時ばかりは恐怖すら覚えるほどに恐ろしかった。
この時は、まさかあんな事になるなんて思いもよらなかった。




