9話「着実に伸ばしていく私の愛の勢力」
叫び声すら絶え果てた地獄。
根こそぎ命を刈り取られた後の街には、私達が踏みしめる瓦礫の音と家屋を舐める炎の音だけが、虚しく響き、その先の城へと続いていく。
つい先ほどまで生活の匂いがしていた場所は、見る影もなくなり、血と瓦礫にまみれた地獄絵図と化していた。
その見渡す限りの惨状、皆殺しにされたと思っていた現場において、生還者が十人ほどいた。
燃えてない建物から出てきた所を見るに、バレないように隠れていたみたいだ。
「……あ……。ランス様だ……。……ああ、おしまいだ……。もう皆死ぬんだ…」
十人は震える体と足も生まれたての小鹿のようにガクガクと折れ曲がっていた。
出てきた所を私達にうっかり見つかってしまった…。そんな所だろうか。
もはや逃げる気力さえ残っていない。
彼らの血の気が引き、青ざめた表情からも見つかった事への絶望感が伝わる。
それもそのはず、私の隣にはこの惨劇の元凶でもあるランスがただ呆然と立っているのだから。
そんな民達に私は一歩踏み出してこう提案する。
「ねぇ。あなた達も。私の支配下にならない?」
私は隣に座る彼の腕に、そっと自分の手を重ねた。
「……なんで……。どうして、あんたが……そこに……。」
一人が私を指差し、何か驚いた様子で血の気の引いた顔で喘ぐ。
「なんで…。そいつの隣に居るんだ!!あんたもそいつに両親を殺されたはずじゃないのか!?」
ようやく私に気付いた様子で動揺する。
それもそのはず、よりにもよって民達の味方だと思っていたヘンゼルの隣には、さも当然のように元凶であるランスが収まっているのだから。
「そう。殺されたわ。だからこそ、もう誰にも逆らわないように、私の支配下で、私の手の届く場所で生きてほしいの。それが一番安全でしょ……?」
その力強く、どこか甘い誘い「支配」という言葉。
周りの空気が一瞬で凍りつくのを感じた。
非難、恐怖、そして裏切り者を見るような混濁した視線が、痛いほど突き刺さる。
でも、この想いも私にとっての愛である。
「だから、返事を聞かせて? 跪いて私の『所有物』になるか、ここでただの屍に戻るか。選ぶ時間はたっぷり……一秒だけあげるわ」
一秒という限られた時間の中で動揺する彼らの姿。
支配か殺されるという迫られる二択。
そんな中で、彼女の瞳に見据えられた瞬間、自由という名の孤独よりも、束縛という名の救いを求める決断をした彼らの想いが伝わる。
「……構わない。あんたの言う通りだ。独りでこの世界を彷徨うくらいなら、あんたの手の中で飼われる方がマシだ」
リーダー的存在の男は自嘲気味にそう言う。
自ら救いを求めて差し出されたのは、諦めて意志ある屈服。
「賢い選択ね。これからは私の『所有物』として、この残酷な世界から守ってあげる。皆もそれでいい?」
彼女の静かな問いかけに、リーダー的存在である男以外の者は答えを返さなかった。
そして一人、また一人と視線を落とし、膝を折っていく。
言葉を発せずとも伝わる服従。
「それじゃ…。私を見て」
そう言うと、彼らは跪きながら目線をあげて私の方に視線を向ける。
私は、一呼吸開けて手でハートを作り彼らを虜にすると想いながら「私の虜になりなさいご主人様 "萌え萌えキュン"」と呟いた。
呟くのと同時に手から彼女の白く細い指先から、甘くもどこか毒を含んだようなピンク色の光が溢れ出した。
すると彼らの澄んでいた瞳の色は、ルイスと同じように淀んだピンクの色の瞳へと変化する。
「「ヘンゼル様…。私共にあなた様の愛を。」」
自我が潰え、ただ一つの愛のみを唱える空虚で不気味な声で、配下達はそう口にする。
また一つ私の愛する者達が支配下になった瞬間である。
これで守れる者が増えたのだ。
望んでいた形がようやく完成に一歩近づいた。悦びに浸るはずの、その時だった。
次の瞬間、胸の奥がひどく疼き始めた。
制御の利かない不規則な鼓動。
私は溢れ出しそうな何かを封じ込めるように、左胸をぎゅっと 押さえつけた。
「うっ…。もっと……っ。もっとぉ……っ。……愛が欲しいの……。ねぇ…誰かもっと私を愛してよ。称えてよ」
さすがにルイスやあの六人、民達に萌えの能力を使ったからだろうか。
萌えの能力の代償である承認欲求の上昇が私の心を蝕んでしまう。
この先、代償によって私の意図とは別の方向で支配してしまうかも知れない。
でも、この代償こそが世界を愛で染める要因でもあるのだ。
私の苦悩と使命感が交差する。




