中編 part1
「クリスロッド・ラーク王陛下! セルシア・アーロンスケイト令嬢のご出立日が決まりました」
「おう、言ってみせよ」
「ご出立日は9月8日、今日から1週間後でございます」
「手際が良くて助かるよ! マルシール・デブソルト侯爵!」
「いえいえ、陛下の仰せのままにしたまでです! ディフ!!」
ほくそ笑む表情は少し怪しげな雰囲気を漂わせた。
「あの貴族の連中には少し痛い目を見てもらおうじゃないか。平民からの税収を減らせやなんや言ってくるからこうなるんじゃ! ざまぁみろ! これから奴らの絶望的な表情を見るのが待ち遠しいのぅ~!! キャッキャッキャッ!!」
王の座で笑うラーク王は顔を歪ませながら高笑いを空間いっぱいに響かせるのであった。
「セルシア様、旅の準備は出来ましたか?」
「どうにか終われたわ! でも、これから私、魔王を倒すために旅に出るのよね······。レイン婆さんとしばらく会えなくなるのが寂しいわ!」
「セルシア様~!!」
レインは感極まり、号泣する。
「レイン婆さん。そんなに泣かないで! 私はまたここへ戻ってくるわ!」
「いつまでもお待ちしております!」
僕はレイン婆さんに一言呟き、町への馬車へと乗り込むのであった。
馬が走り出すとともに住んでいた屋敷とレイン婆さんは遠くなっていき、やがてその姿は捉えられなくなってしまう。
━━━コンコン!
馬車に乗り込んでからしばらく経った頃、馬を引く人の方から扉をノックする音が鳴った。
スマホほどの大きさの覗き窓の扉を開けると馬引きの者が話しかけてきた。
「セルシア様、そろそろゴロンへ到着します」
ゴロン、この町は首都クリミリアスから西に位置する商いが盛んな商業都市である。僕はここにある冒険者ギルドに登録し、地道に経験を積んで魔王と戦うようにクリスロッド・ラーク王陛下に指令が来ているらしい。
クリスロッド・ラーク王陛下がどんな方なのか、会ったことが無いため分からないが少女を魔王討伐へ行かせるような奴は常識を持たないアホであることは確かであろう。
馬車から降りた僕は案内人に連れられるがままに冒険者ギルドへと向かった。
「セルシア様! 当ギルドまで足をお運び下さり誠にありがとうございます! 当件は陛下から聞いておりますので早速ではありますがギルド登録をさせていただきます」
話はスムーズに進み、僕はある個室へと連れていかれた。
「これから、セルシア様にはギルド登録をするためにこの手鏡に顔を写してもらいます」
ギルド部長から手渡されたのはシンプルな柄の手鏡。何の変哲もなさそうだがこれが何をするのだろうか?
手鏡に顔を写すと手鏡の鏡が割れ、中から文字列が出現した。ギルド部長は厚い特別製の革に空中に浮く文字列を順番に並び替えた。
「ギルド登録が完了致しました。早速ですが何か受けますでしょうか?」
卓上に並べられた依頼書はどれも初心者が受けるようなFランク相当の物ばかりだ。
クエストの定番と言えば魔物討伐だろうか? ここにはスモールゴブリンと少土竜の討伐クエストが置かれている。
しかし、今の僕はろくな戦闘力を持たない案山子寸前の冒険者だ。やはり採取クエストから受けるとしよう。
僕は卓上に置かれた複数の依頼書の中からアルラ草の採取クエストを手に取った。
「それではこのクエストを受注してほしいですわ!」
「分かりました!」
僕はアルラ草の採取クエストの依頼書を持って、ゴロンの門を潜り抜けた。
ゴロン周辺は草原が一面に広がっていて、魔物も弱いゴブリンなどが生息しているだけで平和的な地域だ。そのおかげかアルラ草採取は思っていた以上に楽に進められた。依頼書に記されていた数を採取した僕は腰に掛けていたポーチにしまい、ゴロンへと戻るのであった。
「確かに受け取りました。依頼達成しましたので報酬金をお譲り致しますね」
しばらく待っているとギルド員が革の小皿に銅色に輝くコインを3枚を置いて、差し出してきた。
僕は小皿に置かれたコインを1つづつ
手に取っていく。ギルド員は空になった小皿を引き取り、話を続けた。
「そうだ! 国王陛下から授かれた新居行かれましたか?」
「まだ行ってないわ。どうかしたのかしら?」
言いにくそうに言葉を呟いていく。
「何かの手違いで要求されていたのとは全く違う屋敷を選定されたようでお召しにならないかもしれません。ご相談があれば何でも聞きますから! あまり気を落とさないでください······」
僕はギルド員の怪しげな雰囲気をかもし出した言い草に家に行くのが少し怖くなった。
怖じ気付く身体を無理矢理動かし、国王陛下から授かれた新居へと足を進めた。
「何よこれ······!」
目の前に立ちはだかるごみ屋敷に目が痛くなる。
屋敷を囲むように配置されている外壁はカラスの糞やまばらに散らばった枯れ葉、地面から伸びたつるなどで覆い隠されていた。また、屋敷の壁も明らかに人為的な落書きやゴミで汚くなっていた。
僕、今日からここに住まないといけないのか······。
あまりの汚さに身体の力は抜け、地面に崩れ落ちた。
何をすればこんな屋敷をここまで汚く出来るんだよ! そもそもこんな汚れた屋敷に魔王討伐に出かける者を住まわせるか普通······?
明らかに掃除されていない外観に疑念を抱いていると屋敷の扉がミシミシと鳴り始めた。
「あなた様はセルシア様でございますか?」
そこには見知らぬ女性メイドと男性執事が1人ずつ立っていた。
僕の住む屋敷がここなのか一様聞いてみたがやはりここであっているらしい。
「私共はあなたの身の回りのお世話をお手伝いさせていただくことになりました。リーグドロスと」
「シェルファと申します!」
「この子はメイドになって数ヶ月ほどしか経っておりませんのどうかお優しくしてもらえるとありがたいです」
リーグロドスの言ったことに気に食わなかったのか低い背で一生懸命反論する。この絵柄はギャーギャー喚く子供とそれをなだめる親のような構図であったため、どう見ても軽いいさかいにしかみえなかった。
「セルシア様、まずはお部屋でお寛ぎ下さいませ!」
リーグロドスに連れられ、屋敷の中へと足を踏み入れると屋敷の中は外側よりも綺麗にさいてこの2人の努力が身に染みるように感じる。2階に上り、右の通路の行き止まりまで進むと執事のリーグロドスが立ち止まった。どうやらこの部屋が僕の部屋のようだ。
執事のリーグロドスがドアノブを開ける。
「おぉ〜!! え······」
僕の部屋は屋敷内のどこよりも汚く古びた場所だった。
驚愕のお部屋に言葉が詰まった僕に執事のリーグロドスは声をかける。
「すみません、国王陛下様のご指示でして逆らうことが出来ませんでした······」
僕はどれだけ国王陛下に嫌われているんだよ。
「リーグロドスさん」
「はい? 何用でございますか?」
「どうしてここまで私は国王陛下様に嫌われているんでしょうか?」
国王陛下から命じられて来た執事なら何か知っているかもと思い、聞いてみるとすんなりと話してくれた。
どうやら訳も分からず飛ばされたこの世界ではセルシアが嫌われているのでは無く、セルシアの家系のアーロンスケイト家の行いと深く関わりがあるらしい。
元々僕の母親リーナ・アーロンスケイト(旧名リーナ・ソラント)はクリスロッド・ラークと政略結婚だった過去を持つ。そんなとこを無理矢理僕の父親アルファード・アーロンスケイトと結婚したことが元凶だったらしい。執事によると僕の父親は母親の強制で結婚したらしく、元々結婚する予定だった相手の家と険悪関係になってしまったらしい。
正直、母親のリーナがどれほど腹黒い女なのかは良く分かった。そんな環境に転生するなんて不運な女だ。僕は······。
「ハァ······」
「そんなにお気を落とさないでください! これ以外のことは指示されていませんから! 何で手伝いますぞ!!」
「ありがとうリーグロドスさん」
僕は執事と別れ、自室へ入る。中は乱雑にホコリだらけ。
「お掃除から始めようかしら······」
扉の横に置かれた箒を手に取り、窓を開きホコリを掃く。
━━━ピコリン
「セルシアは掃除Lv1を獲得しました」
懐かしい音と謎の音声が喋る。
「何かしら?」
「セルシアは毒分解Lv1を獲得しました。セルシアはステータスを閲覧を獲得しました。セルシアはスキルを閲覧を獲得しました」
次々と読まれる謎の音声に脳内思考がパンクするのだった。




