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前編

「ここはどこかしら?」

 目を覚ますと僕は森の中で杖を持って立っていた。

「セルシア様、まずはファイアーボールを撃ちましょうか」

 ん······? ファイアーボール? 撃つ? どうやって? 後、セルシアって誰〜!!


 ━━━少々前······。

「この資料明日までに分かりやすくまとめといて」

 ━━━ドサッ!!

 僕のデスクに新たな厚い資料が乗っけられる。すでに何重にも重ねられた紙の束たちはデスクからはみ出し落下寸前まで傾いている。

「はい······」

 たばこを片手にコーヒーを優雅に飲む課長に不満を抱きつつも胸の内に秘め、業務を進めていく。

 カタカタカタカタカタカタ······。

 パソコンの画面の反射で微かに背後に見慣れた人の姿を発見する。

「良太、飲みに行かないか?」

「ん~ごめん、まだ仕事終わらなそうだわ······、みんなと行ってて!」

「お、おう。あんま背負いすぎんなよ。あの課長、会社に来てもほぼ業務ないんだからたまには断れよ! 一様、良太の席取っとくからな~」

「分かった」

 カタカタカタカタカタカタ······。

 気付けば会社の蛍光灯は次々と暗くなっていき、やがて僕のデスクに置かれたライトだけが残っていた。

「ん〜、ハァ~! 終わった······!」

 腕時計を見ると午前3時を超していた。

「もうこんな時間······」

 僕は席を立ち、鞄を持って会社から出た。

 今さら行っても間に合うわけないか······。

 僕は諦めて家への道を辿っていく。

「コンビニ······、お金かつかつだし今日は止めるか······」

 あぁ、何でこんなことしてるんだろ僕······。上司にこき使われ、挙げ句の果てに夜遅くまで働き7徹······、やっとの思い出手に入れた退勤はほんの5時間で消え失せる。もっと良い環境に転職出来ないかな〜。出来れば休める仕事に付けたらいいな······。

「ちょっお兄さん!?」

「え······」

 後ろを振り向いた頃には遅く、横から暴走しているバイクに轢かれるのであった。

 あれ? 手足の感覚が消えていく······。こんなあっさり死ぬの? 最悪な職場に勤めていたけど、まだ未練が······。


 そして······今となる。

「セルシア様、どうしましたか? ファイアーボールを撃ってください!」

「ごめんなさい······ファイアーボール? ってどうやるんでしたっけ?」

「セルシア様~······」

 老魔女は頭を抱えてしまった。

「さきほど教えたばかりじゃないですか! 今度はしっかり聞いていてくださいよ!」

「はい!」

「体内に巡る魔力を利き手に集め、魔性の色を思い浮かべ、放つのです! 知恵に宿りし新たな神秘よ我に炎の力を与えたまへ!! ファイアーボール!」

 老魔女の掌から放たれた円球状の炎は的へと当たる。

「分かりましたか!」

「······はい」

「それではやってください!」

 体内に巡る魔力······、分からない!! 僕の体内に······あるのか? 機械文明に生まれた僕に魔力なんて言う非現実的な力、流れているのか?

 僕は体内にあると言われる魔力を詮索し始める。

 ん~、ん~~······。そんなような感じの物質は感じないが······。

 僕の体に滲み出た不安要素を汲み取ったのか、老魔女は問い出す。

「セルシア様、今度は何ですか?」

「いや、何も感······」

「······どうせ魔力の流れを感じられないとかですよね。とりあえずこの水晶に触れてみなさい、自身の魔力の形が分かりますから」

 呆れた様子で僕の両手を水晶に乗せた。しかし、乗せたにも関わらず、水晶は何色にも輝かなかった。

「あれ、おかしいわね〜? さっきは赤色に輝いたはずなのに······」

 僕はもう一度水晶に両手を乗せた。しかし、何の変化も起こらない。

「どういうことかしら······? 今日は魔力を使い切ったのかしら、ここまでにしておきましょうか······」

 僕は魔法の修練を終え、老魔女とともに家へと帰るのであった。


「セルシア様、先に席に座っていてください。夕御飯を作りますから少々お待ちを」

 僕はすぐ側に置かれている木製の背もたれ付きの椅子に腰を掛けた。

 ━━━ここはどこなのだろう? そもそも何故僕はここにいるんだ? 確か、7連勤後の帰りに猛スピードのバイクに轢かれたとこまでは覚えているんだが······、これ以上何も思い出せない。

 これまでの記憶と現段階の状況を整理していると鼻に通る香ばしい匂いが漂い始めた。

「この臭いは!!」

 懐かしい香りに心が落ち着いてくるのを感じる。

「カレー!! この世界にもあるのね」

「何ですかその初々しい様子は······、よく食べてるじゃないですか?」

 前世ではコンビニに置かれている同じようなおにぎりが主成分だった僕が手作りのカレーを食べれる日が来るなんて······! もう死んだっていい! まぁ、そう簡単には死ぬ気はないけど。

「美味しい〜。少し辛いのも良いスパイスになってて良いわね!」

「ハイハイ、食のレポートは置いといて、旅の準備は出来ているのですかセルシア様?」

「······旅の······準備?」

「もう忘れたんですか!? 明日からデーモンハンターの旅に出るのですよ」

 ······ん? ······んんん? どういうこと? 転生してすぐデーモンハンター?

 謎の単語に困惑する僕であったが案外、早くその疑念は晴れるのであった。

「デーモンハンターですよ! セルシア様はクリミリアス王国国王・クリスロッド・ラーク王の銘で明日から魔王退治に行くことになったのですよ!」

「えっ······えぇ~!!」

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