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居眠り伯とオルドナ戦争  作者: 中里勇史
反撃

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73/75

トローフェイルの攻防

 ウィンは、トローフェイル近郊に設営した天幕の中で昼寝していた。

 天幕に入ってきたフォロブロンは、その姿を見て「この男は、相変わらずだな」と感心した。

「フロンリオンの宮殿でも寝ているところはよくお見掛けしましたが、戦場でもこの調子で?」

 レンテレテスは戦場でのウィンをあまり知らない。

「ナルファストでは、暇さえあれば寝ていたな」

「うん、私のことかい?」

 ウィンが目を覚ました。

「いい夢は見られたか? 居眠り伯」

「あだ名も陞爵するんだね」

 ウィンはわははと笑った。


 それはともかく、と言ってウィンは真剣な顔になった。

「トローフェイルの名物って何だい? フェルティスの土産になりそうなものはあるかな」

 一同は沈黙した。

「ん? アークラスムは偵察に行ってきたんだろ?」

「名物なんて見てる暇なんてありませんぜ」

「一体何しに行ったんだい」

「偵察だよ!」


 このままでは際限なく話がずれ続ける。フォロブロンは咳払いをして仕切り直した。

「ヌヴァロークノ軍は街から出たいのだろう。ならばそれを利用すべきではないか」

 攻囲を解いて街からヌヴァロークノ軍を出してこれをたたき、残った住民に降伏を勧告する。フォロブロンは敵の心理を突いた作戦案を提示した。レンテレテスとアークラスムはフォロブロン案を支持した。

 だが、オルロンデムは懸念を示した。

「時間はかかりますが、このまま攻囲していれば勝利は確実。野戦となれば犠牲も出ましょう。敗北したら目も当てられません」

 アークラスムがそれにかみついた。

「戦う前から負けることを考えてどうする。まずは必勝を期すべきだろう」

「必勝を期すだけで勝てるなら苦労はない。勝負は時の運。勝てる戦いに敗れることもあろう」

 ウィンはやる気が感じられない目で一同の議論を聞いた後、フォロブロンに向き直った。

「戦略としては賛成だけど、街から出たヌヴァロークノ軍とどう戦う?」

「ヌヴァロークノ軍が南に向かうのは間違いない」

 トローフェイルから真っすぐ南に向かうなら、ラデル街道を通るはずだ。ラデル街道は三キメル先でゲンデの森を縦断している。この森に兵を伏せて奇襲する。

 アークラスムは「お見事!」と言って手をたたいたが、ウィンは「う~ん」と唸って首をかしげた。視界が斜めになっただけだった。

「だとすると、ヌヴァロークノ軍が向かうのはどこだろう? グライス軍とヌヴァロークノ軍はどこで戦うと思う?」

 ウィンは天幕の中心に置かれた卓に広げられた地図を眺めた。

「敵の主力が居る可能性があるのはアンネーメル、ポルセアル、ゲルペソル……これくらいかな? ポルセアルならラデル街道を通る可能性が高いけど、ゲルペソルなら東に向かってゲンデの森を迂回した方が安全だ。私ならそうする」

「ポルセアルとゲルペソルの可能性は五分五分というところです」と、ケルヴァーロの家臣のザルヴァーエルが補足した。


 そこに、歩哨の手配をしてきたベルウェンとラゲルスが戻ってきた。天幕内の重い空気を察したベルウェンは、ラゲルスに目配せしながら隅に下がった。貴族同士の対立に巻き込まれるのは御免だという意思表示である。ラゲルスは何か言いたげだったが、ベルウェンに従った。

 ウィンとフォロブロンの意見が対立するのはこれが初めてだった。ナルファストではウィンに指揮権があったが、今は同格で互いに命令権はない。

 沈黙に耐え切れなくなったアークラスムが、「それじゃ、別行動ってことにしてみては?」とおどけて提案した。

「それは却下」「却下だ」

 ウィンとフォロブロンはそれを同時に否定した。

「気が合うな、ラフェルス伯」

「さすがアレス副伯だ」

 フォロブロンは降参だと言わんばかりに両手を肩の高さまで上げて、「敵がどこに向かうか確定できない以上、伏兵案はなしだ。取り下げる」と言って笑った。

 こうして、トローフェイルを巡る攻防はいったん棚上げとなった。


 ラゲルスは、ベルウェンが浮かない顔をしていることに気付いた。

「どうしたベルウェン」

「あの二人、初めて意見が分かれたな」


『居眠り伯とオルドナ戦争』は残り2回です。

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