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居眠り伯とオルドナ戦争  作者: 中里勇史
反撃

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ゲルペソル会戦 その1

 クーデル3世とケルヴァーロは、皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍によるトローフェイル包囲の情報をほぼ同時期に知った。

 「トローフェイルの兵は来ぬか……」

 「アレス副伯(フォロブロン)ラフェルス伯(ウィン)、よくやってくれた!」


 ケルヴァーロは騎兵のみで編成した8000騎を率いて先行した。その後を、歩兵3万と騎兵2000が追う。他の街から出陣してきたヌヴァロークノ軍に包囲される前に、ゲルペソルから出てきた2万をこの兵力で殲滅する。その後、各街から来た軍を順番にたたく。単純な各個撃破作戦である。むろん、敵もおとなしく撃破されてはくれないだろう。ゲルペソル軍の殲滅に手間取れば、包囲されて潰されるのはグライス軍の方になる。ただし、トローフェイルからは敵が来ないと分かっているので、グライス軍の負担は大幅に減少した。

 ケルヴァーロは8000の騎兵をゲルペソルの南10キメルの地点で停止させ、休息を取らせた。ヌヴァロークノ軍の歩兵に対して機動力で優位に立たなければ短槍の餌食になる。一晩の休息では十分とは言えないが、少しでも馬の足を回復させねばならない。この間にも、歩兵たちは強行軍で追って来ているはずだ。


 そして翌日。夜明け前から進軍を開始した。馬を走らせず、ゆっくりと敵に近づいた。

 「1キメル北に敵軍を発見。数、約2万。目標の軍と思われる」

 ヨーレントが放った斥候から報告が上がってきたのは、日の出の少し後、太陽の下端が地平線をわずかに離れた頃だった。

 「よし。敵兵を目視できるところまで総員そのまま進め」

 林を抜けると、布陣している敵軍が見えた。さらに進んで個々の敵兵がある程度識別できる距離まで接近した。彼我の間はおおむね500メルというところか。やはり、指揮官級が騎乗している程度で騎兵はわずかしかいない。寒冷で牧草もほとんど生えないヌヴァロ島では馬の飼育が困難なので、数をそろえられないのだ。

 まずは、2万の兵による短槍の投擲をどれだけ避けられるか。

 「やるしかねえよな」

 ストルザイツは歩兵を率いているのでこの場には居ない。斜め後ろには、緊張した面持ちのファウフェレスが居た。

 「力を抜け。顔が怖いぞ」

 ケルヴァーロはファウフェレスに笑いかけると、正面を向いて右手を天に向かってゆっくりと上げ、正面に振り下ろした。

 「全騎、敵100メル手前まで速歩で前進」

 ケルヴァーロの左右の金管笛(ラッパ)手が速歩を示す音を鳴らし、騎兵たちは前進を開始した。敵軍も動き始め、彼我の距離はみるみる縮まっていった。

 距離は100メルを切った。まだ短槍の射程内ではない。80メル、70メル、60メル……。歴戦のケルヴァーロにとってもヌヴァロークノ軍との会戦は初めてであり、その独特な間合いを計るのは難しい。冬だというのに汗が顔を流れた。

 ヌヴァロークノ兵たちが急に走り出した。投擲の助走だ。

 「全騎、散開! 騎射始め!」

 金管笛が鳴らされると騎兵たちは中央で左右に分かれ、敵陣に対してほぼ真横に駆け抜けながら騎射を行った。矢坪から一度に複数の矢を取り出し、連続で射る。これを、足の力加減だけで馬を操りながら行うのである。

 ヌヴァロークノ兵たちは、短槍を振りかぶるため身体を大きく開いた瞬間に矢を射込まれて次々に倒れた。それでも第2陣、第3陣の兵たちが次々に短槍を投げてきた。

 両端に配置された騎兵はともかく、中央付近にいた騎兵は敵陣の前を横切る間短槍に曝されることになる。そのためグライス軍側にも少なからず損害が出ている。

 「ひるむな! 騎射しつつ駆け抜けろ!」

 ケルヴァーロも矢を射ながら周りの兵を叱咤する。顔はこわばっているが、ファウフェレスも付いてきている。

 ファウフェレスを初陣で死なせたら、妻のフェメテイエにくびり殺されるだろう。

 「俺の安全のためにもコイツを死なせる訳にはいかんな」

 ケルヴァーロは笑った。

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