トローフェイル包囲
皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍は、トローフェイルの包囲を完了した。
「なあ伯爵、グライス軍に合流するって訳にはいかないんですかい」
アークラスムの疑問は、兵力集中の原則の観点では正しい。皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍も合わせた圧倒的な兵力で敵主力を殲滅できれば理想的な展開と言える。
「うん、いかない」
「もう少し丁寧に説明したらどうだ。手を抜くな」とフォロブロンがたしなめる。
フォロブロンに指摘されて「なるほどそういうものか」と思ったのか、ウィンは改めて説明した。
「グライス軍との間には敵の占領下にある街がある。恐らく、各街に主力軍の一部が駐留している。グライス軍への合流を優先して進軍すると、各街に駐留している主力軍の一部に背後を衝かれる恐れがある」
「だから動かない、ってことですか」
「トローフェイルにも主力の一部がいる。我々はトローフェイルを包囲することで、トローフェイルに駐留している兵が主戦場に参戦できないようにしておく。これで、主戦場はナインバッフ公が若干有利になるはずさ」
ウィンは一気に説明すると水筒の水をあおった。しゃべり過ぎて喉が渇いたのだ。
「なるほど。面白い包囲戦になりそうですな」と言ってアークラスムは街を眺めた。
ウィンはこれまでの情報から、今後の展開を予想していた。
ナインバッフ公は、決戦を企図してヌヴァロークノ王を挑発する流言を流した。
アークラスムらの偵察によって、トローフェイルにはヌヴァロークノ軍が多く駐留していることが判明した。ヌヴァロークノ軍は各街に分散することで姿を消し、かつ補給の問題を軽減している。ただしこの状態を長く続けることはできない。ヌヴァロークノ軍はグライス軍を殲滅してオルドナ伯領の支配権を確立したいはずだ。
ヌヴァロークノ軍とグライス軍は近く衝突する。グライス軍に合流するのが危険である以上、グライス軍を少しでも楽にすることを目標にすべきだ。
包囲されたトローフェイルはどう出るのか。トローフェイルにいるヌヴァロークノ軍は、本隊に合流したいだろう。出陣寸前だったかもしれないが、機先を制した皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍によって完全に包囲された。
籠城された場合、攻囲側としては敵を挑発して城外に引きずり出そうとする。籠城側は、出陣を戒めて閉じこもろうとする。ところが今回は、籠城側は出陣したい、攻囲側は出陣させたくないというねじれた状態になった。
城門を開いても一度に出られる数は限られるから、包囲が完了してから出撃しようとすると各個撃破される。今回、ウィンは無理にトローフェイルを落とさなくてもよいのだ。グライス軍が勝つまでの間、敵の一部を拘束しているだけでよい。しかも、本来の人口の何倍ものヌヴァロークノ軍を抱えた街が長く籠城するのは難しい。兵糧攻めを続けていればそう遠くない未来に降伏するだろう。
「うん、今回は楽ができそうだね」と言って、ウィンはわははと笑った。




