ヌヴァロークノ人虐殺
「サンツァーツ、ゲンテザイルのヌヴァロークノ人を皆殺しにするぞ」
軍議が始まるやいなや、ケルヴァーロは開口一番宣言した。ストルザイツは冷めた目で主君を眺めると、大きく息を吐き出した。ファウフェレスをはじめ、軍議に臨んだ幕僚たちは開いた口も塞がらないという様子で、驚いていないのはストルザイツだけだった。ケルヴァーロがこれを言い出すことを予想していたらしい。
「ではそのように。早速手配致しましょう」
ストルザイツが腰を浮かせたので、ファウフェレスはさらに驚いて立ち上がった。
「待ってくれ、ストルザイツ卿。父上、それはあまりにも無体ではありませぬか」
「クーデル王を引きずり出すためだ」
「しかし!」
「コイツはなぜ慌てているのだ」という顔のケルヴァーロと、ケルヴァーロを翻意させようと必死になっているファウフェレスを眺めていたストルザイツは、「ああ」と言って手をたたいた。
「公爵、ガルトザーレ伯は勘違いなさっているようですな」
「何を?」
「ガルトザーレ伯はヌヴァロークノ人を皆殺しにすると思っていらっしゃるようです」
「そんな面倒くさいことするか!」と言って、ケルヴァーロは驚いた顔をした。
「お前はそんな恐ろしいことをよく思いつくな」
「なっ、父上がおっしゃったのでしょう」
「そんなこと言ったか?」
「おっしゃいました! 皆も聞いていたであろう?」
ファウフェレスが他の出席者を見回して同意を求めると、皆困惑した顔で目を泳がせながらも頷いた。
「ガルトザーレ伯、公爵は『皆殺しにするという噂を流す』とおっしゃっているのです」
「噂だと?」
「そうだよ。噂だよ。『ヌヴァロークノ人を殺すぞ~』とクーデルのヤツに聞かせてやるのだ」
ケルヴァーロは、当たり前のことを説明させるなという顔で胸を反らした。絶対に「噂を流す」とは言っていなかったのだが、ストルザイツにはなぜか通じていた。
「噂……ですか。それならばお止めする理由はございません」と言って、ファウフェレスは着席した。納得はいかないが、ともかく大虐殺が起こらないのであればそれでいい。
「クーデル王は国の寒冷化に苦しむ民を思って挙兵したのだ。その民が害されると知ったら動くだろ。動かなければ『民を見捨てた』と喧伝してやるまでのことだ」
「もはや嫌がらせですな」
「そうだ。嫌がらせだ。勝つためなら嫌がらせだってするのだ。ヤツを倒さぬ限りこの戦争は終わらん。さっさと終わらせよう」




