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居眠り伯とオルドナ戦争  作者: 中里勇史
誕生

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6/73

秩序

 カーリルン公領とラフェルス伯領はこのところ平穏そのものだったが、去年はラフェルス伯領、一昨年はカーリルン公領が兵乱を経験した。しかし、帝国においてこれは特殊なことではない。

 帝国内のあちらこちらで何らかの諍いがあり、武力行使に至った例もある。帝国平和令によって自力救済が禁じられているにもかかわらずだ。

 対立の構図はさまざまだ。領主同士、君主と家臣、諸侯と宮内伯、諸侯と帝国外の国。宗教的な問題もある。領民同士や村同士の諍いはさらに多い。ありとあらゆる階層で、あるいは階層間で、競い、争っている。

 最近も、ガリトレイム・グライス内で諸侯同士が武力衝突に及び、ガリトレイム公が仲裁に乗り出さねばならない事態が発生した。

 帝国の統治機構にはほころびがある。その一端が、宮内伯という存在だ。ガリトレイム・グライスで起きた兵乱の影にも宮内伯が絡んでいるらしいと聞き、ウィンは改めて考えた。

 宮内伯そのものに問題があるわけではない。皇帝の巨大な宮廷を動かすには宮内伯たちが必要だ。問題のある人間も多いが、宮内伯の大半は善良で誠実なのだ。

 分からないのは、不実な宮内伯をなぜ一掃しないのかだ。皇帝が全ての宮内伯の為人を確かめるのは不可能だが、宮内伯たちを束ねる者たちを一新するだけでも効果があるはずだ。

 しかし、何もしない。そして争いが……。


 「それも陛下の思惑なのではありませんか?」

 ウィン付きの奴隷であるアデンに指摘されて、ウィンは目を見開いた。その視点は欠けていた。では、だとすると……。

 アデンの指摘から始まって、恐ろしい思考が一気に広がった。

 「皇帝は全く傷ついていない」

 ナルファスト、いやそれ以前から、ウィンが知る限りの問題を順番に挙げてみたが、皇帝は何一つ失っていない。さまざまな争いがあり、多くの者が死んだ。だが、ティーレントゥム家はますます繁栄しているではないか。

 あらゆる階層で対立が生じる。対立が収まらなければ、より上位の者によって鎮圧される。それでも解決しない問題は帝国に持ち込まれる。しかし、係争を帝国に持ち込んだとしても納得できる決着がつかないかもしれない。相手に有利な裁定が下るかもしれない。不利な裁定を受けた者は不満に思うだろう。

 「しかし、矢面に立って対応に当たるのは宮内伯ですね」

 そう、宮内伯だ。貴族や領民の不満は、対応した宮内伯に集中する。憎まれるのは宮内伯なのだ。

 「すると今度は、貴族や領民と宮内伯の対立が生まれますね」

 新たな対立が生まれる。そして、その上に、全ての調停者として皇帝が君臨する。必要であれば宮内伯を処断し、望ましい結着へと導く。宮内伯を切り捨てることで、皆は「さすが皇帝陛下よ」と感謝する。

 宮内伯という要素を除外してもこの構図は成立する。諸侯対諸侯、諸侯と下級貴族、宗教の宗派同士。全てが対立し、双方が調停者として皇帝に依存する。この構図が保たれている限り、争いがあってもいいのだ。

 「むしろ、彼らが争っていた方がよいのではありませんか」

 その通りだ。皇帝以外の全てが争い合っていた方が都合がいい。そうすれば、彼らが一致団結して皇帝に歯向かうことはない。

 帝国は、あらゆる構成要素の対立という不安定な状態を作り出すことで、あらゆる構成要素が皇帝を支え、皇帝に依存するという安定状態をもたらしている。この中で宮内伯は、対立を生み出し、皇帝の代わりに責任を負うという緩衝材として機能している。しかも、宮内伯当人にも気付かせないように。

 これを意図的にやっているとしたら、あの皇帝はなんと恐ろしい男なのか。


 だがその手法は危うい。そして、現皇帝はいいとしてその後継者はこの均衡状態を引き継げるのだろうか……。

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