ガロナ・フェリーニナ
ウィンは、1000人の傭兵と共にファッテン伯領に戻った。残りの兵力はフォロブロンの指揮下に組み入れておいた。
「ガロナ水軍か……」
ウィンに同行したベルウェンの表情が冴えない。7年前の馬鹿騒ぎを思い出して、自嘲気味になっている。
「伯爵たち、一体何やらかしたんです?」とアークラスムがウィンとベルウェンの顔を見ながら問いただした。が、ウィンはわははと笑っただけで誤魔化した。
港町のセールミーンは以前のような活気がなく、船の数も少なかった。海上の安全が脅かされて交易なども滞っているようだ。
ベンデ島に停泊している船の数も少ない。上陸してガロナの屋敷に向かって歩いていると、「あっ、帝国の役人!」という声がした。振り返るとガロナ水軍のニム・ニーレンとダルナ・ゲインがウィンを指さしている。
「やあ、ニレとルナ。久しぶり」
「ニムとダルナだ! 相変わらず適当なヤツだな。何しに来た」
「ガロナに頼みがある」
それを聞くと、ニムとダルナは顔を見合わせてからウィンに向き直った。
「ベンブークのオヤジは死んじまった。今はお嬢がお頭だ」
「ガロナが!? あれは銛で突かれたくらいじゃ死なないだろ」
「剣で寄ってたかって斬られまくった。あれじゃどうにもならねぇ」
「そうか……7年前の礼がしたかったんだが、残念だ。ならばフェリーニナのところに案内してくれ」
「7年前もそうだったけどよ、何で帝国の役人に指示されなきゃならねぇんだ?」
「まあ、細かいことは気にしないで」
「だからさ、あんたのそういうトコなんだよ。俺らが頭悪いからって適当に言いくるめやがって」
「頭が悪いやつにあんな操船はできないよ」
「え? まあ、そうか?」
ウィンの冷静な評価に、ニムとダルナは顔を赤らめてニヤついた。
「ちょろい連中だな、おい」とアークラスムはあきれたが、ベルウェンの評価は異なっていた。ウィンは無神経なことを平然と口走って人を苛つかせるが、世辞も言わない。称賛は心からのものだ。剣もろくに使えないウィンに傭兵連中が懐いているのも、そうした特質ゆえだろう。だが、ベルウェンもその一人であることに本人は気付いていない。
「久しぶりだね、ウィン」
突然現れたウィンに驚きながら、フェリーニナは笑った。日焼けした肌が白い歯を浮き立たせている。長い黒髪を1本の三つ編みにして後ろに垂らしている。肉付きが乏しいしなやかな肢体と挑戦的で妙に艶っぽい瞳はそのままだが、7年前よりも少し背が伸びて、雰囲気が大人っぽくなっている。
彼女は部屋の上座に敷かれた敷物の上に胡座をかいて酒を飲んでいた。
「ガロナのこと聞いたよ」
「ああ、今はアタシが仕切ってる。といっても、半分になっちまったよ」
フェリーニナは、ヌヴァロークノ軍との戦闘でオルドナ水軍のほとんどとガロナ水軍の半分を失った経緯を語った。
「ヘルゲデンも死んじまったのか……」。ベルウェンは無念そうな顔をした。
「こんなときに何だけど、ミラロール攻略に協……」
「やるよ」
「え」
「やるって言ってんだ。復讐戦だよ。やるしかないだろう」
フェリーニナは、立ち上がると胸を反らせて不敵に笑った。




