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居眠り伯とオルドナ戦争  作者: 中里勇史
反撃

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54/73

流転 その1

 フェット団のたまり場には、フェット専用の「板で囲われた場所」がある。フェットは普段、適当な少女を連れてそこに行き、犯した。今は、ニネヴァがフェットの上に乗って激しく動いていた。

 「しかし、お前がベドナの味方をするとは思わなかった」

 ニネヴァは、荒い息を吐きながらフェットを見下ろした。

 「だって、アドナだけここを抜け出すなんて許せないじゃないか」

 「何?」

 「ここじゃ食べ物もない。食べ物を探しに出かけたら、男に捕まって犯される。娼館の方がよっぽどましさ。1人だけ地獄から抜け出せると思ったら大間違い。だから連れ戻してやったんだ」

 「ベドナだって同じさ。醜いベドナじゃ娼館には行けない。娼館に売られた美人のアドナを憎んでた」

 「目が覚めたら貧民街に逆戻り。アドナのヤツ、絶望のあまり絶叫してたよ。きれいな顔を歪めて。いい気味さ」

 そう言いながら、ニネヴァは快感に顔を歪ませた。絶望するアドナの顔を思い出して、余計に興奮したらしい。

 フェットは、あまりの醜悪さに吐き気をもよおし、ニネヴァの首を両手でつかんだ。ニネヴァは「そういう行為」だと思ったらしく、さらに興奮した。その様子がますます疎ましい。フェットは手に力をこめて、その首を無言でへし折った。ニネヴァは、なぜ自分が死んだのか、理解できなかっただろう。

 少女の汚らしい死体を脇に投げ捨てると、ベドナを呼んだ。彼女はお呼びがかかったと思って喜んだが、一瞬でニネヴァと同じ運命をたどった。フェットは、もっと早く殺しておくべきだったと後悔した。

 別に、ニネヴァとベドナを罰したつもりはない。単に不快だったから視界から排除したまでだ。自分に彼女らを責める権利などないことは承知していた。だが、自分が彼女らをここまで歪ませた原因の一部であることには無自覚だった。

 フェットは、大人だろうが少女だろうが、目に付いた女を適当にさらってはここに連れ込み、蹂躙した。フェットは強者であり、ここ貧民街ではそう振る舞うことが可能なのだから。

 ここでは、女性は常に最下層の弱者だった。弱者として搾取され続ける存在だった。そうした女性たちにとってここは、娼館以下の地獄だった。器量が悪く、娼館という「よりマシな地獄」に行くことすら叶わない彼女たちにできることは、他の女を自分たちと同じ場所に引きずり下ろすことだけだった。しかし、強者のフェットには表層的な醜さしか見えていなかった。「娼館以下の地獄」を作り出しているのはフェットたち男であることには関心を持たなかった。


 ダゼゾボの小屋に戻ると、ダゼゾボが居た。

 「ダゼゾボ、戻っていたのか」

 ダゼゾボは右腕を負傷していた。

 「ふうん、あんたでも怪我するんだな」

 「たまには不覚を取ることもある」

 ダゼゾボはフェットの雰囲気が変わったことに気付いた。身長も随分伸びた。1年も会っていなければこんなものか、と思った。フェットを眺めていたら胸の奥が何やらムズムズする。初めて感じたこの感情が何か、ダゼゾボには全く分からなかった。

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