主君の評価
負傷者たちの応急処置を眺めていたオルロンデムに、アークラスムが近づいてきた。
「終わったな」
「ああ」
「貴公は、伯爵のことをどう思った?」
「武芸はからっきしだが、将軍としては合格じゃねえか?」
「またそのような、不遜な申しようは感心せん」
「お前はどうなんだよ」
「人材の長所をよくわきまえていらっしゃる。活躍できる状況を作って、後は全権を委ねている」
「丸投げしてるだけとも言えるがな」と言って、アークラスムはいひひと笑った。
カーリルン公領の小領主アークラスム家の五男として生まれたドミティアエンは、本来であれば領主になることも部隊指揮官を任されることもあり得なかった。
アークラスム家の長兄の一家臣として、兄の下知に従って槍働きをするのが関の山だ。三男はぼんくら、四男は病弱だったから五男といってもさほどに肩身が狭かった訳ではない。だが長兄の予備としては次兄が控えているので、ドミティアエンに出る幕はなかった。それに2人の兄は実直な性格だったから、村の子供たちと一緒に遊んで庶民風に育ったドミティアエンにとって彼らは実に窮屈だった。
「そういうものだ」と思っていたから特に不幸だとも不遇だとも感じてはいなかったが、退屈さは感じていた。カーリルン公領統一戦争では一騎兵として戦ってそれなりに手柄は立てたが、それだけだった。
それが今では領主になり、部隊を任されている。悪くない。実に悪くない。
君主としてのラフェルス伯は、「楽」の一言だった。領地については「領民と仲良くするんだよ」としか言わなかった。そして今回、初めてラフェルス伯の家臣として戦闘を経験して、「仕えるに値する主君である」と認識した。それを口に出すことは一生あり得ないが。
そんなドミティアエンをオルロンデムは複雑な思いで見返した。ドミティアエンの兄たちは、ドミティアエンにいつもつらく当たっていた。「その言葉遣いは何だ」と言って、彼を激しく打擲しているところをしばしば見かけた。「人前であそこまでする必要はなかろう」と思ったし、だからこそオルロンデムも「言葉遣いを改めろ」と指摘してきた。ドミティアエンが兄たちになじられるところを見たくなかったのである。
一方、オルロンデム家はというと、ここにも問題があった。曽祖父の代に貴族に取り立てられた家系で、それだけに「貴族的であること」に一族は腐心していた。この家の三男として生まれたサルカーテトもまた、貴族的であることにこだわって育った。
兄たちとの仲は表面上は良好だった。だが、自分よりも器量が勝るサルカーテトを、長兄が快く思っていないことは伝わってくる。「疎まれている」と感じながら仲の良い兄弟を演じ続けるのは息苦しかった。「このような生活を一生強いられるのか」。それならばいっそのこと家を出て遍歴騎士にでもなろうかと真剣に考えていた。兄弟同士で殺し合う家もあることを思えば、オルロンデム家は特に不幸とは言えない。「特筆すべき物語のない人生だ」とサルカーテトは思っていた。
それが今では、領主となって異国の軍隊と戦っているのだから人生とは分からないものである。アークラスムの言ではないが、ラフェルス伯は君主としては「合格だ」と思う。
「あの伯爵の下にいれば、愉快な人生を送れそうだ」と言って笑うと、アークラスムもいひひと笑って親指を立てた。
そのとき、背後から「オルロンデム卿、アークラスム卿」と呼ぶ声が聞こえた。振り返るとレンテレテスが居た。
彼は、「2人とも、後で話がある。片付いたら私のところに来てくれ」と言って去っていった。
2人は顔を見合わせて、首をかしげた。




