娼館襲撃事件 その2
裏口には鍵がかかっていたが、ボンキーという少年が奇妙な道具を使って解錠した。盗人だった父親から受け継いだ道具だという。
ここからはフェットが先導した。用心棒らしき男がいたが、背後から迫って左手で男の口を押さえると首に小刀を突きさし、音もなく片付けた。脱出時のことを考えて、まず徹底的に店の者を「掃除」することにした。10人ほど片付けてから、本格的にアドナを探す。運良く、最初の「客室」で客に乗られている最中のアドナを発見した。客は行為に夢中でフェットたちが入ってきたことに気付いていない。フェットは背後から近づいて、男の首をへし折った。
「アドナ、逃げよう!」とゲベンが言って彼女の手を引っ張ると、彼女はその手を振りほどいた。
「逃げるって、どこに行くのさ」
「俺たちの街に戻ろう」
するとアドナは憎悪に満ちた目でゲベンを見ると、「絶対に嫌だ」と拒絶した。貧民街になど戻りたくないと言う。
フェットは面倒なことが嫌いだった。そして、わざわざ助けに来てやったのに拒絶されたことが不快だった。
「ガタガタうるせえよ」と言ってアドナの腹を蹴り上げて気絶させると、寝台の周りに散らばっていた服をアドナに適当に引っかけてゲベンに背負わせた。
だが、店の裏口に向かう途中で娼婦の一人に見つかった。フェットたちと転がっている死体を見て、彼女は絶叫した。その声に驚いた客や娼婦も部屋から出てきて、大混乱になった。
フェットはゲベンたちを先に逃がすと、追ってくる大人たちを片付けながら彼らの後を追った。
「何だか騒がしいね」
騒ぎに気付いたウリセファが窓から外を眺めると、向かいの店から少年たちが転がり出てくるところが見えた。少年の1人は女を背負っている。
「ふん、足抜けかい」
こんな騒ぎを起こすとは、下手を打ったねと彼女は笑った。すぐに捕まって終わりだ。と思ったら、最後に出てきた少年はしなやかな動きで大人たちの攻撃をかわした。首筋を切りつけたのか、大人たちは次々に首から血を吹き出して倒れた。
「へえ、やるじゃないか」
1人で数人の大人を殺して逃げる少年に興味を持ったが、ここからでは遠くてよく見えなかった。それが自分の実の弟であるなどとは、想像すらしなかった。
少年たちを追う大人たちが視界から消えると娼館街は日常に戻り、ウリセファは興味を失った。
ある娼館から出てきた1人の男の前を、少年たちが駆け抜けた。そして、最後尾の少年が目の前を通過したとき、男の記憶が刺激された。
「あの少年……まさか」




