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居眠り伯とオルドナ戦争  作者: 中里勇史
魔手

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41/72

約束

 12月15日、皇帝軍1万とラフェルス・カーリルン軍8000を出兵させる旨の勅令が皇帝によって発せられた。

 皇帝軍は、士爵とその家臣を主体とする騎兵2000と歩兵8000で構成し、フォロブロンが主将を務めることになった。

 エルエンゾが皇帝に進言して容れられたものだった。まさか娼婦に吹き込まれた計画だとは言えないから、自分の案とするしかない。それに宮廷的な美辞麗句を貼り付けて、もっともらしくロレンフスに語った。出兵案など侍従の分を超えた内容であるから、非公式な語らいの場でのことである。

 ナインバッフ公(ケルヴァーロ)だけに事態収拾を押し付けることに疑念を感じていたロレンフスは、すぐに食い付いた。エルエンゾに、無意識に共感し、依存していることにロレンフスは気付かなかった。


 カーリルン公(アルリフィーア)への通達は19日にカーリルン公領のフロンリオンに届いた。同様の通達はラフェルスにも送られていたが、帝都に近いフロンリオンに先に届き、たまたまフロンリオンに滞在していたウィンもここで勅命の内容を知ることになった。

 「これは……帝室の藩屏として働け、ということじゃろうな」

 勅命を読んだアルリフィーアは、勅命の背景を正確に洞察した。ウィンは、やれやれという顔で肩をすくめた。

 「いずれこういうのが来るとは思ってたけどね。オルドナか……」

 「行ったことがあるのか?」

 「オルドナ伯領には行ってないけど、その隣のファッテン伯領には一度。オルドナ水軍も巻き込んで騒ぎを起こして、ナインバッフ公に超叱られたのを思い出した」

 「ウィンはどこに行っても人を怒らせとるんじゃな……」と言って、アルリフィーアはふうとため息をついた。

 「勅命が下った以上、出陣するしかない。ベルウェンに傭兵を集めさせよう」

 「戦場に出るのは初めてじゃ。腕が鳴るのう」

 ウィンは、ぎょっとしてアルリフィーアの顔を見返した。

 「リフィは留守番だ。私が行けば十分だろう」

 「いつも一緒じゃと言ったではないか」

 口を尖らせているアルリフィーアのおでこを中指ではじいて、ウィンは顔をしかめた。

 「リフィには他にも仕事があるだろう。フェルティスを頼んだよ。ついでに、ラフェルスもね」

 「オルドナ伯領は北海に面しとるんじゃろ? ウィンも海を見たのか?」

 「見たよ。というか、突き落とされた。もの凄くしょっぱい」

 「塩でもこぼしたのか。うっかり者じゃな」

 「いや、海はもともとしょっぱいんだ。塩をこぼしたくらいでどうにかなるものじゃないよ、あれは。そして、とにかく広い。大陸も海に浮かぶ島のようなものだからね」

 「大陸が島!? 海とはそんなに広いのか。想像がつかぬ」

 「全くだね。ファッテン伯領は沿岸に小島がたくさんあるからあまり広く感じないけど、見渡す限り海しか見えない場所もあるらしい」

 「何と! 一度見てみたいものじゃ」

 「この戦いが終わったら、一緒に見に行こう。トルトエン副伯(フォロブロン)なら歓迎してくれるだろう」

 「それはよい! フェルティスも連れて見に行こうぞ!」

 アルリフィーアは破顔した。真夏の木漏れ日のような、優しくて柔らかい、そして鮮烈な笑顔だった。




 だが、この約束が果たされることはなかった。

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